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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間32

 幕間32


 「全く面倒なことになったわね。」

 不慣れな地を一人で歩きながら、リリアーナは聞かせる相手もいない中、愚痴を吐き出す。


 セレト達の部隊と共に進軍し、彼と共に谷底に落ち、その後、急に襲い掛かってきたセレトと死闘を繰り広げたのが七日程前の出来事。

 その後、自身の身体を休め体力の回復に努めるとともに、誰か自軍による救援が訪れることを期待し待機していたが、一向に訪れない救援に痺れを切らして、味方との合流を図り出発をしたのがそれから二日後の事であった。


 谷底に落ちたということで自身の現在地も禄に分からない状況であったが、地図のおかげでおおよその方角は見当がついていたため、リリアーナは、その直感に従い移動を開始をしていた。

 また、幸い近くに川が流れている事で、水源は確保でき、量は少ないものの携帯食料も手元にあるため、それをやりくりして当面は凌げそうではあった。

 そして自軍の支配権までの距離も決して、そう離れてはいないであろうことから、出発時のリリアーナは、比較的楽観的な見方をして行動を開始していた。


 しかし、土地勘も禄に無い敵の勢力圏での移動は、予想以上の消耗を彼女に強いていた。

 地図とコンパスを基に移動をするものの、時折遭遇する敵部隊らしき存在や、自身の向かっている方角への曖昧な根拠、そして決して多くはない物資が、気持ちの面で彼女を不安に陥れつつあった。


 特に今は敵地のど真ん中にいるのである。

 そこらの兵士に負けるつもりはなかったものの、それは一対一での話であり、多勢に無勢の状況に陥れば、あっという間に囚われてしまうであろう。

 そのことを理解しているからこそ、リリアーナは、敵部隊との接触を可能な限り避けるため、整備された街道を使わず、人通りが少なく隠れる場所も多い、未整備の山中を中心に進んでいた。

 最も、その結果として通常よりも移動の時間が多くかかることとなったが。


 そんな状況下、道なき道を歩いた代償に木々によって身体中に細かい傷を刻みながら、リリアーナは、愚痴を述べながら自身が置かれた状況を思い返してみる。

 自身に襲い掛かってきたセレト。

 彼を退けることに成功をしたが、あの時戦ったのは、あくまで彼の替玉であった。

 恐らくあの男は、まだ生きており、どこかのタイミングでまた戦うこととなるのであろう。


 切り結んだ感覚では、セレトは決して弱くはないが、過去の戦いを思い返しても、今の彼女であれば、油断をしなければ十中八九勝てるであろう存在であった。

 だが、これまで彼女が戦ったのは、あくまで彼の替玉に過ぎない。

 本物のセレトとの戦いの経験は、未だ彼女に無いし、恐らくその本来の実力は、過去に戦った替玉より明らかにやり手であろう。

 そう考えたとき、今の彼女がこれまでのように勝利を収められるかどうかは、難しい判断であった。


 同時に、セレトが何故自身を殺したがるのであろうかも、彼女にとっては謎であった。

 元々、決して仲がいい存在でないことは、重々に承知はしている。

 だが、その程度のことで、少なくとも自分の様な貴族に暗殺を仕掛け、喧嘩を売るような者は、早々はいないであろう。


 それゆえリリアーナは、セレトの裏にいる存在を疑う。

 教会派と言われる貴族グループの、名家であり、派閥の象徴ともいえる聖女の名を冠し、かつ王家の覚えも悪くはない。

 そんな身の上であるが故、敵対する古王派や新興派等の他の派閥、或いは教会派の中で彼女の存在を妬む存在、もしくは、他国で彼女の存在を忌々しく思う者。

 考えれば考える程、多くの容疑者たる者達が頭に浮かび消えていった。


 いずれにせよ、自身を狙っている存在がいることは、過去に襲撃してきたアサシン、そしてその雇い主とされた同じ教会派のレライアといった者達が証明をしている。

 セレトもその一員なのだろうかと、再度、彼女は考慮をしながら道を進む。


 元々リリアーナは、セレトを、その人格は別として、高く評価をしていた。

 その実績に合わぬ末席に追いやられていながらも、腐らずに国のために働き、多大な戦果をあげてきた男。

 彼の戦い方、悍ましい数々の呪術の在り様には辟易することも多かったが、それを別として、軍人としては十分に優秀な資質を持っていることは、ともに戦場を駆け巡ったリリアーナはよく理解をしていた。


 同時にセレトは、非常に自由に生きているようにリリアーナには見えていた。

 出世や地位には、無縁な存在でありながら、自身の我を通し、派閥にも属さず、やりたいように戦う。

 聞いた話では、貴族に取って生命線ともいえる、自身の家とも疎遠であるらしい。


 それは、貴族の名家に生まれ、親から過剰の期待をかけられ、その望むままに生き、そして一つの象徴として扱われ、その象徴として振る舞うことを余儀なくされてきたリリアーナとは、ある意味真逆の生き方であり、どこか、彼女にとって憧れのような物を感じさせる生き方であった。

 そんな男が、今、自身を殺すために牙をむいている。


 彼の、どのような考えで、自分を殺すことを決めたのだろうか。

 ふと、そのような疑問が頭に浮かぶが、明確な答えが出なかった。


 そのような考えを、頭の中で駆け巡らせながら歩き続けていると、ふと前方に村が見えた。

 人との接触を避けるべき現状においては、目の前の村を避けるのが得策であったが、現状物資は決して多くはない状況であった。

 多少の食料を恵んでもらうことはできるだろうか。

 最悪、ろくな軍備もなさそうな村である。

 いざとなれば、自身の剣でこの場を切り抜けることは、十分に可能であろう。

 そこまで考えて、聖女たる自分が、盗賊の真似事をすることに気が付き、ふと苦笑が漏れる。


 どちらにせよ、このような状況である。

 聖女である前に軍人であることを、再度念じながら、リリアーナは、村へと向かうことにした。


 ついた村は、廃墟となっていた。

 いや、少し前までは、人々が生活をしていたのであろう。

 その証拠に、所々に、未だ血が固まりきっていない村人の死体が落ちているのが目につく。


 自軍の侵略も考えるが、遺体の多くは、剣や矢による傷ではなく、何か、力強いものに殴られたり、引き裂かれたような有様を見せており、とても人の手によるものとは思えなかった。

 そして、この村に入った瞬間、リリアーナは、どこか不快な感覚をその身に感じる。

 身に纏わりつくような、不愉快な感覚は、襲撃者たちの残滓のように思えた。

 

 最も、この虐殺者達も、既にこの村にはいない様であった。

 村を見回し、生存者がいないことを確認したリリアーナは、食料を確保すると、素早くこの場所を離れることとした。


 村の中で感じた、不快な感覚がどこまで自身を追いかけてきているような気配を感じながら、それを振り切るようにリリアーナは先を急ぐのであった。

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