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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第十三章「盗賊」

 第十三章「盗賊」


 「旦那。先に向かった奴らが、北に400m程進んだ場所で、村を見つけたようです。地図だと恐らくこの場所ですな。」

 斥候に出した部下達から報告を受けたグロックが地図を指さしながら現況の説明をしてくる。

 グロックが地図で指さした先には、確かに村の印が付いていた。


 「どうしますかい?とりあえず潰しておきますかね。」

 グロックは、軽い口調で自身の腰に差した刀に手を伸ばしながら、セレトに問いかける。

 もっとも、その口調と態度に反し、身に纏う雰囲気は、歴戦の傭兵らしく殺気に満ちたものであったが。


 セレトは、その様子を見ながら軽く一考をするふりをしながら一呼吸を置き、口を開く。

 「ふむ。とりあえず村を囲むように部隊を配置しよう。指示を出してくれ。」

 もちろん、ここで出す答えは元より決まっている。


 本国、クローヌの指示に従い、セレトは現在、山道を進軍しながら、行く先々の拠点を攻撃をしている最中であった。

 あの日、クローヌから指示を受けたセレト達は、そのすぐ翌日には、部隊を整え、各々の侵攻ルートへ向けて進軍を開始した。

 セレト達が進軍を開始すると同時に、クローヌ達が率いる本隊が、敵の本陣に向かって進撃。

 そして、本隊が、よくある国境付近の小競り合いを演じて敵部隊を引き付けている隙に、セレト達、各別動隊は自身の侵攻ルートへと到達。

 その後は、各々の部隊を率いて、当初の指示通り、クラルス王国内の各拠点へ攻撃を開始しているはずであった。


 もっともセレトは、他のルートに送り込まれた部隊がどうなったかを知ることはなかった。

 またクローヌは、各部隊に案内役として自身の部下を配属させていたが、その兵士達も国境を超えて少々進んだところで、報告に戻ると言い、本陣に引き返していった。


 それ以降、セレトは自身の部下のみでクラルス王国内を、渡された地図を頼りに進んでいた。

 恐らく、クラルス王国内に混乱を起こすためだけに送られたこの部隊は、基本的に使い捨てを前提に運用されていることを、セレトはよく理解していた。

 実際、クローヌからは、奇襲性や隠密性を高めるために、部隊の規模を制限する指示があり、その兵力は、決して十全なものとは言えない状況であった。

 そのため、今セレトが率いているのは、領土から連れてきた部隊の中から厳選した130名程の兵士達のみであった。


 それでも、普通の町や村に常駐している警備部隊程度の相手であれば、この程度の兵力でも十分に対応は可能であった。

 しかし、三つ目の町を攻撃した際、セレトは、その町で戦った敵部隊の数と質がこれまでと違うことに気が付いた。

 これまでの警備隊とは別に、明らかに軍事的な訓練を受けた部隊が、セレト達の襲撃に応戦をしてきたのである。

 その日は、何とか攻撃を仕掛けた拠点を落とせたものの、セレト側にも予想よりも大きな損害出ることとなり、セレトは、否応なく、今後の進軍について再考をする必要が出てきたのである。


 そして、それでも先に進み続けるため、その後もセレトは進軍を続けながら今に至る。

 途中、何度か町や村に襲撃をかけたが、そのどれもが、進軍を開始した当初の頃よりも警備が厳しく、明らかにクラルス王国の正規部隊と思える部隊が応戦をしてきた。

 つまるところ、セレト達の襲撃に対しクラルス王国の軍部が警戒を高め、より強力な部隊を配置してきたのであろう。


 次の村は、どうであろうかとセレトは、考えながら手に魔力を込めて周りを見る。

 グロックは、手早く部下達を分けながら指示を与える。

 彼の部下である柄が悪い傭兵達は、各々の武器を手入れしながら、指示を聞いていた。

 アリアナは、村の方を見ながら機嫌が良さそうな笑みを浮かべていた。その手の周りには、セレトと同じく魔力でも込められているのか、黒い煤のようなものが集まっていた。

 彼女の部下達は、そんなアリアナの様子を恐れるように距離を置いて眺めている。


 「旦那。兵士達に指示は出したぜ。」

 セレトの思考を中断するようにグロックが声をかけてくる。

 「私も、準備はできております。」

 アリアナもグロックに合わせるように報告をしてくる。


 グロックは、歴戦の傭兵らしく落ち着いた素振りで、アリアナは、これから始まる戦いに思いを馳せているのかどこか恍惚とした表情であったが、両者の目は、この戦いに対する期待で鈍く歓喜の光を宿していた。

