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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第二十四章「三択」

 第二十四章「三択」


 「無事だったかい?セレト卿。」

 戦いを終え、周囲を警戒しながら顔を合わせたリリアーナは、セレトの様子を見ながら、淡々と言葉を発してくる。

 最も、その視線がセレトの汚れた格好を一瞥した後、侮蔑の色を浮かべていることを、セレトは見逃さなかった。


 「いやはや。何とか生き延びれましたよ。聖女様の部隊は、流石のお力のようで。」

 そんな視線を受け流しつつ、軽い口調でリリアーナの言葉に返答する。


 だが、柔らかい口調で言葉を返しながらも、リリアーナと、隣に控えているロット、それに周りに控えている彼女の部下の多くが、そこまで手傷も汚れも負っていない様を見ながら、セレトは、心の中で舌打ちをする。

 彼女の部隊と比べ、自分の部隊は、主要メンバー達こそ大した傷は負っていなかったが、部隊全体で見てみると、手傷を負った者も多く、死者も出ている有様であった。

 戦闘の結果としては、どちらの部隊も敵の撃退には成功していたが、その損害を考えると、自身の部隊の質が聖女の部隊より劣っていることは明白であり、それを嫌というほど思い知らされたセレトの心情は荒れに荒れることとなった。


 「ふむ。このまま追撃に向かうか、それとも引き続き周囲を警戒するか、あるいは、砦攻めへの援軍へと向かうべきか。貴公はどうすべきだと思うかね。」

 リリアーナは、そんなセレトの心情に気づいていないかのように、セレトに問いかけてくる。

 

 そんなリリアーナの視線を受け止めたセレトは、背後控える自身の傷を負った部隊を一瞥する。

 決して少なくない損害を負ったセレトとしては、本来であれば、ここは周囲の警戒に当たるか、あるいは、砦の方に形だけの援軍として向かい、適当に戦いながら自軍を温存するのが定石であるようにも思えた。


 だが、目の前の聖女様は、この程度の相手にそれなりの損害を出した、こちらを見下したような目で見つめながら問いを発していた。

 その態度に、セレトは屈辱を感じながらも、自身の目的のための結論を出すことにする。


 「あの部隊は、かの不敗将軍が率いている部隊。生半可な追撃では、逆にこちらが返り討ちにあうでしょう。」

 セレトのその発言に対し、リリアーナは、無表情のまま、取り巻き達は、露骨に侮蔑の表情を浮かべながらセレトを見つめる。


 「だからこそ、こちらの戦力が整っており、かつ敵にそれなりの打撃を与えている今こそ、追撃をするべきでしょう。私は、部隊の再編成を急ぎ終え次第の追撃が宜しいかと思います。」

 それゆえ、セレトは、敵部隊への追撃を進言する。


 「追撃ですか。」

 リリアーナは、セレトの言葉を受けて、少々考え込むように頭を振る。

 彼女の副官であるロットは、こちらを信じられないような目で見ており、他の側近達も、セレトの意外な返答に驚きを隠せないような態度を見せる。


 「左様。私の部隊は、多少の損害は負いましたが、まだ十分に継戦は可能です。加えて、先の戦いで、敵の将の一人にそれなりの手傷を負わしました。相手が、万全じゃない今、敵の優秀な将を討ち取るチャンスを逃す道理はないかと思われます。」

 驚きを隠さない、リリアーナの部隊の重鎮達に、セレトは、当たり前のことを話すように、淡々と言葉を綴る。

 先程までの、こちらを一方的に見下していた多くの表情は消え、そこには狼狽と、驚きが強く表れていた。


 「ほう。素晴らしいな。では、すぐに奴らを追うべきじゃないのか?部隊の再編成等している暇も、もったいない。時間は、相手も利することになるからな。それに、奴らの行方を追うことも難しくなるからな。」

 そんな中、リリアーナの傍らに控えていたロットが、いち早くセレトに言葉を返す。

 急ぎの追撃を指示しながら、セレトの出方を見ているようにも思えた。


 確かに、このまま一気に追撃をする方が、相手にも確実に追いつける可能性は高く、追撃をするのであれば、それが定石であろう。

 だが、それは、セレトの望むところではなかった。

 そのことを考えながら、セレトは、ロットに対し言葉を発する。


 「えぇ。確かに今すぐ追撃を行うのが定石かもしれません。時間をかければ、敵部隊の行方も分からなくなるかもしれないですからね。」

 ここから、セレトにとって、一世一代の賭けであった。


 「だが、撤退をした敵部隊の行先が分かるのであれば、如何でしょうか。」

 そう話しながら、セレトは、懐から羊皮紙を出してリリアーナ達の方に指し示す。

 羊皮紙には、様々な記号や文字が書き連ねており、それらは、鈍く光を発しながら不気味に動き回っていた。


 「これは、なんだね?」

 言葉を発しないリリアーナに代わり、ロットが羊皮紙を見ながら問いかけてくる。


 「単純な呪術の探知機能がついた羊皮紙ですよ。私がかけた呪術の魔力に反応し、その場所への方角や、大体の距離を示している呪術です。」

 セレトは羊皮紙を多くの者が見えるように掲げながら、言葉を続ける。


 「先程の戦いで、私が呪術で手傷を負わせた数名の兵士の体内に残った魔力に反応しています。これを利用すれば、多少、体制を整えてから追撃を行うことも、十分に可能かと。」

