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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第三十一章「情報収集」

 第三十一章「情報収集」


 「誰も入るなと言っておいたはずだ!」

 ドアが開いて早々、ルーサは、その方向へ向かって怒鳴り声を上げる。


 執務室であろうその部屋は、決して広くない空間の真ん中に、そこまで上等ではない物の、それなりに機能的な机と椅子が置かれており、その上には、大量の書類や帳簿の類、そして高価ではない物のそれなりにうまい酒の瓶が、グラスと共に置いてあった。

 部屋に置かれた他の調度品を見てみても、決して高価な物が置かれていないその空間は、商人上がりのルーサらしい実務的な居室であった。


 「うん?君は誰だ?屋敷の者ではないな。」

 そんな室内の様子を観察しているローブを纏った存在が、自身の屋敷の使用人でないことに気が付いたのか、ルーサは怪訝そうな声をしながらこちらを見る。

 同時に、恐らく武器が閉まってあるのであろう机の下の空間に手を入れている様子が見て取れた。


 「何者だ?この場所に何の用があって訪れた?」

 周辺を警備しているであろう自身の部下達が、いつまで経っても現れないことに焦りを感じたのか、ルーサは、徐々に音量を上げ、早口になりながら喋り続ける。


 「落ち着き給え。何、君の部下達には、少々眠ってもらっているだけだよ。安心したまえ。」

 そのあまりに滑稽な様子に憐れみを感じたセレトは、落ち着いた普段通りの声色で言葉を発しながら、ローブから顔を出す。

 同時に、ドアの外で、呪術によって眠らされているルーサの兵士の頭を掴み室内に引き入れると、その様子をルーサに見せ付けた。


 「貴公はセレト卿?クラルス王国に出兵しているはずでは?」

 目の前の事態に理解が追いついてないのか、ルーサは、セレトに問いかけるのではなく、独り言のように言葉を発する。


 「何。色々とあってね。こっちに戻ってきたはいいが、少々面倒くさい状況となったこともあって、ここを訪れたのだよ。」

 そんなルーサに対し、セレトは、軽い口調で現状を述べる。


 誰が敵で、誰が味方か分からない現状であったが、セレトは、ルーサが現状そのどちらにも属してないであろうことは、直感的に感じていた。

 そして、少なくとも、過去ヴルカルに協力をしており、決して聖女と仲がいいわけでない点においては、下手な味方よりは信じられるように思えたのである。


 「ふむ。つまるところ貴公は助けを必要としている事かね。」

 ルーサは、現状の理解に努めようと頭を悩ましたような顔をしながら、その片手間にセレトに問いかける。

 最もその目には、商人特有の、自身の利益と損害を秤にかける様子が見て取れたが。


 「話が早くて助かるよルーサ卿。何、私が知りたいのは現状の確認と、そこからの打開策だけだ。勿論、貴公にもそれ相応の謝礼はさせて頂くよ。」

 そんなルーサに対し、セレトは矢継ぎ早に言葉を発する。


 「現状?戦争の事なら、私より貴公の方が詳しいだろう?」

 そんなセレトを制するような口調でルーサは、呆れたような口調で応える。

 反応を見るに、自身の暗躍は未だに表に出ていない模様であった。


 「いやはや。貴公には先程話したではないか。面倒くさいことになっていると。そして貴公も知ってのとおり、本来の私は、クラルス王国に出兵をしているはずだ。その私が、今この場に、貴公の目の前にいる。その意味を知ってほしいものだね。」

 だからこそセレトは、ルーサを諭すような口調で言葉を発し、相手の様子を見ることにする。


 ルーサは、セレトが発した言葉の意味を、頭の中で反芻をしながら考えているようであった。

 「面倒くさいことになっている」という、セレトの言葉を、ルーサがどのように取るかが、セレトにとっての賭けであったが、その答えは、目の前で考え込んでいるルーサの様子からは見て取れなかった。


 「面倒くさい事態は、困るな。貴公は、今どのような立場なのかい?」

 しばらく黙り込んでいたルーサが口を開く。


 「何、出兵はしていたさ。だが、事故があって一時的にこちらに戻ってきている。しかし戦線に復帰したいという気持ちはあるのでね。貴公に現況を聞きながら、今後の相談をできればと考えていたのだよ。」

 相手の警戒している態度を紐解く様に、セレトは、言葉を選びながら状況を説明する。

 いずれにせよ、セレトは、本来ここにいるべき人物ではないの事実である。

 そうである以上、ルーサに警戒されるのは当然の話ではあったが、その人物の警戒を解かないことには、セレトも動きが取れない状況なのである。

 そのことを考えながら、セレトは、言葉を続けることにした。


 「ふむ。なら貴公はクラルス王国に復帰できる手段がほしいということかね?」

 ルーサは、そんなセレトに問いかける。


 「仰る通りだ。出来れば内密に。」

 セレトも、その言葉に簡潔に返す。


 「なるほど。まあ方法はなくはない。」

 横柄な感じでルーサが応える。


 「ほう。それは助かる。」

 ルーサの態度、こちらの足元を見て如何に上手く交渉を進めようと考えている話し方に、少々苛立ちを感じながらも、ありたっけの謝意を示しているような口調でセレトは言葉を発する。