 そんな部下達の様子を見ながら、セレトは、自身の魔力を込めた手に力を籠める。


 「二十分程したら、我々本隊は、村に突っ込む。村の周囲に配置された部隊は、その場で待機。村から逃げ出した奴らを確実に始末してくれ。」

 部下達に指示を出し、自身も来るべき戦いに備える。

 セレトの言葉を聞いた兵士達は、血に飢えたような表情に喜色を浮かべながら、自身の持ち場へついていく。


 戦いを望む部下達を眺めながらも、セレトは、自身も彼らと同じように笑みを浮かべていることに気が付いた。


 それから、二十分後。

 部下達が持ち場につき、セレトも部下達を率いて村の近くまで部隊を進めていた。

 グロックとアリアナも、離れたところで各々の部隊を率いて、セレトの合図を待っているはずであった。


 近くまで行くと、村はその規模に反し、それなりの防衛部隊が配置されているようであった。

 昨今の近隣の町や村への襲撃に対する警戒か、それとも、拠点として重要な場所であるのか。

 もっとも、セレトにとっては、それはどちらであっても関係はないことであったが。


 部下達に目で待機を指示すると、セレトは、自身の左手に込めた魔力を軽く開放する。

 その手の動きに合わせて、やや黒色が強い、鈍い赤色の炎が巻きあがり、地面に当たる。

 すると、その炎は徐々に人型へと形どりながら、その勢いを弱めていく。

 そして炎が消えたその場所には、剣と盾を武装をした10体の骸骨の兵士、スケルトンが、セレトの方を向きながら立っていた。


 セレトは、自身が召喚したこの兵士達を一通り眺めると、魔力を込め、指示を出す。

 すると、セレトの指示を受けたスケルトン達は、自身の武器を引きずるようにしながら、村に向かって歩を進めていった。


 しばらくすると、村の方から叫び声が聞こえ、スケルトン達に対し、銃や弓で応戦する様子が見えた。

 その様子を見ながら、セレトは、心の中でせせら笑う。


 所詮スケルトンは、魔力もほとんど使わずに気軽に召喚できる捨て駒に過ぎなかった。

 とりあえず、村の防衛状況を確認するために召喚をしてみたが、村には、特段、特別な防衛部隊は配置されていないようであった。

 スケルトン達は、その数を七体程に減らしていたが、すでに村の門に取り付き、門の破壊を始めていた。

 防衛にあたっている兵士達が慌てて、門に張り付いたスケルトン達に集中攻撃を仕掛けようとしてたが、焦っているのか、その攻撃は、今一精度はよくないようであった。


 その様子を見たセレトは、部下達に合図をし、一気に攻め込むことにする。

 狼煙をあげ、近くで待機しているグロックとアリアナにも指示を出すと、セレトは一気に村に向かって部隊をかけさせた。


 スケルトン達の対処に追われていた村の防衛部隊は、三方向から攻め込んでくる敵の増援を認めると、慌てたように指示を出しているようであったが、セレトはその様子を無視して、右手に魔力を込め、呪文を唱えると、それを村の門に向かって放つ。

