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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第三十六章「聖女と呪術師」

 第三十六章「聖女と呪術師」


 「どういう気分だね。リリアーナ卿。」

 セレトは、笑みを浮かべながら倒れてるリリアーナの顔を蹴り飛ばす。

 リリアーナは、痛みをこらえるように顔をしかめながら、されど声を立てずにその一撃を受ける。


 そんなリリアーナの様子を見ながら、セレトはほくそ笑む。

 自身の宿敵だった女が、今、自分の足元で抵抗もできず嬲られている。

 その命を、自身が握り、自由にもて遊べる。


 これまでリリアーナに何度も苦汁を飲まされていたこともあり、セレトにとってこの一時は、他では得ようのない幸福を感じさせるのであった。


 「この悪趣味な呪術はなんなの?」

 気分が悪そうな声でリリアーナが問いかけてくる。

 その指先は、彼女の胸から生えている黒い腕に向けられていた。


 「何、私からのプレゼントだよ。」

 本当は、あのユラのようにバカみたいに声をだし、ネタをバラし、彼女を笑ってやりたい気分であった。

 だが、まだ時間はある。

 そうであるなら、無理に情報を与え、楽しみを減らす必要もないであろう。


 リリアーナの胸から生えた黒い腕は、瘴気を発しながら、ただ不規則に動き続ける。

 その様子をリリアーナは苦しそうな表情で見つめ、セレトは、その様をせせら笑いながら見つめる。


 時折、リリアーナが魔力を籠め、その黒い腕に向けて解呪と思わしき術式を当てている。

 最も、その術式は、効果を発することなく霧散する。

 だが、リリアーナは諦めることなく、自身が放てる様々な魔術を試し続ける。

 

