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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第二十章「従軍指示」

 第二十章「従軍指示」


 ヴルカルとの面談後、一日病室で休み、セレトは戦線に復帰することとなった。

 クローヌとの戦いによるダメージは、もう十分に癒えていたが、あの場を切り抜けるために、セレトは、その身に刻んでいた切り札を更に一つ切ることとなった。

 このことが、今後どのように響いてくるのかを考えながら、セレトは、自身の部隊を率いて戦場に向かうこととなった。


 二十人を切った、ほぼほぼ壊滅状態であった部隊は、本隊に合流したタイミングで、セレトが当初より本国から連れてきていた予備兵力との合流によって何とか体勢を体制を立て直すことができた。

 しかしそれでも、やはり戦力の低下は著しく、今後戦がより激しくなっていく状況を考えると、セレトの心には暗雲が立ち込めるのであった。


 最もここから先は、これまでと違い大軍の中の一部隊としての働きが期待されており、部隊が小規模であってもいくらでもやりようはあった。

 後は、同じ方面に派遣される味方の部隊次第な面もあったが、セレト自身、ここから十分に逆転の目はあるように思えた。

 そう考え、亡きクローヌに代わり、司令部に居座ることとなったヴルカルに指示を仰ぎに行ったセレトは、ヴルカルの嫌味に迎えられることとなったのであった。


 「やれやれ、貴公とは、誰も組みたがらないのだよ。セレト卿。」

 訪れたセレトに対し、ヴルカルは、季節の挨拶もなしに、早速嫌味がこもった口調で言葉を発した。


 「各部隊を任せている隊長格の者達に相談をしたものの、どこも人は余っているようであってな。いや、それに加えて味方殺しの汚名を被っている男を迎え入れることに、消極的なんだよ。」

 ヴルカルは、呆れたような口調で、セレトに淡々と言葉を述べてくる。


 「私としては、貴公程の力を持った将は、何とか有効に活用したいのだがね。いやはや。よもや状況がここまで悪いとは。」

 ヴルカルは、普段の好々爺のような顔を保ちながら、どこか探るような目でこちらを見つめてくる。

 自身が放つ言葉の一言一言に、彼自身がどのように反応を示すかを試しているようにも思えた。


 「とは言ったものの、実は貴公と組んでもいいという部隊があることにはあったのだ。」

 こちらの反応を見ながらも、ヴルカルの言葉は、矢継ぎ早に繰り出され、セレトは言葉を挟むこともできず、ただただ、その言葉を聞き続けていたが、ここで予想だにしない言葉が出たことに動揺をする。


 「私を求めている部隊ですか?それは、また、ありがたい話で。」

 嫌われ者に加え、味方殺しの汚名まで被ったセレト等、好き好んで仲間にしたがるものはいないであろう。

 それゆえ、セレトは、自身が次に述べる言葉を思いつかず、詰まったように返答を繰り返す。


 「それで閣下、私めの配属先は、どちらで?」

 セレトは、動揺を抑えつつヴルカルに言葉をかける。

 そんなセレトを、ヴルカルは焦らすように言葉を発せずしばらく見守っていたが、それにも飽きたのか口を開いた。


 「かの、聖女リリアーナ卿の部隊だ。尚、作戦行動に当たり、貴公には彼女の指揮下には入ってもらうが、一定の範囲の独立行動については、認める方針ではいる。」

 ヴルカルは、堂々とした口調で、セレトに次の配属先を告げる。

 しかし、そのあまりにも突然出てきた名前に、セレトは、動揺を隠せずにいた。


 聖女リリアーナ。

 自身とは犬猿の仲であり、互いに嫌いあっている関係。

 同時に、目の前のヴルカルより暗殺を依頼されており、自身が現在命を狙っている相手。


 「別にこちらから願い出たわけではない。負傷者が多い彼女が部隊の増員を望んだので、ちょうど手が空いている貴公を含めた複数の部隊の事を話したら、貴公を希望したというだけの話だ。」