 魔力の塊は、門に着弾すると、その場所を中心に黒い炎をまき散らしながら、その場にいるスケルトンと敵兵を巻き込みながら門を焼き始めた。

 慌てたように、門の火を消そうと防衛部隊たちは、炎に水をかけるが、その効果は薄いのか、炎の勢いはとどまらず、門を燃やし続ける。

 炎に巻き込まれた兵士達が苦しむ中、スケルトン達は、身体にまとわりつく炎を気にせずに破壊活動を続ける。


 セレトは、慌てたように水をばらまく敵の兵士達を馬鹿にしたように笑いながら歩を進める。

 部下達は、そんな混乱をしている敵部隊に対し、各々の弓や銃を打ち込み止めを刺していく。


 セレトが敵に向かって放ったのは、対象を腐食させる黒炎の魔法であった。

 一見、炎のように見える魔法は、炎ではなく、腐食の呪いであり、そんなものにいくら水をかけたところで無駄である。

 そんな中々消えない炎に右往左往する敵部隊に対し、セレトは、あざ笑いながら攻撃を加えていく。


 相手の部隊は、慌てて立て直しを図っているのか、部隊を下げようとしているようであった。

 そんな状況に、左右から、グロックとアリアナの部隊が、村に突撃をしようとする様子が見えた。


 もう問題はないだろう。

 そう考えたセレトは、一気に部隊を前進させる。

 敵も多少数はいるようであったが、このまま一気に攻め、体制を立て直す暇も与えず敵部隊を壊滅させるため、セレトは七体のスケルトンを伴い、自ら村に攻め入る。


 途中、セレトの黒炎に焼かれながら、のたうち回っている兵士を見、止めを刺す。

 村の住民達は、最初の襲撃で避難をしたのか、辺りには応戦をする兵士達以外に人影はないようであった。


 それなりに豊かそうな村の様子を見回しながら、ここで回収できそうな食料等にセレトが思いを馳せていると、急にこちらに向かって弓が飛んできた。

 セレトに当たりそうになった弓は、セレトが展開をしていた防壁の魔法に阻まれる。

 油断大敵と考えながら、セレトが弓が飛んできた方向へ顔を向けようとした瞬間、急に随伴させていたスケルトン達が光に包まれたと思った瞬間、消滅をした。


 何者かの解呪の魔法によって、その内包している魔力を霧散され、召喚が解除されたことに、セレトが気が付いた瞬間、急に村の奥より大量の光弾が飛んでくる。

 慌ててセレトは、防壁の魔法を強める。

 防壁にあたった光弾は、威力はそこまで高くはないのか、防壁に当たると、その力を霧散させ消失させた。


 慌てて周辺を見ると、先ほどまで攻め込んでいたはずのセレトの部隊達は、急な飛び道具によって混乱の状況に陥っていた。

 幸い、損害らしい損害はでていないようであったが、光弾への対処で、部隊の統率が崩れてしまい、兵士達は各々の身を守るための対応を余儀なくされているようであった。

 アリアナとグロックが、何とか自身の部隊だけでもまとめようとしていたが、この状況下では、そう上手くいかないようであった。


 撤退をすべきかと一瞬セレトは考えるが、すぐにその考えを捨てる。

 今、下手に敵に背を向けると、そのまま追撃を受け、壊滅的な被害を受けることは明白であった。


 この様子では、敵もそれなりに強大な部隊を有しているのであろう。

 罠という単語が頭の頭の中を駆け巡るが、そのことを今は考えても仕方ないであろう。


 そのように考えをまとめようとしていると、光弾の砲撃が終わり、村の奥から一団の騎士達が現れた。

 しっかりと整った装備。決して数は多くないようだが、どの兵士達も、それなりに訓練と実戦の経験があるように思えた。


 セレトは、部下達を集め、体制の立て直しを図りながら、相手の様子を眺め続ける。

 すると、敵の隊長らしい一際立派な馬に乗った、銀髪の長髪を掲げた女性が二人の部下を連れて、前に踏みでてきた。

 セレトが、対応を考えているうちに、敵の隊長らしい女性は、歩を止め、セレト達に声をかけてきた。

 

 「さて、貴公達は何者だ。降伏をするのであれば命の保証はしよう。今すぐ武装を解除してこちらに投降をしたまえ。」

 凛と響く声。

 「あぁ逃げようとしても無駄だぞ。既にこの村の周りは固めてある。そちらの別動隊も確認している。彼らの助けも望めないものと考えたまえ。」

 その女性の嘲笑を含んだような声に合わせて、セレト達が攻め入った村の入り口の方に、敵の兵士達が現れる。


 その様子を見て、セレトは、仕方がないと一歩前に出て向こうに声をかける。

 「いやはや。こちらを完全に包囲をしているようだな。大した手腕だ。恐れ入った。」

 時間稼ぎも兼て、とりあえず向こうに声をかける。

 見たところ、敵の数も決して多くない様であった。

 最も、ここまでの動きを見るに、その練度や実力は、決して低くはないようであったが。


 「ふん、最近この辺りを荒らしている賊がいると聞いて、網を張っていたが、大したことはなかったな。さて、貴公は何者だな。盗賊団の頭にしては、ずいぶん身なりが整っているようだが。」

