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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第三十三章「狐狩り」

 第三十三章「狐狩り」


 「何だこいつらは?!」

 「助けてくれぇ…。」


 断末魔、叫び声を自身が展開した術式で聞き取りながら、セレトは、状況の確認を続ける。

 セレトが展開した術式によって生み出された存在、彼が『ミニオン』と呼んでいる漆黒の異形の者達は、四方八方に散らばりながら聖女の探索を続けていた。

 時折、誰かと遭遇するたびに、無慈悲にもその命を奪いながら先へと進み続けていくその存在に、軽蔑と憐れみを込めるような思いを向けながら、セレトは状況の推移を見守っていた。


 所詮は、セレトが生み出した魔法生物に過ぎないこの存在は、セレトの命に従って、唯々愚直に任務を遂行するだけの存在であり、セレトが供給した魔力が切れれば、そのまま霧散していくような使い捨ての斥候に過ぎなかった。

 彼らは、各々最初に指示された方向へと向かい続ける。

 セレトの魔力で作られているが故、何かあればその魔力を通してセレトも状況を把握でき、聖女と遭遇すれば、すぐにその位置、状況を確認できるはずであった。


 だが、各方面へ多数の斥候を放とうと聖女リリアーナの尻尾も掴めないこの状況は、セレトに自然と焦りを感じさせていた。

 時折出会うクラルス王国の兵士、村や町に住んでいるような一般人を虐殺させるだけの状況が続くことは、必然的に虎の尾を踏む可能性が高まるということである。

 現状、特段手強い相手と出会ってこそいないが、この状況が続き多くの被害を生み出すことで、敵の大軍を呼び出す可能性もあり、あまりこの状況を続けることは得策ではなかった。


 しかし、セレトは既に賽を投げていた。

 動き出した術式を止めるには、既に時間は経ちすぎており、クラルス王国内に様々な被害を与えている以上、ここで手を引く事こそ最も悪手であろう。

 そのように覚悟を決めたからこそ、自身が生み出した斥候達が上げてくる報告を集め、次の動きを判断しているのであった。


 ここが主戦場から離れた辺境のエリアであるが故か、それとも現在進んでいる和平交渉の影響か、現状、遭遇する敵軍は数が少ない小隊ばかりであり、また、村や町においてもこれといった反撃にあうこともなかった。

 セレトが生み出した魔法生物達は、魔力の塊でできた身体を力任せに振るい、生物でないがゆえに出せる力によって、遭遇する者達の命を奪っていった。


 最も、その力がいつまでも続くわけではない。

 動くたびにセレトに込められた魔力をどんどんと消費し、場所によっては敵の反撃により損傷した身体の再生に魔力をより消費し、最終的には、魔力が尽きて消えていく存在である。


 セレトは、その損耗度合いを見ながら、部隊の配置や進行方向を考える。

 いずれにせよ、現状、セレトは、聖女の痕跡の一つすら見つけることが出来ずにいたが、聖女が後方に控える味方と合流した様子もない以上(もし、後方の部隊に動きがあれば、セレトの部下であるアリアナから、すぐに連絡が入る筈である)、現在聖女はクラルス王国の領土内を移動しているはずであり、その聖女を捉えること自体は、決して不可能な話ではないはずであった。

