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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第十四章「蘇生」

 第十四章「蘇生」


 「撃て!」

 オルネスの号令が響き渡り、そこからワンテンポ遅れるように周囲から銃声、魔術の詠唱が鳴り響く。

 それと同時に、セレトの目の前に多種多様な光が輝くが、その攻撃は、全て事前に展開していた魔力の防壁により霧散する。


 もっとも、防ぎきれずに後ろに逸れてしまった攻撃や、防壁の範囲外から展開された攻撃については防ぎきれず、セレトの後ろに待機していた部隊へ着弾をしている様子が見える。

 そんな攻撃を受けた部下達の苦痛の声が聞こえるが、セレトは、それを無視して自身の魔力を練り始める。

 魔力の動きに合わせ、周辺に漂っていた明るい赤みかかった紫色の煙が、黒色が強い紫色に変色していく。

 オルネスは、こちらを警戒をしているのか、距離を置いて射撃を続けさせて、一気に攻め込んでくる様子はなかった。


 そんな状況下で、セレトは、自身の魔力を一気に開放をする。

 瞬間、自身の周囲に浮かんだ紫色の煙が周囲に拡散を始める。 

 毒の危険性を考慮してか、オルネスは部隊への警戒を呼びかけようとする。

 セレトは、そんなオルネスに向かって一気に突っ込んだ。


 背後では、グロックとアリアナに率いられた部下達が、セレトの動きに合わせて一斉に四方に広がりながら敵部隊に襲い掛かる。

 完全に虚を突かれた形となった敵部隊は、迎撃に遅れ、戦いは一気に混戦へと移行した。


 「落ち着いて狙え!敵の将を落とせばいいだけだ。」

 オルネスは、部隊に指揮をしながら、自身に向かって突っ込んでくるセレトの方を見る。

 セレトは、腰の刀に手をかけて、一気に距離を詰めようとするが、その距離は、切りかかるには、まだまだ離れすぎていた。

 先程、セレトが展開した毒々しい色をした煙は、セレトが元居た場所から徐々に広がりを見せていたが、その煙がこちらに到達するのは、まだまだ先のように見えた。


 そのことを確認したオルネスは、落ち着いた動作で呪文の詠唱に入る。

 その様子を見た彼女の部下達は、自身の将を援護するように、セレトに向けて一斉に射撃を開始する。


 オルネスに切りかかるには、もう十歩程足りない距離で、セレトは敵の攻撃を一斉に受ける。

 避けきれないと判断したセレトは、足を止め自身の魔力を展開し、防壁を展開する。

 銃弾、弓矢、敵の攻撃魔法と様々な攻撃が一気に襲い掛かり、セレトとその周囲に一斉に着弾する。

 しかし、セレトはその全てを自身の防壁で受け止め抜く。


 土埃が収まり、自分達の攻撃を耐え切ったセレトを見たオルネスの部下達は、驚愕の表情を浮かべる。

 たとえ、仕留めきれないであろうと、これだけの攻撃を受けたセレトが何らかのダメージを負うことを考えていたようであった。


 そんな様子を見ながらセレトは、一気に攻め込もうと防壁を解除し、足に力を入れて飛び込もうとする。

 動揺した敵軍に、そのまま攻撃を加えようと考えたその時、詠唱を終えたオルネスの手がこちらに向けられる。

 彼女の手に込められた魔力の規模は、セレトの予想を超える量を込められていた。


 防壁を張りなおす暇はなかった。

 セレトは、そのまま詠唱前に彼女を潰そうと足を動かす。

 しかし、セレトが切りかかるには、その距離は離れすぎていた。


 「死ね!」

 オルネスは、自身の声に合わせて手を振り下ろす。

 すると、その手の動きに合わせて、大量の氷柱がセレトに向けて打ち出された。


 避けるようとしても、氷柱は広範囲に広がりながら、セレトに向かって飛んでくる。

 防壁を張りなおす暇もない。

 こうなってしまったからには、このまま何とか耐え切るしかなかった。


 そのままセレトは、足に力を入れてオルネスに飛び掛かる。

 魔力が込められた氷柱がセレトの身体を打ち抜いていく。

 それでも、セレトは、オルネスに一矢報いようと、右手には刀を持ち、左手には魔力を込め、彼女に攻め込む。