 その様子を見ながらセレトは、リリアーナにとどめを刺すため、剣を抜き、一歩彼女に近づく。

 もはや勝負はついていたが、相手は聖女と称される、国一の使い手である。

 これまでの恨みも込め、苦しむ彼女を見続けていたいという気持ちもあったが、相手を下手に生き永らえさせることで、余計なチャンスを与えるつもりは毛頭もなかった。


 「終わりだよ。リリアーナ卿。」

 口元に笑みを浮かべながら、セレトは、その刃を振り上げる。

 リリアーナは、殺気を籠めた強い目付きでこちらを睨みつける。

 その視線を受け流しながら、セレトは振り上げた刃をその首に向けて一気に下す。


 バキン。

 だが、振り下ろされた刃は、彼女の首の手前で弾かれ、その刃が首を断ち切ることはなかった。

 リリアーナが残り少ない魔力で張った結界術が、セレトの攻撃を防ぐ。


 一見、簡単に突破をできそうな結界ではあったが、聖女、リリアーナの魔力が込められたその壁は、常に再生を続けており、正面から破壊するには、少々骨が折れそうであった。


 最も、セレトjは、そのような状況に慌てることはない。

 リリアーナの胸から生えた腕は、成長を続けているのを眺め、にやりと笑う。

 いずれにせよ、このまま状況が進めば、セレトの勝利は確実であった。


 「この腕の、いや、術の正体に気が付いたよ。」

 そんなセレトの耳に、リリアーナの言葉が届く。

 その言葉に反応し、セレトは、視線を彼女に向ける。

 恐らく、その表情は、きっと信じられない物を見つめる表情であったであろう。


 「単純な召喚術でしょ。私の身体を触媒にした。」

 苦しそうな表情を浮かべながらリリアーナは、セレトに言葉を吐き捨てる。


 その言葉を受けて、セレトは、驚きの表情を浮かべる。

 リリアーナの述べた推論、彼女の身体に発生している異変の正体は、確かに彼女がいう通り、彼女の身体を媒体とした召喚術であった。


 時間経過とともに、彼女の生命力と魔力を吸い、彼女の身体を触媒に、異世界の存在を現世に呼び出す魔術。

 その召喚により、彼女の存在を完全に抹消することが、セレトの目的であった。


 「大したものね。こんな方法で私を殺しに来るなんて。でもね、タネが割れれば、なんとでも対応はできるわね!」

 そう話しながら、リリアーナは、呟くように解呪のスペルを唱えると、その魔力が籠った指先を、セレトが生み出そうとしている存在、黒い腕に向ける。


 一瞬、閃光が周囲を包み込む。

 このスペルと、彼女の魔力が合わされば、並の存在は、現世に現れることもなく消失することであろう。


 だが、リリアーナの放った魔力は、効果を発することはなかった。


 「くくく。タネが割れれば、何だって?」

 その様子を見ながら、セレトは、サディスティックな笑みを浮かべながら、愚弄の言葉をかける。


 「なんで?いや、まさか…。」

 リリアーナは、困惑を見せながらも、瞬時に現状に気が付く。


 「ただの魔族程度の召喚であれば、今の解呪で消し去れるはず。セレト、貴様もしや!」

 その美しい顔を驚きと、怒りでゆがめながら、リリアーナが叫ぶ。


 「おや、本当のタネが割れたかね?それで貴公はどうする?」

 そんな彼女の様子を意に介さない態度で、セレトは言葉を返す。


 「ふざけているのか?!貴公は一体何を呼び出そうとしているのか理解をしているのか?」

 リリアーナは、もはや形振りを構わずに、強い言葉でセレトに問いかける。


 「何って?それなりに使い勝手のよさそうな手駒だよ。」

 セレトは、笑いながら言葉を続ける。


 「そう貴公達のいうところ、魔王とかいう存在だよ。」

 ようやく隠していた情報を開示し、聖女の表情が絶望にゆがむのを見ながら、セレトは愉悦に満ちながら、最上の笑みを浮かべる。


 そう、自身が呼び出そうとしているのは、この世界において忌まわしき存在とされている中で最上とされる存在。

 たとえリリアーナ程の使い手が自身の持つ魔力をつぎ込もうとも、そう簡単に対処をされるはずはなかった。


 「貴公は狂っている。」

 リリアーナは、セレトの顔に軽蔑の視線を向けながらぼやく。


 「セレト、君が呼び出そうとしている存在は、決して貴公の手駒となり得る存在ではない。」

 淡々とリリアーナは、セレトに対し言葉を紡ぐ。


 負け惜しみだ。

 セレトがドッペルゲンガーを使い楔を打ち込み、長い時間をかけて練りこんだ一つの呪術。

 彼女の体内で時間をかけて、生み出された向こうの世界との繋がり、そしてその繋がりを利用してこの場に生み出される存在。

 それは、すべてを失いつつあるセレトの逆転の一手と十分なり得るであろう。


 「いいや。それは無理だよ。セレト卿。」

