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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第二十九章「傀儡」

 第二十九章「傀儡」


 セレトは疲れ切った顔をしながら目の前の惨状を見つめる。

 倒れている王国の兵士、恐らくその身なりから、それなりの階級だったのであろう男の粘りにより、ボロボロにされた手駒の一つは、セレトの術が解けた瞬間、その身から力が抜けたように倒れ込む。


 セレトの召喚術によって、こちらの世界に呼び出された存在は、セレトの魔力を糧にその存在をこちらの世界に縫い付け、維持をする。

 逆に言えば、セレトの魔力が切れた今、ただでさえ厄介な相手によって多大なダメージを負った身体を維持できる程の魔力がない以上、動くことすらままならないのであろう。

 最も、既に動かなくなった手駒のこと等、今のセレトにとってどうでもいいことであった。


 セレトが積極的に援護をしていれば、さほど苦戦もなく終わったであろう戦いであったが、セレトは、この戦いにおいては、時折物陰より呪術による援護こそしていたものの、基本的には傍観を決め込んでいた。

 状況を把握できていない段階で、下手に自身の存在を晒すことにリスクを感じたゆえの行動であった。

 最もそれゆえ、呪術の効果も限定的なものとなり、まともに効果を見せたのは、最後のタイミング、こちらの一撃を防ごうとする相手の動きを封じた時ぐらいであったが。


 だが現状、セレトが隠し部屋としているこの場所は、目の前に倒れている兵士以外には、特段、把握している者はいないようであった。

 少なくとも戦いの中、誰も現れないということは、現状、他に誰かがいるという可能性は低いのであろう。


 しかしこの場所に人が、それも王国直属の兵士が表れたということは、セレトか、あるいはこの屋敷について、王国の介入を許すような、何らかのトラブルが起きたと考えるべきであろう。

