幕間2-46
幕間2-46
闇の中、セレトはただ突き進む。
それは長い時間をかけていたようにも思えたし、一瞬であったかもしれない。
だが、それは到達に終わった。
「くそ!出てきたか!」
周囲から声が聞こえてくる。
だが、セレトは、その声を無視して自分の身体を確認する。
短い手、動きづらい足、碌に言葉を発せられない口、明らかにこれまでの自分と異なる身体。
だが、自分をこれまで縛っていた様々なしがらみを感じられない身体。
「どいて!私が始末する!」
女の声。
この身の母であり、今、この身を生み出した、自身と因縁がある女の声。
魔力の塊をベースとした存在を強引に生み出させられたばかりというのに、そのことを感じさせないような動きで右手で剣を握り、こちらにつきつけようとしてくる。
その目には、涙のようなものが見える。
あぁだが哀れな話。
生み出されたばかりのこの身でも、魔力は十分に有している。
そして、セレトはその身を霧に変えた。
嘗てのような黒い霧ではなく、その中に金色の光が混ざった、鈍い光を放つ霧に姿を変える。
結果、その刃は空を切り、セレトはそのまま消え去る。
力を失った身だが、魔力だけは、これまでと異なる力が混ざり、嘗てより高まった力が渦巻いている。
リリアーナの身に植えつけた種は、彼女の力を奪い取り、その力を元に、新しい自分の身体を生み出した。
この力を得た身、幼い身体は、今から自分の力を注ぎ込めば、理想的な力を得ることができるだろう。
あぁ、これこそが自身が望んだ者。
憎きあの女の力を得て、新たな存在に生まれ変わった自分。
万能感が、彼の気持ちを更なる高みに連れていく。
城外にて実体化を行い、そのまま城の兵士達が気づく間もなく再度、霧化をしてセレトは王国内を飛び回る。
かつて自分が別邸を構えていた屋敷は、取り壊され、市民がくつろぐ広場となっている。
あの夜、ヴルカル達に呼び出された宿屋は、あの頃のまま営業をしているようだ。
初めてリリアーナ達に襲撃をしかけ、楔を打ち込んだ城門近くの広場は、再開発が進んだのかたくさんの民家が建っている。
そして、王国を一通り見終えたセレトは、そのまま城外で身体を実体化させる。
ここから全てが、再度始まる。
あの女も、この国も、全て、終わらせてやる。
「ふん、まさかまだ生きているとはな」
ユノースが腹立たしそうに声をかけてくる。
「約束通り、集合場所には来てやった。今後の生活も保障はしてやる」
つまらなそうに、ユノースは、セレトに向けて言葉を続ける。
その代わり
「その身、時が来たら我が主、ヴルカル様に捧げろ。それが条件だ」
あぁいいとも。
それがお前らの望みなら、その計画利用をしてやる。
その日、魔術師は、主の復活を望む騎士と契約を結んだ。
その日、聖女は力の多くを失った。
その日から、ハイルフォード王国は、発展を続けていった。
そして、聖女と魔術師は、次の戦いへと向けて動き始めた。




