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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間12

 幕間12


 クラルス王国の首都、タスル。

 元々、鉱山資源の運用を中心に成り立っていたクラルス王国の街々は、基本的に鉱山を中心に広がっていることもあり、全体的に泥臭い空気を放つ、労働者の街となりやすい傾向があった。

 そんな中、この首都タスルは、クラルス王国では数少ない、劇場等の娯楽の文化が発達した、文明的な華やかな街並みが広がっている空間であった。


 そして今、この華やかな街の中枢に置かれた宮殿の一室にて円卓を囲むようにクラルス王国の重鎮達が集まり、各々の意見を述べあっていた。

 議論の内容は、昨今、王国内の辺境の町を襲撃している盗賊の対処についてであった。


 最も、国の辺境の町を襲っている盗賊に対する対処等、本来は、このような場所で話し合う必要があるほどの重大な議論ではなく、精々各町を任された代官達が、各々の権限で対処すべき問題であるはずであった。

 それが、今この国の重鎮達を集めるような事態に陥っている最大の理由は、その活動による被害規模の大きさ、そして何よりも、討伐に向かった代官による一部の部隊が逆に壊滅したという報告があがったからであった。


 いくら地方の代官に扱える軍事力に限りがあるとしても、正規の兵達が盗賊程度の相手に倒されるということは、早々ありえないことであった。

 それゆえ、ここにきて事態を重く見たクラルス王国の軍部は、本腰を入れた対策を取るために、重鎮達を収集。

 そして今現在、その盗賊達の対応を話し合っているのであった。


 「一番の問題は、盗賊の規模、所属メンバー、拠点、これらの一切が不明ということです。これまで我が国で確認がされてきたあらゆる盗賊団とも異なる組織が国内で破壊活動を行っている。いくら首都から離れた町の問題といえど、この問題は軽視できない被害をもたらしております。」

 席から立ちあがり、周辺の貴族や王族、軍部の将軍達にこの問題の本質を強く語るのは、クラルス王国の大臣の一人、エルストであった。

 最も、エルストの発言を真剣に受け止めているのは、この部屋にいる四割程で、残りのメンバーは、彼の言葉を欠伸交じりに聞き流していた。


 「今ここで何か手を打っておかなければ、きっと我が国全体に被害をもたらす問題になりかねませんぞ。」

 それでも、エルストは強い言葉で会場の注意を惹こうと努力を続けていた。

 しかし、彼の大臣という地位も、周辺にいるのが国の重鎮である王族や上位貴族達、そして軍部の上級将校ばかりのこの席においては、エルストの地位自体は、決して高いものではなかったが。


 元々、エルストがこの盗賊団の情報を耳にしたのは、自身の子飼いの代官達からの報告が発端であった。

 これまでと違う、徹底的な略奪、破壊を繰り返す盗賊によって、いくつもの町が大損害を受けている旨の報告は、本来エルストのような立場の人間にまで上がってくる程の話ではなかったが、討伐部隊も全滅し、打つ手が無くなった代官達は、エルストに頼るしか方法がなく、またエルストも、自身の部下達からの願いを無碍にできず、対応を迫られることとなったのである。


 「とはいっても、盗賊等、昔からそれなりの数が居た。たかが盗賊ごときに、王国の正規軍を使うような大々的な討伐隊を組織する等、それこそ無駄だと思うがね。」

 そんな中、熱弁を奮うエルストに対し、白髪も混じった貴族が皮肉交じりの口調で言葉で反論をする。

 もっとも、他の多くの出席者達も、同意の声は上げてないものの、気持ちとしては、その貴族と同様のようにも思えたが。


 「仰る通り、たかが盗賊であれば、我々も重視する必要はなかったでしょう。しかし、この盗賊達は、既に地方領主達の兵士達による討伐部隊を破っております。その規模は明らかに、ただの盗賊として処理をできるレベルを超えております。」

 エルストは、そんな言葉に対しても、事実を述べて必死に反論をする。


 そこには、勿論、自身の国内勢力の維持という名目もあった。

 しかしそれに加えて、この問題は、それ以上の何か、国家という基盤そのものを揺るがしかねないような要素を含んでいるような悪寒があり、エルストを駆り立てていた。


 実際、盗賊達の被害は、現在辺境の町のみということで、総合的な被害自体は、クラルス王国全体で見れば、そこまで大きい物ではなかった。

 しかし、その盗賊達は、既に王国そのものに牙を向き、王国の兵士達を破っていた。

 明らかに普通の盗賊ではあり得ない損害に、エルストは、どこか言いようのない恐怖を感じていた。


 勿論、この問題を重視しているのは、エルストのみではなかった。

 数は多くないものの、この問題に頭を痛めているような他の貴族達もちらほらと見え、彼らもこの問題に対する対策に四苦八苦しているのはよくわかった。


 何にせよまだ芽が小さいうちに、何とか対策を取りたい。

 そう考え、エルストは、声を上げる。

 「どうか皆様もご考慮を。今の段階であれば、大きな損害が出る前にある程度の対策を取れます。どうか、討伐部隊の編成をご考慮下さい。」


 このエルストの言葉に対し、今度は、多少の反応はあったものの、依然、多くの出席者達は、我関せずという態度を貫いており、エルストを失望をさせた。

 所詮、この会議に集まった王国の重鎮達といえど、今もっとも重視しているのは、自身の利益のみであり、それに直接影響をしない事柄に対する反応は、芳しくはないのもしかたがなったかもしれなかった。