 それゆえ、セレトは周辺に警戒を続けながら、考えを巡らせつつ、目の前に倒れている自身の手駒、召喚術によって呼び出された存在を改めて見下ろす。


 セレトから魔力の供給が無くなった手駒の一つは、戦いの中で魔力を使い切ったのか、動く素振りも見せずに静かに横たわっている。

 最も、それは、一時的な仮眠状態に過ぎず、セレトが自身の魔力をつぎ込めば、再び立ち上がり、セレトの良き僕として動き出すであろう。

 だが、このような事態となった以上、それを考えるのは、まだまだ先の話になるであろう。


 「戻れ。」

 セレトは、掌をかざしながら、つまらなそうに命じる。

 すると、目の前に横たわる異形の存在は、一瞬光を発し、そのまま目の前から消え去った。

 セレトが命じるまま、こちらの世界から元の世界に戻ったのである。


 「さてと。」

 今度はわざとらしくため息をつきながら、セレトは、倒れている男の方に目を向ける。


 「貴公はどこの所属かね。」

 ピクリとも動かない男に対し、セレトは、軽い口調で質問を投げかける。

 最も、その問いに対し回答どころか、身動き一つも戻っては来なかったが。


 「おいおい。人の庭先に勝手に入った以上、(あるじ)にその理由を述べるのが客人の務めじゃないかい?それを黙られたら困るんだよ。」

 何の反応を示さない存在に、わざとらしい口調で言葉を浴びせながら、セレトは、言葉を続ける。


 「黙り続けるつもりかい?それは困るんだよな。」

 そういいながら、セレトは、自身の懐にしまってある短刀を取り出す。

 刃の部分に一風変わった文字で何らかの言葉が掛かれている短刀は、セレトが込めた魔力に反応し、青黒い光を発し始める。


 「まあ貴公が話すつもりがないなら結構だよ。私は、私のやりたいようにやるさ。」

 物を言わない倒れた男に対し、独り言のようにセレトは呟きながら、短刀を構える。

 そして、それをそのまま振り下ろし、倒れている男の頭上に突き刺した。


 だが、刃物に刺された箇所からは血は噴出さず、短刀に込められた魔力が、刺された男に向かって流れ込んでいく。

 その衝撃に、男の口から若干、息が漏れた気がするが、セレトは、そのこと気にせずに自身の術を唱える。


 詠唱に合わせ、セレトの身体から放たれた魔力は、短刀を通し、男に流れ込んでいく。

 男は、時折苦しそうに声を出すものの、強制的に注ぎ込まれていく魔力によって意識を完全に失ったのか、その声も徐々に聞こえなくなっていった。


 「これで大丈夫か。」

 特に聞く者もいない空間で、セレトは、意味もなく言葉を発する。

 目の前に倒れている、セレトに大量の魔力を注ぎ込まれた男は、時折呼吸をするような反応を示すものの、ろくな意識も残っていない様であった。


 最も、セレトはそのようなことを気にしない。

 目の前の男は、あくまでもこの現況を探るための道具に過ぎない。


 「起き上がり給え。」

 セレトは、無駄に尊大な口調で言葉を発する。

 すると目の前で倒れていた男は、その言葉に従うように立ち上がる。


 自身の魔力による呪術が、しっかりと機能している事に満足げにうなずくと、セレトは、指示を続ける。

 「このまま外に出て、私を喚び給え。あまり騒ぎを起こさぬようにな。」

 生気が見えないような状態で、ふらつきながら男は、部屋の外に出ていく。

 階段を上がる音が徐々に小さくなり、聞こえなくなったところで、セレトは一息をついた。


 倒れていた男が、単身で来たのか、それとも複数人でこの屋敷に来ているのか、王国からの正式の命令なのか、それとも独断なのか。

 全てが分からぬ今、下手に動くことは、到底望ましくはないであろう。


 しかし、セレトは、ここに留まっていることはできなかった。

 いずれにせよ、外の状況は、刻一刻と動いていくのであれば、今すぐそこに介入し、自身の力を振るう必要があるであろう。

 そう考え、今の自分にできることを、セレトは模索し続ける。


 屋敷の方からは、特段騒ぎは聞こえてこないところを見ると、送り込んだ男は、上手く立ち回っているのであろう。

 そう思いながら、セレトは、自身状況を整理する。


 唱えたつもりがない召喚術の発動だが、セレトは、一つだけ心当たりがあった。

 仮初の身体に自身の意識を飛ばして動かしている間、セレトの身体と、仮初の身体は、魔力で繋がっていた。

 そして仮初の身体で動いている時に、セレトは、クローヌとの戦いで魔獣化の呪術を放っていた。

 魔獣化の呪術を使った際、セレト自身の意識が完全に飛んでおり、ただその身に宿した魔獣の力を振るうのみであったが、その際、魔力でつながったセレトの本体にも、その力が影響を与えた可能性は十分にあった。


 不完全な魔力しか持たない、仮初の身体では、自身のみに宿した力をコントロールすることなどできず、ただただ破壊衝動だけに包まれていたあの状況が本体に影響を与え、知らず知らずのうちにこの場所でも魔力の暴走がおき、無意識に召喚魔法を発動していた。

 結果、自身が知らないところで、事態が動き出しているのであろうことを考え、セレトは頭を痛める。

 最も、あの場、クローヌとの戦いの段階で、あの戦場から離れるわけにいかなかった以上、他に手がなかったのも事実であったが。


 自身が知らぬ間に起こった様々な可能性に頭を痛めながら、セレトは、現状の打開策を考え続ける。

 いずれにせよ、ここに留まり続けずに動いていくしかないであろうが。


 そう考えているセレトの前に、魔力のゲートが開かれるのが見えた。

 先程送り出した兵士が、外からセレトを喚ぶための術を放ったのであろう。

 考えはまとまっていない状況であったが、いずれにせよ動くしかない。

 そのための第一歩として、セレトは、そのゲートをくぐり、外に向かうこととした。


 そして光がセレトを包み込んだと思うと、セレトは、城下町の外れのエリアに移動していた。

 開かれていたゲートは、セレトが通り抜けたことで、役目を失い一気に消え去っていく。

 目の前では、セレトの指示を待っているのか、兵士の男が、相変わらず生気のない目で、こちらを見つめていた。


 「さてどうするか。」

 セレトは、周囲を見回しながら、誰ともなしに呟く。

 見覚えのあるこの場所は、王都の端のエリア。

 スラム街も近い、あまりお行儀が宜しくないエリアであった。


 最も、このような場所の方が、王国内の知り合いに会いづらいということを考えれば、現状のセレトにとっては、都合がいいのは確かであったが。

 いずれにせよ情報収集から入るしかないだろうと、考えていたセレトは、後ろからかけられた声に慌てて振り向いた。


 「隊長?ラルフ隊長じゃないですか。なぜこの場所に?」

 目の前にいるのは、若手の兵士だった。

 そして兵士が声をかけた先には、セレトが先ほど魔力を注ぎ込んだ男が立っていた。

 もっとも、ラルフと呼ばれたその男は、その声に禄に反応をすることもなく、焦点の合わない目で空を見つめていたが。


 「セレト卿の屋敷からいなくなったことで、皆、体調を探していたんですよ。どうしたんですか?」

 そう言いながら、こっちに近づいて来ようとした若手の兵士だが、ふとその足を止めて、こちらを見る。

 「セレト卿?!なぜ貴方がここに?」


 そんな慌てた兵士を見ながら、セレトは自身の不運を呪いながらも魔力を込め始める。

 いずれにせよ、目の前の若い男は、今のセレトの状況を把握する一助となるのは確かであろう。


 そう考えたセレトは、これ以上の状況の悪化を防ぐために動き出した。


 第三十章へ続く

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