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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第三十九章「追手」

 第三十九章「追手」


 「思ったよりやられたか。」

 人目を逃れ、森の中で自身の身体を癒しながら、セレトは一人呟く。

 聖女リリアーナ、そして父親の懐刀であるハイルソンの両名との死闘は、予想以上の消耗を彼に強いた。


 魔力の開放によって、新たに得た力の代償と考えていた身体の痛みも、落ち着いて身体を休めてみると、それだけでないことがわかる。

 リリアーナや、ハイルソンの攻撃によって、予想以上に痛めつけられた自身の身体を癒しながら、セレトは次の一手を考える。


 そう考えながら、セレトは自身の身体を駆け巡る魔力の動きを制御しようとする。

 身体の崩壊こそ止まっていたが、魔力の暴走はいまだに止まらず、セレトの身体を痛め続けている。


 最も、この痛みと共に溢れてくる力、魔力のうねりも、同時に実感をしていることも事実であった。

 この力を活用し、生き延びる。

 それが、現在セレトが今一番の目標であり、目下の行動指針であった。


 だが、同時にセレトの頭は、現在の状況を冷静に分析する。

 リリアーナ、ハイルソン。

 この両名との闘い、そして両者ともに倒すことはできずに逃がすこととなった結末。


 あの後、逃げたであろうリリアーナを召喚術等、自身が使えるあらゆる手を使って追いかけたが、結局、彼女を見つけることはできなかった。

 恐らく、既にあの場から離れたリリアーナは、本隊と合流したであろう。

 そして、自身が行ってきた悪事、聖女の暗殺という一大スキャンダルも、既に白日の下に晒されたのであろう。


 自分のような一貴族が私利私欲のために、有力な貴族を害する。

 陰謀とは、表に出ずにいるからこそ、罰せられずに成り立つものである。

 表に出てしまった陰謀は、もはや陰謀にあらず、一つの罪として、この国において、自身を捌く材料となるであろう。


 ふと、ヴルカルという自身の後ろ盾のことを考えるが、彼を頼るという選択肢はすぐに頭の中から消える。

 任務を失敗した、弱小貴族の鉄砲玉等、すぐに切り捨てられるであろうことは、火を見るよる明らかであった。

 恐らく今頃、自身との繋がりの痕跡を完全に消すための工作が始まっているであろうことは、想像に難しくなかった。


 では、自分は、ここからどうするべきか。

 そう考えたセレトの頭を、亡命という単語がよぎる。


 すでにこの国での立身出世は望めないであろう。

 いや、むしろマイナスに振り切り、最早、自身の命も危険な状況である。

 そうであるなら、少しでも自身のこの腕を買ってくれる他国に、この国の機密情報を手土産に自分を売り込んだほうが、幾分ましな人生を送れるであろう。


 だが、同時に自身を受け入れる国があるだろうか。

 そう考えながら、セレトは、軽くため息をつく。

 悪名高い敵国の幹部。

 そしていくら情報を持っているとしても、元の国で獅子身中の虫ともいえる存在であった男。

 また裏切りを行う可能性が十分にある魔術師。


 自分が、国のトップであればまず受け入れないであろう、自身の状況を鑑みながら、セレトは苦笑をする。

 最も、セレト自身、それなりにこの国の暗部に触れてきた男ではある。

 そのような情報に利用価値を見出されている間は、処分はされないであろうか。


 そこまで考えて、セレトは、呆れたような溜息を吐く。

 自身の死を前提とした、後ろ向きな考えしか浮かばない自身の状況に嫌気がさす。


 嫌われ者魔術師、セレト。

 多くの者に忌み嫌われ、不当な扱いを受けながらも、自身の力でその道を切り開いてきた男。

 今、その道がふさがれたというのであれば、再度自身の手駒と力を見直し、それらを活用して生き延びる道を切り開くのみであった。


 ならばこそ、すぐにこの場所から離れ、自身のこれからのための方針を決めて行動をするべきであろう。

 そう考え、セレトは立ち上がり、次の行く先を真剣に考え始める。


 「セレト卿ですね?お迎えに上がりました。」

 だが、そんなセレトの思考を遮るように、急に彼に声をかける不届き者がいた。


 「ハイルソン様から連絡が入っております。セレト卿、武器を下し投降してください。」