 だが、そんなセレトの思いを遮るように、リリアーナが言葉を発する。


 「セレト、君がどうして、いやどうやって私の身体にこいつを埋め込んだのかは知らないが、だがね、今この身にこいつを宿しているから、この身を通じてわかることがある。」

 リリアーナのその声色、セレトに対する明らかな強い哀れみが込められた声は、セレトを非常に不愉快にさせる。


 「こいつは、決して君の手に負える存在ではないよ。唯々、君を、そしてその周囲を破滅に導くだけの存在だよ。」

 リリアーナは、セレトに軽蔑的な視線を向け、かつ哀れみを籠めた声を放ってくる。


 「うるさいよ、聖女様。」

 不機嫌そうにセレトは、言葉を放ちながら、彼女の顔を蹴飛ばす。


 「貴公は、既に負けた。そして私の成り上がりのための餌となってくれ。」

 そう吐き捨てながら、セレトは、より強い魔力を籠める。

 リリアーナの身体から生えている腕は、セレトの魔力に呼応するように、より強い動きを見せ始める。


 「こいつは、確かに強大な存在でね。だが、その分こっちに来るのに時間がかかるんだ。」

 苦しそうにするリリアーナを見下ろしながら、セレトは薄ら笑いを浮かべながら話しかける。


 「だがね。その分、苦しみは長く続く。せいぜい楽しんでくれたまえ。」

 そうセレトは言いながら、次の段階を考える。


 リリアーナの身体に埋め込まれた楔が形を変え、生み出された召喚術式。

 そしてそこを通って生み出される自身の新たな手駒足りうる存在。


 それが生み出されるまで、今しばらく時間はかかるだろう。

 だが、これが生み出されるとき、魔力を吸いつくされ聖女は力尽き死に、そしてセレトは、次の一手をに進むための強大な力を得ることとなる。

 こいつが手に入った時、セレトは、ようやくこの世において生を受けたと実感できるようになるであろう。


 「私はね、貴公に特段恨みがあったわけじゃない。」

 ふと、倒れて苦しんでいる聖女を見ながら、セレトは、言葉を出す。

 自身の残り少ない魔力で身を守りながらも、万策尽き、失望が表情に浮かんだ彼女を見つめている内に、自分の考えを語りたいような不思議な欲求が彼の中にあふれていた。


 「別段、貴公と極端な対立をしているわけじゃなく、また周りの思惑はどうあれ、貴公と直接敵対をしていたわけじゃないしね。」

 考えながら、思いを呟くように、セレトは言葉を続ける。


 「だがね。貴様が嫌いだった。ただそれだけだったんだよ。」

 そして吐き捨てるようにセレトは言葉を放つ。


 「聖女として周りに持て囃され、同時に正論ばかりを述べ、私の前に立ちはだかる貴様がな。」

 一度出始めた言葉は止まらない。

 セレトの憎悪は、声となり、彼の口から出続ける。


 「あぁそうだ。だから、ここで君に死んでほしいんだろうな。私は。」

 そう話しながら、セレトはリリアーナを見つめる。

 リリアーナは、そんなセレトに対し、哀れみを籠めたような視線を返す。


 「だから、私を殺すのかい?ヴルカルと手を組んで。」

 そしてセレトに対し、リリアーナは、声を絶え絶えに言葉を返す。


 「なんだ、知っていたのか。そうだよ。だから、私はあの男と手を組んだ。私に機会を与えてくれたからね。」

 リリアーナの言葉に対し、セレトは、笑いながら言葉を返す。

 彼女が述べた言葉の意味など、もはやセレトにとってどうでもよかった。


 「愚かだね。セレト。」

 そんなセレトに対し、彼女は、言葉を返す。


 「自分から沼にはまりに行っているだけだよ。君は。それだけの力を持ちながら、落ちるだけ。もう、救えないのかな。」

 聖女は、彼を苛立たせるような言葉を返す。


 だが、そのような言葉はどうでもよかった。

 すでに、大勢は決しているのであった。


 後少しで、彼女の身体を媒介に、自身の新たな手駒が手に入るであろう。


 「だから、貴方は愚か者なのです。」

 突然、男性の声が響く。


 セレトがその言葉に驚いているうちに、リリアーナの身体から生えている腕に刀が突き刺さる。

 その瞬間、既に現世への干渉を始めつつあった、その存在が霧散をする。


 自身の傑作を無に帰されたことにセレトが驚く。


 「さて、言い逃れがあるのでしたらどうぞ。」

 刀を投げた主、自身にとって聞き覚えのある声の持ち主は、セレトとリリアーナの間に立ちふさがる。

 その手に構えられた武器は、セレトに向けられている。


 「堕ちましたな。坊ちゃま。」

 いつも通りの笑みを、自身の主の子供に向けながら、同時に射るような冷たい視線を向け、セレトの父親の側近、ハイルソンが声をかけてきた。


 第三十七章へ続く

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