 しかし、そんなセレトの必死の攻撃は、特段大きい氷柱が腹を抉りながら、セレトのバランスを崩したことで止められる。

 大型の氷柱が、セレトの腹を打ち抜くと同時に、セレトは、オルネスの手前に頭から転がり落ちる。

 その様子をオルネスとその部下達は、馬鹿にしたような目で、見つめている。


 そしてセレトは、オルネスの三歩程手前の距離に倒れ込む。

 そんなセレトに止めを刺すべく、オルネスと彼女の部下達は、各々の飛び道具を構え、セレトに狙いをつける。

 例え弱り切っている敵であろうと、不用意に近づかずに止めを刺すべく、各々の攻撃が放たれようとする。


 その瞬間、セレトは、力を籠め一気に立ち上がり、オルネスの方へ飛び込む。

 瀕死の敵ということで、どこか気を抜いていたオルネス達の顔が驚愕に浮かぶ。


 「おらよ!」

 声に合わせて、セレトは自身の刀で、オルネスに切りかかろうとする。

 切っ先には、既に魔力が込められ、どす黒いオーラを纏っている。


 「くそ!」

 オルネスは、口汚く言葉を放つと、セレトの刀をぎりぎりのところで受けて、そのまま距離を取る。


 セレトは、そんな彼女に追撃を加えようとする。

 しかし、彼女の部下達が慌てて、セレトとオルネスの間に割って入る。


 一人の兵士がオルネスとセレトの目の前に割り込みながら盾を構え、セレトの攻撃を受け止めようとする。

 同時に二人の兵士が左右より切りかかってくる。

 オルネスは、距離を取りながらも、右手に拳銃を構えてセレトを狙い打とうとする。

 このまま切りかかれば、一気に三方向より反撃を受けることとなるだろう。


 これらの事象をセレトは、確認をしながら一瞬で判断を下す。

 そして、そのまま自身の刀を盾を構えた兵士に向かって全力で振り下ろした。


 しかし相手の兵士は、セレトの刀の動きを冷静に確認しながら、そのまま振り下ろされた刀を盾で防いだ。

 刀と盾がぶつかり合い、鈍い金属音があたりに響く。

 セレトが振り下ろした刀は、その盾によって、軌道を止められることとなった。


 瞬間、刀と盾がぶつかった箇所から、黒いオーラが噴出される。

 そして黒いオーラは、刀を形どりながら、そのまま盾を構えた兵士を頭から足元まで一気に両断をする。


 「ひっいぃ。」

 切られた兵士の断末魔が響くが、オルネスと両脇から切りかかってきた兵士達はそれらを無視するかのようにセレトに攻撃を加えようとする。

 火を噴いたオルネスの銃はセレトの左足を打ち抜き、兵士の剣がセレトの左腕と右の脇腹を切り裂く。


 一瞬、気を失うような痛みがセレトに襲い掛かるが、同時にその痛みでセレトは奮起をして、そのまま右側にいる兵士に向かって切りかかる。

 今の攻撃による傷口から血が噴き出しているが、セレトは、それを気にせずに襲い掛かる。

 敵兵士は、血を噴き出しながら、そして自身の攻撃で肉体を切り裂かれながらも、そのまま突っ込んでくるセレトに驚いたような顔をしながら、ワンテンポ遅れたタイミングで防御の構えを取ろうとする。

 しかし、その防御は間に合わず、セレトの刀が敵を切り裂こうとする。


 敵の兵士は、なんとか身をよじりながら、セレトの刀の直撃を避けるが、その攻撃を完全に避けられず、右肩の一部をセレトに切り裂かれる。

 セレトは、刀を振り向いた勢いを利用して、そのまま一気に敵部隊から距離を取る。

 体勢を直したセレトが向き直ると、オルネスとその部下達が驚いた顔をしながらも、各々の飛び道具をセレトに放つ。

 しかし、セレトは、再度防壁を展開し、それらの攻撃を防いだ。


 「君は、化け物かい?」

 セレトとの切りあいで目立った負傷こそないものの、相当体力を消耗したのか、肩で息をしながらオルネスが呟く。

 先程まで弾を放っていた拳銃は、銃口から煙を出しながらも、セレトに向けて狙いをつけて構えられていた。


 「いやはや、私は、ただの魔術師だよ。」

 セレトはそう返しながら、敵の様子を見る。

 敵の兵士達の多くは、動揺こそしているものの、まだ戦えるようであった。

 最初に盾ごと切り裂いた兵士は、完全に仕留めきったのか、倒れたまま起き上がる気配はない模様であったが、最後に肩を切り裂いた兵士は、まだ戦えるのか、傷を庇いながら武器を構えてこちらを睨んでいた。

