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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間15

 幕間15


 「第七部隊。敵軍の右翼へ突撃!相手の勢いが落ちているぞ!一気に押し込め!」

 クローヌの声に応えるように、「おぉ!」という叫びが上がる。

 同時に、騎馬をメインとした部隊が敵軍に突っ込む。


 先程から一点集中で攻撃を受けていた敵の部隊は、まだ陣形を崩さずに粘っていたが、一斉に突っ込んできた騎馬隊の動きを見て慌てたように迎撃の姿勢を整えようとする。

 突撃をする騎馬隊を待ち受けるかのように、前面に立っている兵士達は、急ぎ槍を構えて騎馬隊の動きを目で追い始めた。

 最も、そのような状況については、当然クローヌも予測をしていた。


 「第三、第四砲撃部隊。砲撃を開始。騎馬部隊を掩護せよ!」

 クローヌの次なる指示に従うように、大砲と魔術が山なりに打ち出される。

 それらは、突撃をしている第七部隊の上を飛び越え、敵の前衛に着弾する。


 雷のような、すさまじい着弾の音に合わせ、敵部隊が木の葉のように吹き飛ばさられる。

 そして騎馬の突撃に備えていた敵の前衛部隊は、この攻撃により恐慌状態に陥り、そのまま迎撃の陣を崩してしまう。


 「怯むな!陣を組みなおせ!。クソ、指示を聞け!」

 敵の司令は一生懸命に呼びかけるが、一度崩れた陣形を立て直すのは容易ではない。

 もはや上官の命令等、誰もが無視をしている。


 「うぉぉぉ!」

 そこに、クローヌの指示を受けた第七部隊が突撃をする。

 前衛部隊が禄に迎撃もできない中、第七部隊は、敵部隊へ一気に突っ込む。

 その突撃を抑えきれない敵軍は、そのまま一気に瓦解する。


 「逃げるなぁ!残って戦え!」

 敵の司令が、一生懸命に叫ぶが、その声を無視して敵軍の右翼部隊は、一斉に撤退を開始する。

 そこにもはや秩序はなく、統制された動きを保ちながら進んでくる、ハイルフォード軍の動きを止めることはできなかった。


 「よし、敵の右翼が崩れたぞ。全軍、このまま押し切れ!」

 クローヌは、敵が崩れたのを見て、一気に攻め込む決断をする。


 ここは、クラルス王国領土。

 セレト達を初めとする、遊撃部隊(おとり)をクラルス王国に送り込んだのち、クローヌは、本隊の到着に合わせて一気に部隊を進軍させた。

 遊撃部隊(おとり)が機能している間に、一気に敵国内に攻め入り、拠点の確保に努めたかったのである。


 自身の作戦が当たったのか、クラルス王国に攻め込んで以来、今日までクローヌは、そこまで大きな妨害を受けずに順調に兵士を進軍させることが出来ていた。

 遊撃部隊(おとり)の予想外の奮闘のおかげか、現状、攻め込んでいる自軍に対する敵軍の反撃は疎らであり、クローヌは、予想以上の軽微な損害で戦線を維持できていた。

 最も、それは、遊撃部隊(おとり)だけが理由ではなかった。


 「敵軍左翼より、魔獣が攻め込んでおります!迎撃に当たった部隊では抑えきれません。」

 伝令が、急ぎクローヌに戦況を伝えてくる。

 伝令を受けたクローヌが、戦況把握用の遠見の魔法で左翼の様子を確認すると、敵軍の中に、ちらほらと異形の姿をした者達の影が見て取れた。


 クラルス王国軍の切り札。そして、前回の遠征時にクローヌに辛酸を嘗めさせた魔獣。

 この地に本来いないはずの、魔の世界から来たと言われる生物達。

 どういう仕組みかは不明であったが、以前よりクラルス王国は、この生き物たちをこちらの世界に召喚し、制御下において軍に組み込んでいたのである。


 翼が生えた醜悪な四足の獣や、角が生えた大柄の一つ目の化け物。

 中には人とそう変わらぬ身に見えるが、背中に翼を生やし、どこか赤みかかった体をして鳥人のような者達もちらほらと混ざっている。

 その姿は、バラバラであったが、ある程度の統制をもって、クラルス王国の軍人達と共闘をしながら、クローヌの部下達を蹴散らしていく。

 迎撃にあたった部下達も、手持ちの銃や刀で何とか抵抗を試みるが、その人離れした力に対応しきれず、数の上では優ってはいるものの、徐々に押し込まれて行っているようであった。