 特に今回は、首都から離れた小さな町の問題。 決して規模が大きい問題といえず、興味を持たないのも仕方がない側面があったかもしれなかった。


 しかしそうであっても、このままでは、クラルス王国に多大な被害をもたらしかねない。

 そのことを考え、エルストが今一度声を挙げようとしたタイミングで、一人の男が立ち上がった。


 「ふむ。確かに首都から離れた町での出来事であっても、地方にいる正規軍を破れる程の者達が国内で暴れているというのは、軽視できないのは事態であることは確かだな。どうだろう諸君。もし誰も行かないというのであれば、私の方で出撃をしてみるが。」

 その男の堂々たる発言。

 大きすぎず、されども部屋中に響き渡るような威厳のある声によって、室内に居る全ての者達は、一様に静まる。

 そして一同の視線は、その発言を述べた、軍服を身に纏った大柄な男性の、その髭面に一斉に集中した。


 「ヴィルナード将軍。貴方の程の方が、このような辺境の問題に取り組んでいただけるというのですか。」

 そしてエルストは、その男、ヴィルナード将軍に、恐る恐ると言葉をかける。

 望んでいた自身の問題の解決に取り組んでくれる戦力の登場に、しかしエルストは、どこか浮かない顔であった。


 「うむ。エルスト卿。聞けば、当該地に配備している部隊だけでは、対応が難しいようであるしな。それにいくら辺境の町といえども、このまま賊共の好きにさせておくのも好ましくないだろう。」

 ヴィルナードは、相変わらず、良く響く声でエルストに言葉を返す。


 「いや、将軍程の人物が取り組んでいただけるのであれば、この問題は、既に解決済みとなりますし、心強いといいますか。されども、将軍程の人材を、このような些事に関わらさせる意味があるのかといいますか。」

 エルストは、歯切れが悪く、ヴェルナードの言葉に応えようとする。


 「何、王都に居てもやることがあるわけではない。それならば、このような強者との戦いに挑むのも一興かと思いましてな。」

 ヴェルナードは、好戦的な笑みを浮かべながら、エルストの言葉を遮る。

 「将軍がそう言うのでしたら、まあ私は、異議はございませんが。」

 エルストは、ヴェルナードの言葉に頷きながら、弱弱しく言葉を返す。


 「まあ、お任せください。地方の代官達の兵士達を倒すぐらいの力があるようですが、私も自身の部隊を引き連れて全力でこの任に取り組みます。さて、陛下、何卒この私目にこの任務に就くことの承諾をお願い致します。」

 ヴェルナードは、最後に顔の笑みを消し、円卓の一段と高い席に、座る男、クラルス王、ユースルレイン六世に承諾を求める。


 壮年の男性、ユールスレインは、一瞬考え込むように目を閉じ、一呼吸を置くと、口を開いた。

 「良い許す。存分に暴れよ。」

 その言葉に、ヴェルナードは深く一礼をする。

 「では、部隊を整え、すぐに出撃を致します。吉報をお持ちください。」


 エルストは、そのやり取りを見て、頭を抱える。

 クラルス王国将軍の一人、ヴェルナード。

 王国きっての武人であるとともに、鍛え抜かれた一騎当千の部隊を持つ、不敗将軍と呼ばれる優秀な軍人。

 そして、裏では、腐敗将軍と別称をつけられている男。


 その強大な力は、その名通り、敵部隊を粉砕し勝利をもたらすものの、同時に巻き込まれた戦場となった近隣周辺の領土に腐敗を広げるように壊滅的な被害を与える男。

 この男が討伐に向かうということは、自身の支持基盤となっている代官達の領土は、どのみち、もはや壊滅的な被害を免れないであろう。


 だが国王が承諾をしたということは、もはや一介の文官に過ぎない自身にできることは少ない。

 そのことに、エルストは、深いあきらめを感じながら席に座り込もうとする。

 任を受けたヴェルナードは、上機嫌で部屋を出ていこうと、ドアに手をかけていた。


 しかし、ヴェルナードがドアに手をかけようとした瞬間、ドアが急に外から開かれ、兵士が一人駆け込んできた。

 「急報です!」


 駆け込んできた兵士の、大声で発せられたその言葉に、多くの者達が、何事かと視線を集める。


 「何事だ!ここをどこと心得る!」

 急に、ドアを開かれたことに対する怒りだろうか。

 ヴェルナードは、やや当たり散らすような声で、目の前の兵士に怒鳴りつける。


 しかし、兵士は、そんなヴェルナードに臆することなく、息を整えると、口を開いた。

 「国境付近で、ハイルフォード王国軍に動きがあり!我が国領土へ進軍を開始しました!」

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