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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間40

 幕間40


 「急げ。もう少しで国境に出れる。」

 ユノースはそう部下達を叱咤しながら、道を急がせる。


 主君であるヴルカルと、信頼のできる数名の部下、そして急ぎ集めた大きさの割にそれなりの価値がある宝石類。

 決して万全といえない状況で急ぎ逃亡を続ける中、不思議とユノースの心は、迷いがなかった。


 「逃げ切れると思うかね?」

 主君であるヴルカルが、ユノースに尋ねる。

 自身の破滅が後ろから迫っているはずであるが、主君の口調は普段と変わらず、多少の疲労の色こそあるものの、落ち着きをもった堂々としたものであった。


 「難しいかもしれないですな。」

 そんな主君の様子に、ユノースは安堵を感じながら返答をする。


 「すでに追手は放たれているかと思われます。このペースのままでは、追いつかれる可能性が高いかと。」

 だからこそ、ユノースは、現状を冷静に分析をして主君に伝える。


 恐らく、既にヴルカル達の逃亡は、露見をしているであろうし、追手もすでに放たれていると考えるのが自然であった。

 こちらのほうが先を進んでいるのは事実であったが、滅多に使われることもない逃走用の地下道は、かなり荒れ果てており、先々でユノース達の進軍を妨げられていた。

 一方、追手は、こちらが整えた道を利用し、かなりの速度で追ってきているようであった。


 「きひひひ。ポイント8-Uも通過された模様ですな。先程より距離が大分詰まっているようですな。ひひひひ。」

 そんな追手の様子を、道々に探知魔法を設置したユラがいつもの様子で伝えてくる。


 その様子を憎々しげに見つめながらも、彼女に何かを言うこと自体が無駄と考え、ユノースは何も言わずに思考を巡らせる。

 先行をしている利を生かして、罠を仕掛けながらの逃走も考えたものの、中途半端な罠を仕掛けたところで、大した被害も与えられず、無駄に終わることは明らかであった。

 むしろ、そのような時間を逃走に充てたほうが逃げ切れる可能性が高いと考えていたが、相手の距離は縮められるばかりであり、もう追いつかれることも時間の問題であることを、ユノースは、薄々感づいていた。


 そのような状況下、ユノースは目の前を歩く、自身の主君、ヴルカルに拾われた恩義を考える。

 妾腹の私生児。

 由緒ある貴族の血筋に名を連ねることを許されず、ゴミのように扱われた日々。

 そして、正妻の子の誕生に伴い生じた、後継者をめぐるお家騒動の旗印として利用をされ、同時に敵も増え、暗殺者達に狙われ続けた日々。

 そんな全てに嫌気をさし、何もかも捨てて逃げ出した時。

 その後、傭兵として戦功を立てている自分を見出し、同時にその生まれを知りながら、敵対者の子でありながらも、拾い上げてくれた現在の主君、ヴルカル。


 そんな主の恩義に報いるのは、今以外にないであろう。


 「閣下。先にお進みください。」

 そう考えたユノースは、やや広い空間に出たタイミングで立ち止まり、主君に淡々と話しかける。

 刀を振るうのに十分な広さがあり、先に進むための道は、人一人が通れるぐらいの幅しかない、まさしく足止めに適した場所であった。


 「ほう。策はあるのか。」

 ヴルカルは、そんなユノースを見つめながら、愉快そうに問いかけてくる。

 追われる立場であり、既に破滅へのカウントダウンが始まっている状況でありながらも、それを微塵も感じさせない堂々とした姿勢。

 思えば、その器の大きさに惚れ込んだのであった。


 「はい。お任せください。」

 そんな敬愛する主のため、ユノースは、武器を構え戦いの準備を整える。

 この場で粘り続ければ、自身の主が逃げ切る時間ぐらいは稼げるであろう。


 そんなユノースの様子を笑みを浮かべながら見つめると、ヴルカルは、そのまま先に進む。

 二人の様子を見つめていた部下達も、慌てたようにヴルカルの後を追って次々と先に進んでいく。


 「きひひひ。どうぞお楽しみください。」

 そして一番最後となった一人、ユラがいつもの様子で笑いながら立ち去る。


 「けけけ。敵は、18人。今ポイント9-Iを通過。そろそろこちらに到着しますな。」

 最後にそう言い残し、いけ好かない魔女は、立ち去った。


 ユラの話が本当であれば、もうすぐ敵の一部隊が訪れるのであろう。

 何人を葬れるだろうか。

 そう考えながら、ユノースは、戦いの準備を整える。

 気持ちは、不思議と落ち着いていた。


 ガチャガチャという鎧の音が、先程まで進んできた道から聞こえる。

 追手の第一陣が、こちらに向かっているのであろう。

 ユノースは、武器を構える。


 「あれは、おい、お前!」

 広場の反対側の入口より入ってきた兵士の一人が、ユノースに気づき声をかける。

 だが、その二の句を継ぐ前に、兵士の顔には、ユノースが投擲した短刀が深々と刺さり、そのまま兵士は言葉を発することなく絶命をする。


 「敵だ!」

 続いて入ってきた兵士が、大声で後方に警戒の合図を送ると、刀を構えて一気にユノースに向けて突っ込んでくる。

 だが、その兵士の振るった刀をユノースの操る刀は、軽々と払い、そのまま降られた一刀で、兵士を切り伏せる。


 「くそ、ひるむな。」

 次に入ってきた兵士が、周囲の味方を奮い立たせながら、一斉に攻め込もうと互いに位置を調整しながら距離を詰めてくる。

 最も、決して広くはない空間である。

 敵が何人いようが、一度に攻め込める人数が限られている以上、ユノースにも十分に勝機はあった。


 そして、そんな考えの通り、一斉に攻め込んできた敵兵士達は、ユノースが振るう刀で、あっという間に倒されることとなった。

 腐っても、大貴族の懐刀。

 そこいらの雑兵に負けるほど、ユノースの実力は低くはなかった。


 そして、そんなユノースに恐れをなしたのか、後続の敵が、距離を置いて止まった瞬間、そいつは現れた。


 「えぇい!どうした!敵の足止めか!」

 苛立ちを隠せない声で、一人の男が部下を押しのけ前に出てくる。


 「その、手強い相手でして、簡単な正面突破は難しいかと。」

 一人の兵士が、おずおずと言葉を返す。


 「愚か者が。たかが、一人の敵を倒せぬような醜態、納得ができるか。」

 そんな顔見知りの男、恐らくこの場で一番偉く、敵の部隊で、今一番歯ごたえのある男の登場に、ユノースは、舌なめずりをしながらも、気持ちを落ち着ける。


 その男、リリアーナの懐刀でもあるロットの登場を、笑みを浮かべながらユノースは、出迎える。


 「久しぶりだな。」

 ユノースの声を聞いたロットは、慌ててこちらを見る。

 そして、無言のまま武器を構え、しばらくユノースを睨みつけてから、口を開いた。


 「久しぶりだね。兄さん。」


 その言葉に呼応して、ユノースとロットは、一気に互いの距離を詰めた。

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