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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間38

 幕間38


 「どうしてこうなったんだろうな。」

 誰かに語るわけでもなく、ヴルカルは、自身の屋敷の一で、柔らかすぎるソファーに腰掛けながらぼやく。


 本国に戻り早一か月。

 だがこの一か月の間に、ヴルカルが置かれている状況は大きく変わりつつある。


 「戻りました。」

 部屋のドアを丁寧にノックをし、自身の腹心たるユノースが、数名の部下を引き連れ部屋に入ってくる。

 その表情は、部下共々に深い疲労が見て取れた。


 「あぁ。ご苦労。」

 心ここにあらずの声でヴルカルは、彼らを労いながら首を向けて報告を促す。


 「状況は変わらずです。」

 ユノースは、疲れと共に吐き出された声で応える。


 「聖女の件、先の出兵の件、様々な出来事の責任が、我々古王派の陰謀とされつつあります。恐らく教会派が裏で糸を引いているに違いありません。」

 ユノースが苛立ちを隠さずに放った言葉をよく租借し、ヴルカルは考え込む。


 そう、今ヴルカルは、この国の中で非常に危うい立場に置かれつつあった。


 本国に帰国当初よりヴルカルは、自身に向けられる視線の変化には気が付いていた。

 どこか余所余所しい、こちらを避けるような周囲の態度、だが、ヴルカルは対して気にすることはなかった。

 なんせ自身は、先の戦の失敗の責任を負わされ、本国に戻された男である。

 そのような状態の自身に対し、傍観の姿勢で成り行きを見る。

 それ自体は、決しておかしいことではないし、そのことを一々咎めるつもりもヴルカルにはなかった。


 所詮、王国内の陰謀に巻き込まれ形での本国への帰還である。

 多少の批判こそあるものの、ヴルカル自身がこの戦において、大きな失態は冒していない以上、そのマイナスは決して大きいものではなく、しばらくすればこの状態も改善されるだろう。

 そのように考えていたヴルカルは、特段特別な措置を講じずに状況の推移を見守ることにしたのである。


 だが、そのような甘い見通しは、本国への帰還から一週間後、すぐに頭の中から消えることとなった。


 現在、敵国で行方不明となっている聖女、リリアーナ。

 国の重要人物である聖女が生死不明になるというこの状況に、ヴルカルが絡んでいるという噂。

 その噂は、公然の秘密のように扱われており、ヴルカルがその状況に気がついいたときには、既に国中に蔓延をしている状況であった。


 最も、国家の上層部より未だに音沙汰はなく、ヴルカル自身を公に攻めるような状況ではない。

 ただ、ヴルカルが敵対する派閥、教会派の弱体化のため、その有力メンバーである聖女リリアーナの排除を目論んだであろうという疑いを持っていることを露骨に匂わせており、その疑いは、徐々にヴルカルを追い詰めつつあった。

 そのため、今やヴルカルと古くから付き合いがある知り合いも、自身が属している古王派の貴族達も、ヴルカルとの接触を露骨に避け始めており、結果、この繋がりが必要な貴族社会から、ヴルカルは孤立しつつあった。


