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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-44

 幕間2-44


「くくく。いやはや、逃がしてしまいましたか」

 実体を取り戻したユラは、笑いながらむしり取ったセレトの身体の一部を床に投げ捨て呟く。


 完全に油断をしていたセレトであれば、そのまま仕留められると思っていたが、そこまで甘い相手ではなかった。


「まあいいでしょう。もう一つの目的はうまくいったようですし」

 そう言いながら、ユラは戦いの場から立ち去る。

 セレトを潰せなかったのは痛手だが、リリアーナが助かったのは上出来だった。

 大筋は、目的通りに動いているのであれば、後は、何とでもなるだろう。

 そう考え、ユラは、次の一手のため動きだした。



「くそ、あの魔女が!」

 ハイルフォード王国の領土外に逃げ切ったセレトは、苛立ちを隠そうともせずに呪詛を吐く。

 リリアーナに止めをさせるということで、周囲の警戒怠った自身のミスではある。

 だが、その代償として、深手を負わされ、逃走の代償としてあの場から逃走という手段を取らされたことについては、彼の怒りは中々収まらなかった。


 最も、今回の戦いで、リリアーナに呪術は植えつけた。

 これを利用すれば、まだ挽回のチャンスは十分にある。


 だが、自分達は拠点を失った。

 長年をかけて準備をしておいた兵力も全て失った。

 こうなった以上、また一から全てをやり直すしかないだろう。


 ユラから逃げるときに、捨てた左腕の断面が痛む。

 身を切り、狙った獲物を逃したまま逃走をしたせいか、その痛みは、より増していき、セレトを苛む。


「くそ!くそ!」

 怒りのまま、周囲に当たり散らすように叫ぶセレトであったが、しばらくすると、落ち着きを取り戻したのか、大人しくなる。

 いや、落ち着きを取り戻したというには、その表情は、非常に不気味に歪んでいたが。


 だが、痛みと屈辱に耐えながらも、セレトには、まだ余裕があった。

 リリアーナに呪いを与え、痛み分けに持ち込めたこと。

 そして、ユラもあの戦いで多くの手札を失ったであろうことは、容易に想像ができた。


 自分に首輪をつけていたが、その首輪も失い、ユラも手札として残っている駒はそう多くはない。

 リリアーナも、あの傷と、あの呪いである。

 ここから十分に苦しめることは可能であろう。


 あの場で殺しきれなかったのは心残りであるが、状況は、まだ十分にこちらが楽しめる余地が残っている。

 部下もいないが、自分を抑えつける者もいなくなった。


 ここから今一度、のし上がってやる。

 そう決意を胸に、セレトは、術式を展開し始めた。


 リリアーナに埋めた呪い。

 それは、彼女を蝕むだけでなく、彼女と自分に強制的に繋がりを作る特異点としての役割も持たせている。


「どこまで逃げようが、お前をもう逃げられないってわけだ」

 そう一人呟きながら、セレトは、術式の展開を続けていく。


 何故、聖女にここまで固執し、憎むのか。

 彼女をなぜ、苦しめたいと思うのか。


 理由もとうに忘れたが、今の彼を突き動かすのは、リリアーナに向けられたその理由なき怒りだけであり、彼女をこのまま苦しめるために、最後の一手を進めているだけであった。


 自身の存在を賭けた、最後の一手。

 それが今、為されようとしていた。



 遠く離れた地で、ユラは、ふと悪寒を感じた。

 何かを見落としているような不気味な感覚。

 冷酷な魔女として、常に狂ったように笑いながらも、実際の感情は希薄な彼女にとって珍しい感覚。

 恐れ。

 だが、それの正体に気づくことなく、ユラは次の目的のために動きだしていた。

 所詮、この世は為るように結末が決まっている。

 自分は、そのなかでただ生きていくだけである。



 そして、セレトは次の一手を放った。

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