 他の兵士達も、多少の手傷こそ負っている者はいれども、まだまだ戦いには支障はないようである。


 「いや、君は明らかに狂っているよ。」

 比較的負傷が少ないオルネスがぼやく。


 「その体、一体どうなっているんだい。」

 ぼやくオルネスのその目は、今も蘇生(リジェネ)が続くセレトの身体に向けられていた。


 この蘇生(リジェネ)は、セレトにとって自身の切り札の一つともいえる、呪いであった。

 魔力切れや、生命活動を完全に停止するような傷でも負わない限り、セレトの魔力を媒体に徐々に身体の蘇生を続ける力。

 元々、呪術師であるセレトは、決してできないわけではないが、剣術のような肉弾戦は苦手であったが、この蘇生(リジェネ)によって、セレトは、自身へのダメージを気にせず、強引な攻めを継続することが出来、結果、数々の武功を立ててこれたのである。


 そのような強力な力をセレトがその身に宿していることを悟ったオルネスは、その動きを警戒しながらも信じられないような者を見る目で見つめる。

 「蘇生(リジェネ)の呪いだろ。それは。その者の魔力を媒体に、強引に苦痛ある生を維持させ続ける禁術。なんでそんな術を身に纏っているんだい。君は、」


 そう、オルネスが述べる通り、蘇生(リジェネ)は、本来は、対象を苦しめるための呪いの呪術としての役割の禁術である。

 その身を蘇生し続けると同時に、その者の魔力を強引に活性化させ苦痛を伴う蘇生を実行させる。

 どんな拷問によっても対象を死なさず、同時に、拷問と蘇生の苦しみの二重苦を味わさせる狂った魔法。

 蘇生を行わない間も、常に本人の体中を流れ廻る血液と魔力に毒素として存在し続けることで、苦しみを与える力。

 魔力を使おうとすると、その魔力を通して、その者の身体を苦しめる呪術。


 そんな力を、自身の身体に宿し、戦い続けるセレトは、オルネスからすれば明らかに狂った存在なのであろう。

 だが、セレトは、にやりと笑う。


 確かに蘇生(リジェネ)は、身体を蝕み続ける。

 狂いそうになるような痛みをこの身に与え続ける。

 だが、それでもセレトは戦い続けることができる。


 セレトは、考える。

 誰も信じられないこの状況、信じられるのは自身の力のみであるこの状況。

 そんな現状で生き抜き、自身が望む場所に行くために、この程度の呪術、飲み込めない道理がないと。

 だから、セレトは、幼い頃、自身にこの呪術をかけた。

 気が狂いそうになりがらも、この呪術による痛みに耐え抜いたのである。


 「だが種が分かれば、いくらでも対策はある。」

 そのように疲れたような笑みを浮かべながら述べて、オルネスは、右の掌をこちらに向ける。

 彼女の部下達も、自身の武器を構えてセレトに狙いをつける。


 「そうかね。私は、貴公に降伏を進めるよ。オルネス卿。これ以上、無駄に血を流す必要もあるまい。」

 セレトは、皮肉な笑みを浮かべながらオルネスに話しかける。

 当然、オルネスがこちらに降伏する意思等はないことは、よくわかっていた。


 オルネスは、それを受けて、小ばかにしたように鼻を鳴らすと、掌に魔力を込めて呪文を唱える。

 「反蘇生(アンチリジェネ)。」

 瞬間、オルネスの右手が光、その光がセレトに一直線に伸びてぶつかる。

 同時に、オルネスの部下達が一斉にセレトに向かって攻撃を開始した。


 「哀れだね。どんな魔術であっても、そこに魔力が介在している以上は、対抗の魔法がある。貴公のご自慢の蘇生の力も封じる方法などいくらでもあるんだよ。」

 オルネスは、セレトにぶつけている光に、より魔力を込めながら、憐れみを込めて言い放つ。

 同時にセレトの体内で暴れまわっていた、蘇生の魔力が弱まっていくことを実感する。


 オルネスは、セレトの蘇生の力を封じようと反属性の力をぶつけてきたのであろう。

 セレトは、そのことを確認すると、後方を一瞬見る。

 先に放った紫色の煙は、薄くなりながらも戦場中に広がっていた。

 セレトは、そのことを確認すると、自身の心臓に、魔術を込めた自身の剣を突き刺した。


 「哀れだね。たかが一つの手札を封じただけで勝てると思っているなんて。」

 セレトそう述べると共に、セレトの身体は、霧散する。

 オルネス達は、目の前で起きていることが理解できないかのように驚いている。


 霧散したセレトの身体は、そのまま背後に迫っていた紫色の煙と合わさる。

 驚いているオルネス達の目の前で、その広がり続けていた煙は、セレトと合わさることで、統制が取れ始めていく。

 そして、その煙は、意思を持っているようにオルネス達の方へ向かってきた。

 反蘇生の呪術を放っていたオルネスは、その魔力をより高めるが、迫ってくる煙に効果はないようであった。


 全てが狂っているような快感を実感しながら、セレトは、自身の力をより強く開放していくのであった。


 第十五章へ続く

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