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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間43

 幕間43


 「セレトを捉え損ねたようだな。」

 厳かな声で、クルスは目の前に控える部下達に声をかける。

 その力強い言葉、内容、そして彼の声に含まれた不機嫌は、並の者であれば恐れおののくことになったであろう。


 「申し訳ありませんな。いやはや、あそこまで思い切りがいいとは思わず。」

 グロックは、おどけた様な口調で返答をする。


 「ただ、国境を越えたという話は入っておりません。恐らく未だに国内に潜伏されているのかと。」

 ネーナは、無表情に淡々と、されどはっきりとした声で言葉を返す。


 だが両者とも、普段の態度と変わらず平静な態度を返してくる。

 その態度は、共にセレトの件を、そしてこの現状を取るに足らないことと考えているようにも感じられ、クルスを苛立たせた。

 最も、この二人の力は、ここから先必要である以上、無下にするわけにもいかなかったが。


 「それで、どのように挽回をするつもりなんだ?」

 主の傍らに控えていた懐刀、ハイルソンが、主の代わりに強い言葉で二人に問いかける。


 「はっ、あんたが坊ちゃんを倒せていればいい話だったんじゃないですかい?自身の失態を見直してみては如何ですかね。」

 主に対する物と一変した態度で、グロックは、ハイルソンに言葉を返す。


 「傭兵如きが無礼な!貴様のような下賤な者に、者に…。」

 怒りのせいで言葉が出てこないのか、ハイルソンは、震えながらグロックを睨みつける。


 「はっ、聞けば貴公が助けに向かわれた聖女様も、大分負傷をされていたとか。ふん、誰が裏で糸を引いていることやら。」

 グロックの当てこすり。


 「貴様、貴様あああ!」

 ハイルソンは、怒りの叫びと共に武器に手をのばす。


 「控えなさい。グロック。」

 だが、そんな二人の間にネーナが割込み、強い言葉でグロックを制す。


 「ちぃっ…いや、これは失礼致しました。少々頭に血が上っておりました。」

 グロックは、その言葉に我に返ったように落ち着きを取り戻す。


 「ハイルソン様。部下が失礼致しました。」

 ネーナは、ハイルソンの方に向き直り謝罪の言葉を述べる。

 その淡々とした態度には、反省の態度等感じられなかったが、自身の失態もある以上、ハイルソンも下手な反論はできない。


 「あぁわかった。今後は、気をつけたまえ。」

 不満を感じているようであるが、ハイルソンは、渋々とその謝罪を受け入れる。


 「さて、セレトの件に話を戻そう。どう対応すべきと思うかね。」

 そんな部下達のやり取りを眺めていたクルスは、彼らの言葉が一段落を付いたタイミングで声をかける。

 所詮、ネーナに雇われた傭兵に過ぎないはずであるグロックの態度は、予想外のものであったが、いずれにせよ、セレトに対処をするためには、彼らの力は不可欠であろうことをクルスはよく理解していたのである。


 「どうも坊ちゃんは、王国内に逃げ帰った模様ではあります。もう少し行方を絞れれば、私がすぐにでも。」

 ハイルソンは、先の失態を挽回するかのように、力強い言葉でクルスへの進言とネーナ達への牽制の言葉を放つ。


 「ふむ。」

 頷きながらクルスは、思考をする。

 確かに追撃を逃れたセレトは、その部下であるアリアナと共に、本国の周辺に潜伏をしているという情報は、クルスも持っていた。

 最も、それは、確実な情報というわけではなかった。

 国境周辺を中心に張られた警備網に、未だセレトが引っかかっていないという情報から、予測された進路に過ぎない話であった。


 確かに警備網に一切かかっていない以上、セレトが本国内にいる可能性は十分に高かった。

 だが、クルスは、幼少の頃からセレトの異常さを見せつけられていた以上、その内容を手放しで受け入れることは難しかった。


 「貴公らどうだ?」

 クルスは、ネーナとグロックに問いかける。

 その様子にハイルソンは、不機嫌そうに鼻を鳴らすが、それは無視する。

 少なくても、ハイルソンより長い間、セレト共に過ごしていた彼らのほうが、その動きについては詳しいであろう。


 「そうですな。私には予想が付きませんな。」

 グロックは、変わらず、軽薄な態度で言葉を返す。

 最も、元々金を信奉している、忠義など持ち合わせていない傭兵である。

 そんな彼に、必要以上の協力など望んではいなかった。


 「ふむ。ネーナ、お前はどうだ?」

 それゆえ、クルスは、そのまま目の前にいるネーナに問いかける。

 グロックと違い、自身に直に忠誠を誓っているネーナであればこその答えを求めての問いかけであった。


 「はぁ。私には、皆目見当が付きませぬな。」

 だがネーナは、そんなクルスの言葉に覚めた口調で応える。


 「そうかね。」

 その言葉に微かに失望を感じながら、クルスは言葉を返す。


 「ですが、一点だけ。」

 だがそんな主の失望の表情を無視するように、ネーナが言葉を続けていた。


 「あるアサシンが坊ちゃんに送り込まれた模様です。さてどうなることやら。」

 ネーナは、変わらずに淡々とした表情で言葉を続ける。


 「アサシン?なんだそれは?」

 クルスは、慌てた様な表情でネーナに問いかける。


 「さあ?ただ動いているのは我々だけではないようですね。」

 その問いに対し、ネーナは、適当な言葉を返す。


 その冷たい視線を見つめながら、クルスは、目の前のネーナに一瞬恐れを感じる。

 だが、そうであっても、その言葉を無視することをクルスにはできなかった。


 「今すぐに動くぞ。お前の持っている情報を教えてくれ。」

 クルスは、威厳を持った声で、ネーナに問いかける。


 「えぇ。その場所は…。」

 そしてその言葉にネーナが答える。


 このまま進んだ先に何があるか。

 そのようなことを考えながら、今、自身が行うべきことをやるため、クルスは、次の一手を打つことにしたのであった。

 

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