 そして、手駒は、セレトの魔力が続く限り増やすことが可能である。

 このまま部隊を展開し物量で聖女を見つけだし、あわよくば、そのまま葬り去れればと考えながら、セレトは、次の一手を考える。


 現状、唯々町や村を襲っているのみではあったが、もっと無差別に部隊を広げて探索範囲を広げるべきか、それとも、もう少しの間、秘密裏に事を進めていくべきか。

 確かにクラルス王国の上層部にばれることは、極力避けるべきではあった。

 だが、リリアーナがこの包囲網を突破し、味方と合流されることこそ、本当に避けるべき事態である。

 そのことを考えると、これ以上無為に時間を費やすという選択肢は、取るべきではない。


 そう考えたセレトは、自身の展開している術式に変化を加える。

 同時に、魔力のラインでつながっているミニオン達に新たな指示を出す。


 目の前で、次々とミニオン達を生み出している術式は、セレトの魔力に呼応するようにその紋章を変えていく。

 その変化に合わせるように、生み出されるミニオンもその姿を変化させていく。

 身体が一回り小さくなり、これまでよりも、一度多数生み出されるようになったミニオン達は、その数を爆発的に増やしながら、セレトの目となり、探索エリアを広げていく。

 そして数を増やし、広い範囲に展開されたミニオン達は、これまで以上に敵部隊と遭遇することとなる。


 目の数が増えたことにより、一度に多量の情報を得られるようになった反面、一つ一つの情報の精度は落ちていた。

 接触も増えたことから、クラルス王国の上層部に、このセレトが引き落とした災害の情報が届くのも時間の問題であろう。

 だが、聖女が動き出した時間を考えると、勝負に出るタイミングは、今しかないであろう。

 そのことを考え、セレトは、一気に多量の部隊を展開し、聖女の存在を探す。

 しかし、中々それらしい反応はなく、既に聖女は包囲網の外にいるのかと、セレトが焦り始めたその瞬間、展開しているミニオンの一部隊に反応があった。


 一体一体の質を落とし、広い範囲に部隊を展開させたことにより、セレトの下に届く情報は、酷く断片的で、不完全な物であった。

 だが、ミニオンを通して感じられる情報、展開されたミニオンを次々と倒されている情報は、セレトにある種の確信めいた直感を与える。


 聖女とミニオンが遭遇をした。


 セレトが展開したミニオンは、一体一体の質こそ落ちてはいるものの、決してそこいらの兵士等に簡単に屠れるような存在ではない。

 魔力の塊であるミニオンは、その魔力が尽きるまで戦うことはやめず、中途半端な攻撃で止まるような存在ではない。

 しかし、今セレトに届いている情報は、次々とミニオンが倒されていくというものであった。


 現在、その場所に展開されているミニオンを通して情報を得ようとするものの、その存在がミニオンを駆逐する速度に追いつかず、結果、禄に情報を得る間もなく、セレトは、自身の手駒がやられているののを感じ取っていた。

 だが、ミニオンのような魔法生物を苦も無く、次々と倒せるような存在。

 それは、聖女以外に存在はしないであろう。


 勿論、これが聖女とは限らない。

 クラルス王国内の有能な将軍や、優秀な戦士の可能性も十分にあった。

 だが、セレトは自身の直感を信じることにした。


 これは聖女である。


 その確信を胸に、セレトは、聖女の周りに展開されたミニオン達に解呪の術式を送り込む。

 すると、魔力の塊であるミニオン達は、次々とその存在を維持できずに魔力の塊へと戻っていった。


 「ここで、決着をつけようじゃないか。聖女様。」

 一声、絞り出すような声で宣言をすると、セレトは、既にその機能を止めているミニオンを生み出していた術式へと近づく。

 そして、その術式に、セレトが手を触れた瞬間、セレトの身体は、術式へと吸い込まれていった。


 「なんなのこいつらは?」

 女性のヒステリーのような声が聞こえる。


 「私の(しもべ)だよ。便宜的にミニオンと呼んでるがね。」

 その声に、喜色を混ぜた声でセレトは応える。


 「あら。貴方の仕業だったの?どうりで悪趣味だと思ったわ。」

 目の前の聖女は、解呪されたミニオン達が生み出した魔力の塊で展開された術式から現れたセレトに気づき、苛立ちが混ざった声を吐き出す。


 「何、美意識も何もない魔力の塊に過ぎないが、意外と使い道が多くてね。案外かわいいものだよ。」

 セレトは、そんな聖女の前に降り立ち、彼女を嘗め回すように見つめながら語り掛ける。


 ミニオンの網にかかった聖女は、武器を構えてこちらを睨みつけてくる。

 構えられた刀には、聖魔法による付与がされているのか、明るい光を放ちながら、その魔力の波動を放っていた。


 周囲に配置されていたミニオン達は、彼女のその剣が触れるたび、その魔力に耐え切れず次々と消滅をしていく。

 所詮は、魔力の塊であるが故、より強い魔力をぶつけられれば、その身体を維持できないは当然の話で合った。


 「今度の貴方は本物かしら。」

 セレトの出方を伺うように、距離を置いてリリアーナは、武器を向けてくる。


 「さて、どうだか。まあ、済まないが聖女様。ここで舞台から降りてくれ。」

 対するセレトは、余裕を見せながら、聖女を逃がさないように周囲を固めつつ、その動きを追う。


 「何が目的なの?」

 聖女は、口だけを動かしセレトに問いかける。


 「何、さっきも言った通りだ。」

 そう話しながら、セレトは、長剣を構える。

 その刃に、軽く自身の魔力を流し、戦いの準備を整える。


 「そう。なら、ここで貴方を倒すわ。」

 表情を殺し、淡々とした態度で、リリアーナは、武器を持つ手に力を入れた。


 無表情、されど、その整った顔についた眼は、どこか鋭くセレトを射抜く視線を発す。

 手に持った武器に付与された魔力が、彼女に相応しい光を発し、その姿を神々しく彩る。

 所々についた血は、そんな彼女の姿を彩るアクセントのように、その存在を主張する。


 美しい。

 まるで女神のような神々しさを見せた、まさに聖女ともいえる、リリアーナの佇まいに、セレトは一瞬感嘆を覚える。

 そして同時に、その存在を今から、自身が打ち砕けることに、どこか背徳感を伴った喜びを感じる。

 その感情に呼応するように、自身の周囲に纏わりつく魔力が、影のように周囲を塗りつぶしていくことを感じる。


 終わらせよう。

 その言葉は、口をついたのかはわからなかった。

 ただ、セレトが、そう思った瞬間、リリアーナの足が動き、同時に、セレトの魔力も開放をされた。


 第三十四章へ続く

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