第四十五章「戦後処理にまとわりつくもの」
第四十五章「戦後処理にまとわりつくもの」
旧ハイルフォード王国領で始まった戦いは、あっけなく終わった。
犠牲も出たが、それは当初予想されたよりもはるかに少なく、世界中を巻き込むと思われていた大戦というには、非常に小規模な戦いであった。
旧ハイルフォード王国領に展開されていた敵軍は壊滅。
残存戦力は、そのほとんどが投降し、セレトやヴルカル等、一部の幹部だけが姿を晦ました。
最も、その幹部達も世界中から睨まれている今、再度決起することは難しいだろう。
既に付き従う兵もほとんどなく、兵を動かすために必要な資金と物資も、全て失ったのだから。
魔物が闊歩し、廃墟となりつつあった旧ハイルフォード王国領にも、徐々に人が戻り始めて、嘗ての賑わいが戻りつつあった。
そして、人が戻り始めた王国領を、嘗ての王族や貴族達が改めて統治を初め、復興は急速に進みつつあった。
新生ハイルフォード王国は、この戦いで手を取った様々な国家と改めて同盟を結び、ここに大陸の平和が訪れた。
こうして、平和が訪れる、はずだった。
全ての戦いが終わった今、旧ハイルフォード王国領奪還の作戦に従事し、実質的な総大将となったリリアーナは、救国、いや世界を救った英雄として、多くの人々に持て囃された。
英雄である聖女様を中心に、人々は一つになろうとしていた。
そして、新生ハイルフォード王国においても、この国を支える中心メンバーとして、彼女を迎え入れるつもりだった。
だが、彼女は表に出て来なかった。
多くの者達が望み、期待を向けられながらも、彼女がいないまま国家の復興は進んでいった。
「痛い!痛い!あぁぁぁああ!」
王国にある屋敷の一室。
その場所で、リリアーナは叫び続ける。
先の戦いで、セレトに付けられた傷は、彼女に定期的に苦痛を与え続けていた。
故に彼女は、一日に何度か叫び、暴れまわるため、この屋敷に隔離されていたのである。
だが痛みは、薬で紛らわすことができる。
それでも彼女が表に出て来れないのは、その身体に起きている変化による物であった。
「リリアーナ様、お気を確かに!痣が広がっております!」
治療にあたる護衛の騎士が宥めるように声をかける。
その言葉が示すように、リリアーナの身体の至る箇所に、様々な色による痣が出来ていた。
痣は彼女の感情に連動するように広がり、彼女の身体をより醜くしていった。
「あれは、この忌々しい物は、どうなっているの?」
痛みを堪えながら、リリアーナは怒りの声を上げる。
「それは、その」
護衛の騎士が言い淀む。
「順調に育っていますよ。汚らわしいことにですけどね」
その背後から、現れたオルネス、嘗てヴェルナードの部下であり、セレトとの戦いでその身に彼の呪いを受けた女は、つまらなそうにリリアーナに状況を告げる。
長い間、その呪いによって身体が衰弱し死に向かって眠りについていたが、そこから何とか生還をした稀有な存在。
その経歴を買われ、セレトから呪いを受けたリリアーナの治療のために引き抜かれた一人の将。
「そう」
その説明を聞いて、ため息をつくと、リリアーナは痛みを堪えながら、そのままベッドに横たわる。
痛みはまだあるようだが、発作は大分収まった模様であった。
「恐らく彼の呪いがまだ未完成なのでしょう。しかし、今後も徐々に魔力がなしこまれて、これが完成した時が、生まれるときですね。そうなる前に、何か対処はしたいですが」
オルネスは淡々と説明を続けると、そのまま護衛の騎士達と共に、リリアーナの様子を見つめていた。
彼女を人前に出せない最大の理由。
それは、その身を蝕んでいた呪いのせい、他ならなかった。
身体中に不気味な色の斑点を多数生み出し、そして彼女の腹部は不気味に広がりつつあった。
多数の魔導士たちが調べたところ、その腹部には、何らかの生き物が成長しつつあるようであった。
全ては、王国によって隠され秘密裏に進んでいた。
まだ基盤が固まっていないこの国を確固たる強国とするため、リリアーナの存在は必要不可欠なはずであった。
ただ、リリアーナの身体は、そんな多くの思惑とは別に、徐々に、不気味に成長を続けていくだけであった。
第四十六章に続く