 最も、銃や剣による多少の攻撃じゃ倒しきれずに、人の身よりも大きなサーベルを振り回し続けてくる巨人や、当たった者を燃やしながら溶かす酸の炎を放ってくる獣、あるいは上空から弓矢で狙い打ちながら、隙を見せたら剣で奇襲を仕掛けてくる鳥人等、如何せん、常識というものが通用しない化け物が相手なのである。

 多少の数の差だけで、対応できるのであればクローヌも前回の戦いの時に負けることはなかった。


 「撃て!まずは上空にいる敵部隊を確実に黙らせるんだ!」

 しかし、そのような状況下で、凛とした声を響かせ、クラルス王国の魔獣部隊に立ち向かっていく部隊があった。

 聖女リリアーナが率いる、教会派閥の部隊である。


 彼女達は、訓練された動きで敵に徐々に損害を与え、同時に負傷をした兵士達を癒しながら、戦線の立て直しを図る。

 「大物は、後回しにしろ!それよりも先に空中にいる部隊から、確実に数を減らしていくぞ。」

 リリアーナの副官である、ロットが声をかけながら、自身も光弾の魔術を放つ。

 放たれた光弾は、上空で弓を打っていた鳥人に命中し、その鳥人は、そのまま力を失ったように墜落をしていく。

 見渡すと、別の場所では、五人程の小隊が、光を纏わせた剣と、光弾の集中砲火で、一つ目の巨人を攻撃していた。

 巨人は、その腕を振るい反撃をしようとするが、光弾の集中砲火に隙を見いだせず、一方的な暴力をその身に受けていた。


 そう、魔獣達は、聖魔法とされる光の魔力による攻撃に弱かった。

 そのため、リリアーナを初めとする、聖魔法を得意とする教会派の貴族達が率いる部隊によって、魔獣達も抑えることに成功し、クローヌの進軍計画は、着実に進んでいた。

 元々、この出兵自体を危ぶまれていた聖女達、教会派の貴族達の参戦により、クローヌは、自身の予想以上にスムーズな侵攻成果を得ることが出来たのであった。


 「危ない!」

 リリアーナが叫んでいると思った瞬間、彼女は、襲われそうになった雑兵を押しのけ、襲い掛かってきた四足の化け物と対峙し、次の瞬間その首を斬り落とした。

 そして、そのまま返す刀で上空から切り掛かってきた鳥人の翼を切り裂く。

 鳥人は、バランスを崩し、地面に不時着するが、そのままリリアーナに向かって攻撃を加えようと剣を構えなおすが、その体制を直しきる前に、リリアーナの放った光弾で頭を撃ち抜かれ、そのまま倒れる。