 追撃を行うことが、最早決定をされたかのようにセレトは、語り続ける。

 そして、これからのことを考えると、部隊の再編制のための時間は、絶対に必要であった。

 それゆえ、目の前のリリアーナ達を丸め込めようと、言葉を発し続ける。


 「追撃か。貴公は、先の部隊ともう一度戦って勝てると思うのかね。」

 セレトの言葉を聞き終えたリリアーナが、頭を上げ、セレトに問いかけるように言葉を発した。

 その言葉を発しっている彼女の目には、先の侮蔑の色はなくなっていたが、同時にこちらを試すような響きがあった。


 「恐らく、先の戦いで敵の主力は温存されていたでしょう。それゆえ、普通にぶつかるだけでは、こちらが不利かと思われます。」

 セレトは、リリアーナの言葉に対し、正直に応える。


 「不利だと分かっていながら、追撃か。貴公は何を考えているんだ。」

 そんな、セレトの言葉にロットが噛みつくように反論をする。


 「しかし、先の戦いで私は、一つの呪術を交戦した部隊に埋め込んでおきました。」

 セレトは、ロットの言葉を無視するように言葉を続ける。


 「感染型の呪術です。今は、何の効力も発しておりませんが、私の魔力に反応して一気にその効力を発します。」

 そう言いながら、セレトは、羊皮紙を懐にしまい、周辺の様子を見まわす。

 追撃に対する、可否は別として、今、この場にいる者達全員が、セレトの次の言葉を待っていた。


 「効果は、意識混濁と、幻惑。命を奪うほどのものではありません。しかし戦力の低下としては、十分な効力を示せるかと。」

 そのように言葉を待つ者達に、セレトは、自身の仕掛けた種を明かす。

 その言葉を受けた者達は、様々な表情を見せながら、各々の評価を示す。


 「そんな都合よく進むわけがないだろうに。」

 副官であるロットがぼやいているが、セレトはそれを無視する。


 「リリアーナ卿。如何いたしますか?」

 ここで重要なのは、この場で最上位の立場である、聖女の反応のみである。

 セレトは、強い言葉で彼女に問いかける。


 「うん、貴公の考えはよくわかった。確かに勝算もありそうだしね。」

 リリアーナは、頭の中を整理しているかのように、言葉を途切れ途切れに発する。


 「部隊の損耗はあるといえど、敵部隊の全容も含めて、貴公がそう判断しているなら、確かに何とかなるかもしれない。」

 そこまで言葉を発すると、リリアーナは、セレトの方を真っ直ぐと見据えて、視線を合わす。


 「よし。貴公の策に乗ろう。全軍、すぐに追撃の準備に当たれ。」

 そうして、彼女は、力強い言葉を発する。


 「ありがとうございます。」

 セレトは、その言葉に呼応するように礼を述べる。


 「では、こちらは、お渡ししておきます。同じ物を私も持っておきますので。」

 そう話しながら、セレトはリリアーナに記号がうごめく羊皮紙を渡す。


 「この記号の向きに、呪術を埋め込まれたものがおります。近づけば近づくほど、羊皮紙の文字の色が濃くなる仕組みとなっています。」

 セレトの説明に、リリアーナは、頷き、羊皮紙を受け取る。


 「貴公もすぐに部隊の再編成を進めてくれ。連れていくことが難しい負傷達は、本陣に返すように手配しよう。」

 そしてリリアーナは、すぐに各所に指示を出し始める。

 セレトは、その言葉を聞き届けると、一礼をして自身の部隊の方へと歩を進めた。


 「うまくいきましたか。」

 部隊に戻ってきたセレトに対し、アリアナが周りを憚るような態度で問いかけてくる。


 「このまま出兵ということですが、如何様に進めるつもりですかい。」

 グロックは、笑いながらセレトの指示を求める。


 「あぁ、予定通りにうまくいったよ。」

 セレトは、笑いながら彼らに言葉を返す。


 「アリアナ。例の羊皮紙は、聖女様に渡してある。上手く誘導を頼む。」

 周りに声が聞こえないように気を付けながら、セレトは、部下に首尾を話す。


 「お任せください。」

 その部下は、深々と礼をしてセレトの指示を受け取ると、そのまま自身の部隊の編成に向かう。


 「旦那。勝算はあるんですかい?」

 グロックは、ふざけた態度は、そのままに、真剣な目をしてこちらを見てくる。


 「0ではない。それだけで十分だろ。」

 そんな部下に、適当に言葉を返し、セレトは、自身の準備を整え始める。


 聖女を乗せることには成功した。

 嘘の情報により、聖女の動きを制限することにも成功した。


 聖女に渡した羊皮紙は、確かに呪術を探知し、その方向と距離を示してくれるものであった。

 だが、その呪術は、アリアナに敵兵の死体を利用して作らせた、簡易的なグールに掛けらていた。


 グール達は、敵兵と同方向に向かいながら、徐々にその進路をずらし、今は、全く見当違いの方角へと進行しているはずであった。

 その行く先で、聖女を如何に狩るか。


 先の戦いでわかったように、部隊の総合力では、明らかにこちらが劣っている以上、正面からの戦いでは、こちらの敗北は必至であった。

 それゆえ、如何に聖女のみを孤立させるかが重要となるであろう。


 セレトは、自身の持ち駒を見ながら、そのための方法を考慮するのであった。


 そして一時間後。

 部隊の再編成を終えた、リリアーナと、セレトの両名は、自身の部隊を率いて、遂に進軍を開始するのであった。


 第二十五章へ続く

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