 最も、多少の苛立ちは、その口調に出ていたかもしれないが。


 「何。簡単なことだ。近いうち私の方で、クラルス王国へ物資の補給のための部隊を出す予定だ。そこに混ざっていけばいい。」

 多少なりともセレトの口調に感じる物があったのか、ルーサは、少々慌てたように返事をする。


 そんなルーサの態度に呆れながらも、セレトは、今しがた受けた話を検討する。

 確かに補給の部隊に紛れていき、クラルス王国内に入り次第、適当な場所で部隊を離脱し、そこから個別行動で動くのは、セレトの現況と目的を考えると、そう悪くない案のように思えた。

 最も、単身で敵の領土内で動き回ること自体、大分リスクが高いことではあったが。


 だが、確かに秘密裏にクラルス王国内に戻れるこの案は、セレトにとって決して悪い話ではなかった。

 後は、戦況の状況に合わせ、自身の目的地を決めるのみと考えていたセレトであったが、ルーサが次に放った一言で、現実に戻されることとなった。


 「しかし、貴公は何故、わざわざクラルス王国へと戻りたいのかね?あの国での戦は、もう終結するというのに。」

 少し落ち着きを取り戻したのであろうルーサは、手元のグラスを持ち上げ、その中身を口の中に流し込みながら、何気ない口調で話す。


 「戦が終結する?」

 その予想もしない言葉に、少々上ずった声で、セレトは応える。

 自身が、リリアーナと戦い、こちらに戻ってから、まだ時間はそう経ってはいなはずであった。

 当時、戦自体は、まだまだ序盤であったはずであった。

 それが、この短期間に終戦となりつつあることに、セレトは驚きながら、自身が置かれた状況を再考する。


 「なんだ。貴公は知らなかったのかい?まだはっきりと確定したわけじゃないが、国の上層部同士では、既に講和のために動き始めているらしい。実際にクラルス王国に出兵をしている兵士達も徐々にこちらに戻りつつあるしな。」

 まだ駐留している部隊のために物資の輸送等は行われているがな、とやや呆れたような口調で付け足しながら、ルーサは、セレトに状況を応える。


 「私や、私の部下達については、どういう噂が流れている?」

 恐る恐るという口調で、セレトはルーサに問いただす。

 状況は、自身が思った以上に動いてしまっているらしい。


 「いや、別に貴公については、何の噂も流れていないな。もっとも私みたいに前線にいない者に流れている情報は、多少限られているが。」

 ルーサは、セレトの様子を見ながら、再度、グラスの中身を飲み干すと、疲れを滲ませながら言葉を返す。


 だが、まだ罪人と見られていないということは、聖女の襲撃は表には出ていないのであろう。

 そのことに安心をしながら、セレトは次の一手を考えることとする。


 「こっちにはどのような部隊が戻ってきているのかね?」

 状況把握のため、セレトは軽く質問をルーサに行う。


 「いや、私が知っている範囲では、聞いたこともないような下級貴族達が中心だな。貴公の部下や、まあ他の大物たちは、まだ向こうにいるらしい。」

 ルーサは、少し考え込むようにしながら答えを返す。


 だが、大物はまだ向こうに残っている。

 自分の部下達もクラルス王国内にいる。

 つまり聖女を初めとした、自身が関わる必要がある者達は、全員、クラルス王国という舞台に上がったままなのであろう。


 そう考え、セレトは一呼吸をする。

 いずれにせよ、クラルス王国には戻る必要があるであろう。

 そこで再度、現況を確認、更にリリアーナを、今度こそ始末するべきであろう。


 「ルーサ卿。今手元にあるのがこの程度の物しかなく申し訳ないが、これを手付に、先ほど言っていた貴公の部隊に、私を加えてもらえないだろうか?」

 小ぶりだが、確かな重さと輝きを放つダイヤを一つ取り出し、それを机の上に転がしながら、セレトはルーサに頼み込む。


 「あー。本当は面倒事など、背負込みたくはないのだがね。他ならぬ貴公のためだ。お受けしよう。」

 転がるダイヤを目で追いながら、ルーサは、セレトの頼みを聞き入れる。


 その言葉に満足げに頷きながら、セレトとルーサは、互いに心を籠らない握手をするのであった。


 この二日後、セレトは、ルーサの部下に紛れて、今一度クラルス王国へと向かうこととなった。

 最もセレトは、後々、現状の把握を怠ったこの時の自分自身に呪詛を吐くことになる。

 だが、今の現況では、そのような未来など考えず、ただただずれた歯車を戻すために足掻き続ける道を選ぶのであった。


 第三十二章へ続く

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