 つまるところ、これは罠であったのだろう。 昨今、派手に動きすぎた代償として派遣された討伐部隊。

 もっともセレトは、この状況にそこまで悲観はしていなかったが。


 「さーね。ところで貴公は何者だい。女性とは思えない大胆な用兵。よく訓練された兵士達。決してそこらの防衛隊ではないとは思うのだが。」

 敵部隊は、銃や弓をこちらに向けながら、こちらを警戒していた。

 下手に動けば、一斉に攻撃を受けることになるのであろう。


 「さて、そこいらの賊に名乗るのも癪だが。まあいい。私は、キユロ第三騎士団団長のオルネスだ。主君であるキユロ代官の命により、お前達を討伐しにきた。とでもいえばいいか?」

 そう話しながら、オルネスは、自身が腰に掛けている拳銃に手をかけると、セレトに狙いを覚ます。

 「さあ次は、お前らの番だ。明らかに盗賊団とは違う整った軍備、統率された動きをする、お前らは、何者だ?」


 セレトは、そんなオルネスの様子を見ながら、ため息をつく。

 恐らくクローヌの狙いは、ここにあったのであろう。

 補給線の壊滅や、敵の錯乱も目的であろうが、本来の目的は、このような優秀な部隊を主戦場から離すための囮部隊。

 そろそろ、クローヌが率いるハイルフォード王国本隊も進軍を開始しているであろう。

 そのような時期に、目の前にいるオルネスのような将を戦場から遠ざけられるメリットは計り知れなかった。


 最も、セレトは、クローヌの思い通りに動くつもりなど、毛頭もなかった。


 「先程も言ったように、抵抗をしなければ当面の命の保証はしよう。ただ勘違いするな。お前達は、国土を荒らした賊だ。もし刃向かうつもりなら容赦なく殲滅をする。」

 そして、目の前のオルネスの言う通りにするつもりも全くなかった。


 「さあどうする?」

 その、女性特有のキーキーとやかましい声で煩いその声に、セレトは、だんだん嫌気がさしてきた。


 そして、女性で騎士団長という立場である彼女に対し、セレトは、自身が最も嫌っている、あの女性騎士団長の面影を見、より不愉快な気持ちになってきた。


 周りを見る。

 グロックやアリアナは、慣れた感じで、いつでも飛び出せるような体制で寛いでいた。

 部下達も同様である。


 「心遣い。感謝しよう。」

 セレトは、一歩前に踏みでながら、オルネスに向けて声を張り上げる。

 その足が動いた瞬間、周辺の兵士達の狙いが一斉にセレトに向けられる。


 「騎士団長、オルネス殿。貴公の申し出は、大変ありがたい。」

 オルネスは、セレトのその言葉を聞きながらも、油断ない目でその動きを見つめている。

 これ以上の小細工は難しそうであった。

 

 だから、セレトは、そのまま言葉を放つ。


 「だが、申し訳ない。貴公がとても気に食わないのだ。」


 撃て、というオルネスの声が聞こえたような気がしたが、それより前にセレトは、一気に魔術を展開する。

 紫色の霧がセレトの周辺に漂い始める。

 背後に待機していた部下達が一斉に武器を取り戦闘態勢に入る。


 そんな状況を感じながら、セレトは、笑みを浮かべる。

 状況は追い詰められて不利。一歩間違えれば、この場で壊滅もありえるかもしれない。

 それでも、セレトは笑みを浮かべていた。


 その笑みは、狂気を含んでいたかもしれない。

 それでも、どこか玩具を見つけた子供の用に、喜色が詰まった笑みのように思えた。 


 第十四章へ続く

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