 圧倒的なその力を見て、クローヌはため息をつく。

 これほどの力を持ち、今も自軍の勝利に多大な貢献をしている聖女であったが、これでも身体の調子は、病み上がりということで鈍っているということであった。

 それでも、今の目の前で戦い続けている聖女は、相性の良さもあるかもしれないと言え、クラルス王国軍を自身とその配下のみで押し戻しつつあった。

 そして、先に送り込んで陽動部隊も一定の戦果をあげていることを考えると、本当になにもかもが出来すぎているようにも思えた。


 「魔獣達は、聖女様の部隊に任せろ。最低限の兵士を残し、他の兵士は敵の中枢に突撃をするぞ!」

 取り急ぎ、戦況を確認しながら指示を出す。

 目の前で、突撃をしていった部隊の衝撃を受け止められずに敵部隊が一挙に崩れていく様子が映る。

 恐らく、戦線投入した魔獣部隊が最後の抵抗であったのであろう。

 もはや敵軍に大きく反撃をするだけの力は残っていないようにも思えた。


 「一旦、敵軍と距離を置いて体制を立て直す!退け!」

 敵の司令官らしき男の指示に従い、敵軍は、疎らに反撃をしながら徐々に撤退を開始していく。

 クローヌは、その様子を見ながら一挙に攻め込もうと全軍に指示を出す。


 しかし、一挙に攻め込もうとしたハイルフォード軍の部隊は、敵の殿として残った魔獣達の反撃で止められる。

 「くそ!急いで前方の敵軍を排除しろ!敵軍は崩れているんだ!急げ!」

 クローヌは、必死の思いで叫ぶが、敵の魔獣部隊は、一歩も引かずに暴れまわる。

 教会派の貴族達が率いる、聖魔法の使い手達をぶつけようにも、あちらも別の魔獣部隊の対処に追われ、大きな動きはとれなそうであった。


 その後、クローヌの必死の叫びにも関わらず、敵の魔獣部隊を壊滅させる頃には、クラルス王国軍は、既に撤退を完了をさせていた。

 ここから無理に追撃をしても、体制を整えた敵軍の反撃にあうだけだと考えたクローヌは、進軍を止め、被害状況の確認に入る。


 「いやはや、大勝利ですな。クローヌ大将軍。このまま進めば、無事に我が軍の悲願であるクラルス王国の鉱山資源の取得を達成できそうですな。」

 出兵に当たり、クローヌに与えられた大将軍の位で、彼のご機嫌を取るように述べながら、一人の貴族が話しかけてくる。

 金と歴史だけがあるものの、そこまで軍事的には有能でないその貴族の見通しを聞きながら、クローヌは内心ため息をつく。


 確かにこの戦いについては、激戦でありながらも、そこまで大きな損害を負わずにクローヌは戦い抜いた。

 苦戦を予想されたクラルス王国の魔獣部隊についても、聖女リリアーナを中心とした聖魔法の使い手達のおかげで、クローヌの予想以上の戦果をあげていた。

 他にも何度か敵軍との小競り合いもあったが、それもクローヌ率いる侵攻軍は打ち破り、ここまでの進軍では、特に問題らしい問題もなく、部隊を進めることが出来ていた。


 しかし、何度戦おうと、クラルス王国軍に壊滅的な損害は、まだ与えられていなかった。

 クラルス王国軍は、こちらとの戦いで、ある程度の損害を受けると、すぐに部隊の撤退を開始し、クローヌ達の追撃と猛攻をうまく躱していたのである。

 結果、こちらは快進撃を続けている一方、敵軍の主力部隊は、未だ健在の状態であった。


 間もなく、当初、陽動部隊(おとり)を送り出すときに、合流地点として指定をした敵軍の城へとたどり着くが、そこでは、これまで倒しきれなかった敵主力による必死の反撃があることは容易に予想が出来た。

 その城を落として、自軍の拠点を築き初めて、クローヌがこれまで進めてきた作戦の成功、今までの戦いの勝利とも言えるのであったが目の前にいる貴族にそのことを話しても無駄であろう。

 周りを見渡すと、この度の勝利に喜ぶ兵士や貴族達は他にも多くみられ、大局的なこの戦の状況を理解している物は、そう多いようにも思えなかった。


 「いや、これは、皆様のおかげでございます。貴公の活躍は、きっと王の耳に入ることでしょう。」

 最も、それと貴族達の士気の維持は別の問題であった。

 下手に現況を話したところで、目の前の貴族達の士気を下げるだけで、なんの得にもならない。


 そう考えたクローヌは、精一杯の笑顔で、目の前の貴族に応える。

 クローヌから言葉をもらった貴族は、「王」という単語がよっぽど魅力的に感じたのか、満面の笑みを浮かべて、深々と礼をする。


 そんな貴族の様子を見ながら、クローヌは足早にその場を立ち去る。

 愚かしいと思いながらも、そんな貴族達の力を借りないといけない現況を言い訳にしながら、周りの兵士や貴族達に、わざとらしいほどの世辞や謝意を述べていく。


 もう後、一、二戦もしないうちに、敵の城を攻めることになるであろう。

 それまでに、何とか敵軍の主力部隊の一翼位は落としておきたかった。

 そのための作戦と、万が一それが為しえずに、万全の状態の敵軍が守る城を攻める際の作戦を考えながら、クローヌは歩き続ける。


 「クローヌ大将軍。」

 ふと、凛とした声で呼ばれ、クローヌは、そちらを振り向く。

 そこには、聖女と呼ばれたリリアーナが立っていた。


 見ればリリアーナは、先の戦いでついた血や汚れも落とさずに立っている。

 周辺には、負傷をした自軍の兵士達がいるが、それをリリアーナやその配下達は、癒しの魔法で治療をしているようであった。

 

