幕間2-42
幕間2-42
「ほう。随分荒らされてるものだなぁ」
ヴェルナードは笑いながら、ボロボロになった城内の探索を続ける。
嘗ての敵の本陣。
その場所が、無残に荒らされ、既に風前の灯火とも言える状況になっていることは、ヴェルナードに不思議な快感をもたらしていた。
自身の敵が落ちぶれていることに対する愉悦。
同時に、それを為したのが自分でないことの苛立ちと不快感。
この二つの感情が入り混じった不思議な感覚が、彼に笑みを浮かばさせることを不思議に感じながら、城内を奥へと進んでいく。
「しかし、不気味ですね。ある物は死体ばかり。味方も敵もいないとは」
新しい死体(装備からすると、リリアーナの部下だろう)を見つけた部下の一人が、うんざりした声でぼやく。
そう、恐らく今、多くの者達が殺し合っているはずの最後の戦場たる城内の中で、ヴェルナード達は誰とも会うことなく先に進んでいた。
最も、時折どこからか戦いの音が聞こえてくるため、無人の城というわけではないのだが。
「まっ我々は、ただやるべきことをやるだけだ」
部下の不安を打ち消すように、ヴェルナードは力強い声で応えると、周囲にばれないように溜息をつく。
そう、確かにこの城は不気味であった。
嘗て王族達が住んでいたことを示す様な、豪華絢爛な造りの跡は確認できるものの、全く生存者がいない。
だが死体ばかりが転がっていながらも、人の気配がしないわけではない。
むしろ、時折様々なところから聞こえてくる戦闘音を見るに、まだまだ戦いは続いているはずである。
しかし、その音を頼りに城内を進んだ彼らを待っているのは死体だけである。
直前まで誰かがいたような状況でありながら、生の臭いではなく、死の香りだけが満ちている。
そんな空間に苛立ちを感じながらも、ヴェルナードは、部下達を引き連れ城内の探索を続ける。
そしてその苛立ちは、彼の単純な気持ち、一時的な同盟と言え、手を組んだ者達を裏切ってまで進めている、この行動に対する物他ならなかった。
ケジメ。
それだけがヴェルナードの今の行動理由であった。
自分が関われないまま、母国は失われ、今、成り行きで手を組んだ昔の敵と共に新たな戦いに身を置いている。
そして、この戦いの最終決戦に、自部分は関われないまま、この戦いは終わっていく。
なんと不格好な。
一傍観者として、この戦いを終えることに苛立ちを感じながら、ヴェルナードは、今城内をめぐりまわる。
ここで、誰かと出会い、どうするかはまだはっきりと決めていなかった。
だが、ここで動かなければ後悔をすることははっきりとしていた。
「魔力を感知しました!東に20m程離れた場所で、戦いの気配です!」
斥候に出していた部下、ジモクから報告が入る。
「よし。わかった」
ジモクから示された地点からは、確かに魔力がぶつかり合う気配が感じられた。
複雑に入り組んだ城内を進むため、報告された距離程近くはないだろうが、ある程度近い地点でもある。
この戦いに介入する。
自分と、部下と、滅んだ国のため、何か証をこの戦いで残す。
そのために、ヴェルナードは、ただただ部下と共に城内を進む。
その戦いの先に何があるか分からず、この戦い自体は無駄であるかもしれないと考えようとも、ただただ先に進もうとする。
その場所に近づくにつれ戦いの音は、凄まじく、徐々に激しさを増していく。
魔力の波動も強くなっていく。
強大な力がぶつかり合っている感覚を肌で感じ、ヴェルナードは武者震いを起こす。
その戦いの場まであと少し。
この壁の向こうで、強大な力同士がぶつかっている。
部屋を囲むように結界が展開されているが、外からの干渉には問題はない。
このまま結界を解除し、一気に部屋になだれ込む。
自分が最終決戦に乗り遅れず、これから参戦できることに一時の安心を感じ、ヴェルナードは腕に魔力を込め始める。
腐食の力、自分の持つ秘技。
部下達も、各々武器を握る。
扉の向こうで行われている戦いに一気に加わるため、ヴェルナードは深呼吸をし、逸る心を抑えて扉を開き、部屋に飛び込んだ。
「我こそは!」
ドシュ。
そして万全な戦闘準備を整え、臨戦態勢で部屋に乗り込んだヴェルナードが、そう名乗り上げた瞬間、その身体は、あっけなく部下達と共に弾き飛ばされて天井の壁の染みとなった。
その身体を弾き飛ばしたもの、大型の龍の尾は、獲物を求めて縦横無尽に振り回されていた。
「結界が解けた?」
部屋の中でセレト戦っていたリリアーナは、この部屋を覆っていた結界が解かれたことに気が付いた。
内側からは破れぬ結界も、外からの干渉に弱いことは多々ある。
最も結界が解かれた所で、もうこの場から逃げることはできないであろう。
痛みで暴れまわる龍。
龍を倒そうと呪文を放ち続けるユラ。
この二人の戦いを眺めながら、リリアーナは、その戦いに自身も身を投じていくのであった。