 訝しげな眼で見つめられていることに気が付いたのだろう。

 ヴルカルが言い訳がましく言葉を続けてきた。


 「私ごときの若輩を求めて頂けるとは、嬉しい限りで。いえ、リリアーナ卿からの要請であれば特に問題はございません。」

 ヴルカルの問いただすような視線に応えるような形で、セレトは自身の言葉を返す。

 もし彼女から望まれているのであれば、それは、セレトにとって望ましい状況ではあった。

 例え、犬猿の仲であろうと、彼女の実力の高さは知っているし、同時に、目の前の男より自身に課せれた任務を考えれば、この状況は、セレトにとって理想的ではあった。


 「安心したまえ。私としては、本当に貴公を推してはいない。彼女自らの意思で貴公の従軍を求めていた。」

 セレトの疑わしそうな目に対し、煩わしそうにヴルカルは応える。

 どこか投げやりで不誠実さを感じながらも、その言葉に嘘はないようにセレトは感じた。


 「ありがとうございます。では、リリアーナ卿の指揮下の元、閣下に朗報を届けられるよう努力をさせて頂きます。」

 それゆえ、セレトは、ヴルカルに頭を垂れ、感謝の意を示す。


 何にせよ、自身の運はまだ尽きていない様である。

 それならば、ここから挽回を目指せばいいだけではないか。


 「ふむ。貴公の活躍を期待しておるぞ。セレト卿。」 

 ヴルカルは、相変わらずの笑みを浮かべた表情で、セレトに激励の言葉をかける。

 その言葉に、セレトは、深々と頭を垂れた。


 「まあ今回の配属に私は、ほとんど絡んでいない。しかしだ。私が貴公に依頼している件も、早々の対処を頼みたいものだな。」

 ヴルカルは、セレトに釘を刺すように言葉を述べると、話が済んだと言わんばかりに手元のベルを鳴らし部下を呼ぶ。


 お呼びですか。と声をかけてきたのは、ユノースともユラとも違う、ヴルカルの部下であった。


 「セレト卿がお帰りだ。お送りをしたまえ。」

 ヴルカルは、尊大に申し付けると話すことは終わったと言わんばかりにセレトに身振りで退出を促した。

 セレトは、それを受け、一礼をするとそのままヴルカルの部下に付き従い出口へと向かう。


 「あー、そうだ。」

 出口へとあと一歩というところで、セレトはヴルカルに言葉をかけられ立ち止まる。


 「何でしょうか、閣下。」

 その言葉を受け、ヴルカルの方へと振り向き、セレトは相手の言葉を待つ。

 目の前のヴルカルは、改めてセレトを値踏みをするように見つめていたが、やがてその口を開き、言葉の続きを口にする。


 「いや、貴公が留守の間に、貴公の屋敷で何か問題があったようでな。まあそう慌てるほどの事態ではないようだし、恐らく貴公への連絡も入っているとは思ったが、一応、その耳に入れておこうと思ってな。」

 ヴルカルの言葉に、セレトは曖昧に頷く。

 屋敷の方からの伝言は、病床を離れてから自身の部隊にも顔を出していたが、特にそのような報告は受け取っていなかった。

 最も、ヴルカルが言うように大したことがない話だったのかもしれないが。


 「それと、貴公の復帰後、最初の作戦だが、リリアーナ卿率いる遊撃隊として、敵の別拠点を叩いてもらう予定となっている。元々、リリアーナ卿が充実する予定の作戦であったからな。詳しい内容は、後日彼女にも確認を取り給え。」

 ヴルカルは、そんなセレトの様子を見ながら、言葉を続け終えると、話は終わったとばかりに退出を促す。

 セレトは、ヴルカルに再度一礼をすると、そのまま退出をした。


 見送りの兵士と別れ、陣の中を歩きながらセレトは考える。

 ヴルカルの言う通り、セレト自身を、自分の部隊に引き入れようとする物好き等、早々はいなかったであろう。

 その嫌われぷりで、上層部からも受けが悪いセレトを受け入れ、出世のチャンスを与えるような行為を、この国のお偉いさん達の多くは、好まないであろうことは、セレト自身がよく理解していた。


 そのような中、セレトを引き入れると述べていたリリーアーナ。

 ヴルカル自身は、特段、セレトの配属に当たって特別な事はなかったと述べていたが、自身が受けている任務との兼ね合いもあり、リリアーナの部隊に引き入れられたという出来すぎる現実に対し、セレトは、些か混乱をしていた。

 これは、自身の動きに気が付いたリリアーナによる牽制なのか、否か。

 それを考えながら、セレトは、今一度自身の置かれている状況を考える。


 どちらにせよ、既に決まっている話である以上、今更セレトが出来ること自体は多くなかった。

 精々、自身が置かれている状況を今一度鑑みながら最善の手を考えるぐらいしか方法はないのであろう。


 そしてヴルカルが述べていた、自身の屋敷であったとされる問題。

 最もセレト自身、その問題については特に報告は受けていないこともあり、そのことについては、全くと言っていいほど状況は分からずにいた。


 ただし、そのようなことを、いつまでも考えても仕方がない。

 何か自身が知らないところで、様々な状況が動き出していることを実感しながらもセレトは笑いながら準備を整えることにした。

 そしてその笑みは、普段以上にその狂気さを際立たせているように思えた。


 第二十一章へ続く

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