 「おぉ。リリアーナ卿。今日は、聖女の名にふさわしい、八面六臂の活躍でしたな。」

 ふと、他の兵士や貴族達を見下していた自分が恥ずかしくなりながら、クローヌは、応える。

 彼女達も先の戦いで疲れているであろうに、他の兵士達のために献身的に働いているのを見た瞬間、クローヌは、自身の心が一瞬洗われたような感覚がした。


 「いえ、クローヌ大将軍の的確な指示があったからこその勝利でございます。ところで大将軍、すみませんが、ここの負傷兵達のために、清潔なタオルを回してもらうことは、ご相談できないでしょうか。私共も手元にあるもの使い切ってしまっておりまして。」

 リリアーナは、どこか申し訳なさそうに、おずおずと言葉を続ける。

 見ると、負傷兵の周りには、たくさんの布切れや治療道具が散乱している。

 タオルも多少はあるようではあったが、その多くは既に汚れており、確かに負傷兵達に使うには、些か酷なように思えた。


 「良いですとも。後程、回すように手配をしておきましょう。」

 クローヌは、寛大に応える。

 「助かります。どこも物資が不足している中、寛大な措置に感謝いたします。」

 嬉しそうに答えるリリアーナに対し、クローヌは、笑みで応える。


 聖女リリアーナの噂、戦歴は色々と聞いていたが、恐らく、彼女の一番の魅力は、この献身の心なのであろう。

 まさに聖女の異名に恥じない、彼女の様々な行動を見ていく内に、クローヌは、その素晴らしさと、彼女の信奉者が多い理由をよく理解していった。


 「いえいえ、礼を言うのはこちらの方です。どうしてもこのような遠征となると、負傷兵への対応がおざなりとなってしまうため、このように助けて頂けることは、とてもありがたく、感謝をしてもしきれませんな。」

 そんな彼女に対し、クローヌは、礼を述べる。

 「いえ、私は、自身の務めとして当然のことをしているだけです。」

 リリアーナは、笑いながら、言葉を返す。


 そのままクローヌは、リリアーナと軽く雑談をする。

 雑談の中でリリアーナは、笑いながら、その美貌を余すことなくクローヌに見せ付けてくる。

 クローヌは、その色香に少々惑わされている気がしながらも、その感覚を楽しんでいた。


 「ところで、セレト卿は、どちらにいらっしゃいますか?」

 しかし、そんなクローヌの心は、ふと出た名前で一気に冷めていった。


 「セレト卿?あぁ。彼は特別任務をお願いしており、こちらの部隊にはおりませんな。彼とはお知り合いなのですか?」

 リリアーナとクローヌが犬猿の仲であることは、様々な情報筋からの噂で聞いており知っていた。

 会うたびに、互いに罵りあう程の知り合いであることも、クローヌは十分に知っていた。


 しかし、そんな彼女が、態々そんな男の名を聞いてきたことに、驚きを感じながらクローヌは言葉を返す。

 「いえ、知り合いであるものですから。もし近くにおりましたら、挨拶にでも伺おうかと。でも、こちらの方にいないのでしたら、それは無理なようですね。」

 少々残念そうな声でリリアーナは、応える。


 そんな彼女に何と言葉を返そうかと、クローヌが考えていると、向こうから彼女の部下らしい男がやってくるのが見えた。

 リリアーナの副官のロットという男のようであった。


 「クローヌ大将軍。足を止めてしまい申し訳ございませんでした。」

 リリアーナは、クローヌに軽く礼をする。

 クローヌも、その場で礼の言葉を述べ、そのまま二人は別れることとなった。


 リリアーナがセレトの行方に興味を持っていることに、少々頭を痛めながら、クローヌは、自身のテントへ向かう。

 自身のテントが視界に入り、クローヌはやや早足となる。


 ただ、聖女の興味は、別段自身の計画には、影響はないであろう。

 嫌われ者の呪術師を抹殺するという計画には。


 テントにたどり着き、ふと空を見上げると、星々が輝いている中、満月が大きく光っているのがクローヌの目に入った。

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