 もちろん、ヴルカルも手をこまねいていたわけではない。

 自身の部下達を動かし、状況の打開に動いてはいたのである。

 最も、初動の遅れに加え、既に徹底的に行われた教会派の工作により、ろくな成果は見込めない状況ではあった。


 だがヴルカルを最も失望させたのは、本国に帰国後にもたらされたある情報であった。


 一連の騒動、特に聖女暗殺事件の裏には、かの嫌われ者の魔術師、セレトが関わっているという噂。

 証拠もない、当事者であるセレトもリリアーナも行方不明であり、真偽は全くの不明。

 そうでありながらも、どこか真実であるかのように語られ続ける、セレトの暗躍。


 ヴルカル自身が疑われている事実、そして決して誤りではない、セレトという存在が関わっている各種凶行。


 この状況が、これ以上進んだ場合、ヴルカルの身に待ち受けているのは、破滅、それとも不名誉な汚名を着せられた上での破滅となりうることは、十分に予測ができた。


 「ユラは、どうしている?」

 不快な現実を、頭の片隅に追いやりながら、ヴルカルは、ユノースにもう一人の側近の名前を告げる。

 気狂いの類ではあるが、彼女の強大な力は、今この場において頼りたいもののひとつであった。


 「私と別行動にて、単独で動いております。」

 ユノースは、疲れた表情で、興味がなさそうに話す。


 その言葉にうなずきながら、ヴルカルは窓の外を見ながら考え込む。

 ユラの単独行動は、このところ特に増えてきていた。

 もともと、その性質もあってか、単独行動も多く、気が付いたらいなくなっていることも多い部下ではあった。

 だが、このように自身が追い詰められているこの状況下において、動きを把握できていない部下の存在は、ヴルカルの不安を余計に増幅させていた。


 ここからどうするべきか。

 この王国での逆転を目指さず、逃げるのもまた一考の価値があるかもしれない。

 そのようなことを考えながら、ヴルカルは、次の一手を考え続けている。


 「きひひひ。大分追い込まれておりますな。ヴルカル様。」

 だが、その思考は長く続かなかった。

 自身の思考と不安の大半の原因であったユラが、いつもの不愉快な笑みを浮かべながら部屋に入ってきたのである。


 「なんの用だ。ユラ。」

 最もヴルカルは、そのことを咎めず、どこか疲れた声と表情で問いかける。

 彼女から、ろくな回答等、得られないことは重々に承知をした上での回答であった。


 「何。少し面白い情報が入りましてね。ご報告にと。」

 ユラは、ふざけた態度を少し抑えながら、ヴルカルに報告を始める。


 「どうも、セレト卿の動きが大分漏れているようですな。」

 ユラは、少し含み笑いを見せながら語る。

 「それは、知っている。貴様が遊んでいる間に、我々が調査をした、もっと言えば、その手の話は、今のこの国であればどこでもすぐに取得できる情報だ。」

 そんなユラの言葉を、ユノースは、吐き捨てるような態度で切り捨てる。


 「おやおや。すでにご存知でございましたか。」

 ユラは、おどけながら、ユノースの言葉に応える。

 ヴルカルは、そんな二人のやり取りを適当に聞き流す。


 「なら、この情報はいかがですか?ユノース卿は、実の息子の処断を求めたようですな。」

 ユラは、笑いながら次の言葉を放つ。


 「セレト卿の暗躍内容を、国家上層部に報告。どうも、鼠が所々に紛れていたようですよ。」

 ユラは、調子を変えずに話を続ける。


 「その鼠は?」

 ヴルカルは、ユラに強く問いかける。

 彼女の述べる、鼠の存在は、薄々とヴルカルも気が付いていたが、その正体までには、まだたどり着いていなかった。

 五里霧中の現況、少しでも何らかの情報が欲しかった。


 「あぁ。それは、」

 ユラは、笑いながら、事投げにセレトについていた鼠たちの名前を告げた。


 「そうか。わかった。」

 その名を聞いた、ヴルカルは、一瞬考え込む。

 状況は、予想以上に、見た目以上に悪くなっているのであろう。

 目の前にいるユノースも、そんな主と同様の危惧を感じたらしい。


 「すぐにここを引き払うぞ。」

 それゆえ、ヴルカルは、すぐに結論を出す。

 いずれにせよ、このままでは、自身の破滅にしかつながらないのは明白であった。


 そして、ヴルカルは、秘密の通路を使い、部下達ともにすぐに屋敷を立ち去った。

 屋敷を離れる中、恐らく今も戦い続けてるであろう、セレトのことを少し考えたが、それもすぐに自身のこれからのことを考える中で、頭の奥に消えていくこととなった。

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