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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間31

 幕間31


 「久しぶりだな。状況はどうだい?」

 自分達に割り当てられた部屋ではなく、砦の外、人も禄に通らないような一画で、ユノースは弟に淡々と語りかける。


 「変わらずさ。」

 そんなユノースの言葉に、弟は素直な声で応える。


 「お前は、いつもそれだな。そんな変化もない場所にいて楽しいのか?」

 やや小馬鹿にしたような口調で声をかけるものの、ユノースは、この腹違いの弟の事を、そこまで嫌ってはないなかった。


 とある教会派の貴族と下働きの女の間に生まれた私生児のユノースと、その貴族の正妻という畑から生まれた彼の弟。

 生まれた時点で、既に腫れもの扱いをされてたユノースは、正式な後継者となりうる目の前の弟が生まれた時点で、領土から勘当当然に追い出された。

 その後、各地を放浪していたユノースは縁があり、今のヴルカルの下につくこととなり現在に至っていた。


 「別に今の生活に不満はないよ。」

 ユノースに淡々と言葉を返してくる、そんな弟を見ながらユノースは、彼と対峙した時に何時も感じる、一種の不快感と親愛の情が混ざり合った気分がこみ上げてくるのが感じた。


 目の前の弟は、今は教会派の一貴族として、それなりの地位を築いている。

 一方のユノースは、ヴルカルに拾われ、その下で頭角を現し、現在古王派の中でも名が知れた存在とはなった。


 互いに反目しあう二つの貴族の派閥にそれぞれ属した今、目の前の存在は、自身にとっては敵であるはずであった。

 その一方、自身と半分は同じ血を持っている目の前の存在に対し、ユノースは、どうしても捨てきれぬ親愛の情を感じているのも確かであった。

 だが、彼が居なければ、ユノースが領土から追い出されることもなかったであろう。


 このような気持ちが混ざり合った結果、発生したこの不可解な感情に身を任せながら、ふと、ユノースは、目の前の弟は、自身に対してどのような感情を抱いているのであろうかと気になった。

 目の前に佇む弟は、ただただ無表情にこちらを見ているだけであり、その様子からは、その心の内を読み解くことはできなかった。

 やはり自身と同じような、愛憎が混ざり合ったような気持ちとなっているのであろうか。

 そのことを聞いてみようと、口を開いた瞬間、弟の方が、先に声を上げた。


 「兄さん。セレトは、何をしようとしているんだい?」

 先程までの淡々とした言葉遣いとは打って変わり、憎しみを混ぜたような口調で、弟が問いただしてくる。


 「何をしようと?さあわからんよ。あいつは、どこかの派閥に属しているわけでもないからな。」

 そんな弟の言葉を、適当に受け流しつつユノースは応える。

 弟の方から、ユノースに会って話したいという連絡があった時から、この問いをされることは想定していたため、顔色も変えず、ごくごく普通に言葉を返す。


 「むしろ、彼が何かをしているのか?そんな情報があるなら、こっちも知りたいぐらいだよ。」

 ユノースは、突然予想もしない名前が出てきたことに、驚いた風を装いながら言葉を返す。


 その言葉に、弟は言葉を返さず、じっとユノースの方を見て、その言葉の真偽を図るかのように視線を強め、ユノースは、それを表情を崩すこと無く受ける。


 「まあ、どこかの派閥に属していない、それなりの力を持った貴族ということで、我々もそれなりには注意をしているが、最近特段、何か動きを感じたことはないな。教会派は違うのか?」

 沈黙を破り、ユノースは適当に言葉を放つ。


 実際、セレトは現在ユノースの主であるヴルカルの命を持って、色々と動き回ってはいる状況である。

 だが、その動きを教会派に察知されつつあるいうことだろうか。

 そのようなことを色々と考えながら、目の前の弟を見るが、彼から特段言葉が出ることなかった。


 「分かった。また何かあったら相談をさせてもらうよ。」

 しばらくの沈黙の後に口を開くと、弟は、その場から立ち去ろうとする。


 いずれにせよ、反発しあう派閥同士の人間である。

 互いに一緒にいるところを誰かに見られて何か得があるわけでないのも確かであった。


 「あぁ。分かった。」

 適当に言葉を返し、ユノースは、立ち去る弟の背中を見つめる。


 その背が見えなくなった後に、自身が感じている感情を、弟も感じているか、聞きそびれたことに気が付いた。

 最も、いずれどこかでまた聞く機会もあるであろう。

 そう考え、ユノースもこの場を立ち去ることにする。


 弟が立ち去ったのと別の方向に足を向け一方を踏み出した。


 「おやおや。ユノース卿。こんなところでどうしたんだい?」

 ケラケラという笑い声と共に聞こえてきた声で、その足をユノースは止め振り向いた。


 そこには、自身の同僚であるユラが、何時ものように笑みを浮かべて立っていた。


 直前まで、その存在に気づけなかった自分に驚きつつ、ユノースは、必死に頭を働かす。


 「別に、何も。」

 適当に言葉を返し、目の前の女の出方を見る。


 常に不気味な笑い声をあげ、何を考えているか分からないこの女を、ユノースは非常に嫌っていた。

 有能であることは確かであったが、それゆえ、底が見えず、考えが読めないことが、必要以上に不快ではあった。


 「誰かとお会いしていたのですか?」

 ケラケラと笑いながら、ユラは、問いかけてくる。


 「別に、誰とも会ってない。」

 適当に言葉を返しながら、ユノースはその場を離れた。


 ユラは、別段こちらを追いかけてくる様子はなかった。


 彼女は、どこまで知っているのだろうか?と、一抹の不安を感じながら、ユノースは、一秒でも早く、この場所を離れるために動き出した。

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