幕間41
幕間41
ガキン。
鈍い金属音が響き渡り、ロットとユノースの刀がぶつかり合う。
刀を鍔迫り合いながら、互いに相手の隙を狙いながら、刀に力を込めあう。
ロットは、相手の出方を探りながら、相手の武器を弾き飛ばそうと、仕掛けるタイミングを計る。
その相手であるユノースは、ロットの力の動きに合わせながら、うまく刀を動かし、その力を受け流す。
「兄さん。そこをどいてくれないか?ヴルカル卿さえ捕えられれば、僕は、何の文句もないんだ。」
無理だと知りながらも、ロットはユノースに懇願する。
正直な話、ロットは、自身の兄であるユノースに勝てるとは思っていなかった。
国内有数の有力の一族の跡継ぎとして、そして、聖女リリアーナの側近として、それ相応の武術は身に着けたつもりであるし、それなりに戦場も経験はしていた。
だがロットは、そのようなユノースが与えられていた後ろ盾も何もなく、ただただ自身の腕のみでヴルカルという大貴族の側近まで登りつめた男である。
なんの地盤もない中、数多の戦場を戦い抜き、生き延びてきたユノースを相手に、ロット程度の腕では良くて善戦、このままいけばあっけなく負けてしまうであろうことは、素人目にも明らかであった。
「ふむ。それは聞けぬ相談だな。あの方には恩がある。」
そういいながら、ユノースは、隙をついてロットの刀を軽く振り払うと、右手に持った刀で軽く一突きを入れてくる。
「だが、彼は国を裏切った。なら、その罰を受けるべきじゃないのか?」
その突きを間一髪でかわしながら、ロットは、反撃を放ちながら答える。
もちろん、その反撃は、ユノースが左手で振るうもう一対の方によって軽く弾かれる。
「罰?この腐った国家に、そんな概念があるとでも?」
ユノースは、笑いながら、ロットの腹に蹴りを入れてくる。
ユノースが発した言葉に気を取られていたロットは、思いっきりその一撃を喰らい、一気に距離を離される。
「腐った国家?」
ユノースの言葉に応えながら、ロットは武器を構えなおしながら、体勢を立て直す。
適当に二本の刀を構えたユノースは、そんなロットに対し、無造作に刀を振るう。
型も何もない、ただただ適当に振るわれているような二対の刀。
だが、その太刀筋は、ロットの刀を封じながら、的確な一撃を返してくる。
幼い頃から、貴族の嗜みとして鍛えてきたロットの剣術に対し、ただただ実践の中で適当に鍛えられた、合理性もなにもないユノースの剣術。
だが、その太刀筋を見切れずに、ロットは、手詰まりに陥るつつあった。
最も、このまま時間をかけるわけにはいかなかった。
ユノースの目的は、あくまでも時間稼ぎ。
ヴルカルが逃げ出すための時間を稼がれた時点で、こちらの負けである。
だが、ロットは、目の前に立つ兄を超えていけるヴィジョンが思い浮かばなかった。
「何、お前も気が付いているんじゃないのか?それともまだかなのか?」
それもいいか。と、言葉を発しながら、ユノースは、ロットに武器を構えなおす。
改めてユノースと向き合いながら、ロットも刀を握る手に力を入れる。
「どうでもいいさ。私が信じているのは聖女だけだよ。兄さん。」
ロットは、笑いながら言葉を返し、再度武器を構えなおす。
いずれにせよ、この状態を打開するためには、ユノースを倒すしかないのであろう。
「そうかね。とっ。」
隙をついて放ったロットの一撃を、事投げもなく止めながら、ユノースは言葉を返してくる。
「私が信じている者を壊そうとしたんだ。その咎は受けてくれ。」
そういいながら、一撃、二撃と刀を振るいながら、ロットは、ユノースに襲い掛かる。
最も、その斬撃は軽くふさがれる。
今のロットの腕では、ユノースとの間には、圧倒的な格の違いがあった。
「ふむ。それなら、いずれまた、その力で私にお前の考えをわからせてくれ。」
ユノースは、笑いながらロットの刀を弾き飛ばすと一気に距離を離す。
同時に振られたユノースの左手の小刀が、ロットの右手に軽い切り傷を負わせる。
「待て!」
叫ぶロットを尻目に、ユノースは一気にこの空間の出口へ向かう。
その背中に向け、待機していたロットの部下の一人が武器を構えて襲い掛かる。
がっ、その部下が放った太刀筋がユノースの首を放つ前に、その部下の首は、ユノースが後ろも見ずに振った刀によって飛ばされることとなる。
「大丈夫ですか。ロット様!」
部下達が慌てて、ロットに近寄る。
「なに。大したことはない。」
そういいながら、ロットは、切られた自身の手の傷を見る。
幸いにも、相手の刀身に毒は塗られていなかったようだが、一見小さい傷ながら、その刀傷は、深い傷を負わしており、当分の間、ロットが刀を握ることを遠ざけることとなりそうであった。
既にユノースは、この場から無事に逃走を成功させており、今更ロットが追いかけたところで、追いつくことはもはや難しいであろう。
そして、ユノースがこの場から離れたということは、第一の目標であるヴルカルは、既に逃走を成功させたとみるべきであった。
そもそも、刀の勝負については、赤子の手をひねるように軽く対処をされてしまい、結果、ロットは、自身の兄との圧倒的な力の差を思い知る。
自身の完全な敗北を実感しながら、ロットは、その悔しさを内に潜め、状況の報告に向かうのであった。