 ハイルソンから連絡が入ったのであろうか。

 四人の小隊、その中の隊長格の男が、こちらに部下達ともに武器を向けながら声をかけてくる。


 セレト自身が見覚えがないということは、少なくともハイルソンや、父親の直属の部下ではないのであろう。

 最も、ハイルソンとの繋がりを示したということは、ハイルフォード王国所属の兵士達なのであろう。

 そのような者達が、こちらに武器を構えているということは、もはや自身の立場は、相当に悪いこととなっていることは明らかであった。


 「貴公には、リリアーナ卿の殺人未遂、国家反逆罪の容疑がかかっております。大人しく投降を頂ければ、当面の身の安全、貴族としての身分の保証、裁判を受ける権利を認めましょう。もし投降を頂けないのであれば、残念ながらこの場で実力行使をさせていただくこととなります。」

 武器を構えながら、隊長格の男は一気にまくしたてる。

 最も、その言葉は、義務感のみで発せられており、言葉と裏腹に、セレトとの戦いを望むような態度を彼らは見せていた。


 そんな様子を見ながらセレトは、周囲の気配を油断なく探る。


 「どうしますか、セレト卿。」

 反応を見せないセレトに対し、少々苛立った態度で隊長格の男が言葉を再度投げかける。


 「その後ろの森に六人、私の後ろに八人。少し距離を置いて、別に十九人。」

 そんな様子を見ながら、セレトは、言葉を放つ。


 「何を言っているのですか?」

 隊長格の男は、少々焦ったように言葉を返す。

 周囲の兵士達もその言葉に顔を見合わす。


 「君達四人を合わせて、計三十七人。いやはや、私一人に大した人数だな。」

 皮肉を込めた言葉づかいで、セレトは、目の前の男達に言葉を放つ。


 「それだけ、貴方を警戒しているのですよ。さて、この人数に対して、無駄に抵抗をする必要がありますか?」

 落ち着きを取り戻した隊長格の男は、冷笑を浮かべながら返事をする。

 確かに、それなりの使い手に包囲をされているこの現状は、以前のセレトであれば、もはや絶望的な状況ではあった。


 「あぁ。そうかもな。」

 そう応えながら、セレトは、両手を前に突き出し、戦闘の準備を整える。

 魔力を籠めながら、目の前の四人、そして周囲から殺気を放ちながら迫ってくる敵達を牽制する。


 「そうですか。残念です。」

 隊長格の男は、喜色を浮かべた声色で戦闘態勢をとる。


 その様子を見ながら、セレトは、自分が不思議と落ち着いていることを実感する。

 身体の崩壊こそ止まったが、未だ体中を暴走を続けている自身の溢れてくる魔力。

 この力を手に入れた今、目の前の兵士達等、何名いようとも、もはや相手にはならないであろう。


 「死ね!」

 周囲の気配が一気に動く中、目の前の四人が一気に襲い掛かってくる。


 隊長格の男が、目にもとまらぬ速さで刀を抜き、こちらに切りかかり、彼の周囲に控えていた三人が一斉に手に持った銃でこちらを撃ちぬく。

 だが同時にセレトが放った魔力の影が相手をとらえ、そのまま隊長格の男の頭を潰す。

 そして同時に、周囲の気配が一斉にこちらに向かってくることを感じながら、セレトは一気に魔力を開放した。


 「に、逃げろ。」

 そう言いながら背を向けた兵士に向け、錬成した闇の剣を投げつける。

 放たれた剣は、その兵士の後頭部に刺さり、そのまま兵士を絶命させる。


 今のが、最後の一人だったのだろう。

 周囲に気配を感じないことを確認して、セレトは一息をつく。


 周囲には、自身に襲い掛かってきた兵士たちの死体が転がる。

 大した苦労もなく、多くの兵士たちを屠ったセレトは、その様子を軽く一瞥すると、そのまま歩を王都に向け、その一歩を踏み出した。


 いずれにせよ、もう王国には戻れないであろう。

 そうであるならば、最後に自身のやりたいように一花咲かせるのも悪くはない。


 その眼に狂気を宿しながら、同時にどこか喜びを感じながら、セレトは、自身の疑問の答えを探して動き出す。


 なぜ、自分がこのような状況に陥ったのか。

 なぜ自身の企みをハイルソン達は、知り得たのか。


 何かが真実で、何が偽りか。

 セレトは、自問自答を繰り返しながら、静かに動き始めた。


 第四十章へ続く

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