幕間2-39
幕間2-39
ガキン。
短刀はあっけなく弾かれ、ロットの喉元には、ユノースの刀が突きつけられる。
実力の差なのか、それともそれ以外の要因があるのか、ロットには納得ができない結果となったが、勝敗は決した。
大義があろうと、どんな正義があろうと、勝者だけが正しいのが、決闘のルールである。
周囲の味方兵達は、どこからと表れた魔物兵達によって、隊列を乱され、こちらの援護に回れる様子もない。
「剣の腕を落としたなぁ。ロット」
笑いながらユノースは、刀の切っ先を少しずらす。
その流れに沿う様に、ロットは首に熱を感じる。
「情けはいりません。さっさと首を刎ねればいいでしょう」
最も、ロットはまだ勝負を投げていない。
相手がこちらの首を刎ねるために動いた瞬間、今、放てる攻撃魔術で無様でも足掻くつもりである。
「ふむ。俺は、別にお前にそこまで恨みはないのだがな。さてどうするか」
笑いながらユノースは、こちらに強い視線を向けてくる。
「どうするも何も、貴方達は一体何をしたいのですか?」
その視線を睨み返し、ロットは強い言葉で言い返す。
内容に意味はない。
ただ、話し続けることで、相手に生じる隙に期待をしているだけの行為。
「ほう。こんな状況になってもまだ先の事が気になるか?」
ユノースは、ロットの言葉に少し興味を示したのか、切っ先が少し動く。
だが、まだ仕掛けるにはいいタイミングではない。
「この国はもう終わりだ。国民も碌に残ってない。国としての基盤もめちゃくちゃだ。唯一、兵力だけはあるが、それも長続きするような物ではない。こんなところで何が望みなんですか?」
頭に浮かんだ疑問は、様々だ。
だから、それをそのまま自然に吐き出す。
相手の隙をつくために込める魔力に気づかれないように、口だけは自然に動かす。
「何、俺は、自身の主だけが大切なだけだ。お前と同じさ」
そう言いながら、ユノースが刀を握る手に、力を入れる音が聞こえる。
これ以上は引き延ばせない。
「光の矢よ!」
ユノースの右手に握った刀が動いた瞬間、ロットは叫ぶ。
同時に身体を強引にひねる。
ザシュ。
振られた刀が右肩を切り裂く。
そこまでの深手ではない。
「ちぃ!」
ユノースは、左手で握ったもう一刀で、ロットが放った光の矢を叩き落とす。
「やああ!」
その隙をつき、足を延ばしてユノースの身体をロットは蹴り飛ばす。
「くそ!」
蹴飛ばされたユノースは、身体のバランスを崩し、蹴飛ばしたロットは、その反動で距離を取る。
「逃がすか!」
ユノースは、姿勢を立て直すと、一気に距離をつめる。
二刀を振るうことで、ロットの防御を搔い潜り一撃を加えようとする。
「光の壁よ!我を守りたまえ!」
だがロットは、強く呪文を詠唱し、こちらの攻撃を防ぐための壁を展開する。
「無駄だ!破邪よ打ち破れ!」
一見すると、こちらの一撃を防ぐ厄介な秘術。
だがユノースは、その壁に向けて刃を振るう。
魔術を打ち破る反対呪文を纏った、一撃であれば、目の前の壁を打ち砕き、そのままロットを切り裂くことができるであろう。
ガキン。
「?!何!打ち破れない?」
だが、ユノースの予想に反して、その一撃は、壁によって防がれる。
「そちらの手は読んでいたよ!」
ロットが叫び、同時に光の壁は、大量の矢に変わり、ユノースに向けて撃ちだされる。
「ちぃ!小癪な真似を!」
ユノースの一撃は、その一手を読んだロットの反対呪文によって防がれ、攻め手を守り手が逆転する。
放たれる多量の光の矢を避けながら、ユノースは、防御に徹する。
一方、ユノースの破邪の魔力を壁に吸い取らさせたロットは、カウンターを仕掛けつつ、ユノースと距離を取る。
二刀を自在に操るユノース相手に、近接戦で勝てるわけがないからである。
「くそ。仕切り直しか」
ロットの攻撃を一通り防いだユノースは、距離をとったロット相手に苛立ちを見せる。
いずれにせよ、ロット相手に同じ手は二度は通用しないであろう。
最もそれは、ユノースに隙を見いだせないロットも同じ状況であったが。
故に、互いに次の一手を考えながら睨みあうこととなったが、その果てしなく続くと思われたにらみ合いは、ユノースの頭に声が響き、あっけなく終わることとなった。
『ここはもう終わりですよ。ヴルカル様を迎えに行ってください』
ユノースの頭には、ユラの声が響く。
意識に直接声を届ける、テレパスの呪文である。
『何があった?』
戦いに水を差されたことに対する苛立ちを抑えながら、ユノースは返事をする。
『さあ?ただヴルカル様も、そう長くはないですよ。くくく』
ユラは笑いながら用件を伝えると、一方的にテレパスを解除する。
「ちっ!」
苛立ちを舌打ちで表しながら、ユノースは目の前のロットに視線を向ける。
ユノースの視線を、一撃を加えるための布石と感じたのか、ロットは、改めて武器を構える。
「おらあ!」
ユノースは、短刀をロットに向けて投げつける。
ガキン。
投げられた短刀を、ロットを軽くたたき落とす。
そのまま、ユノースを迎撃するために武器を構える。
だがユノースは、既にいなくなっていた。




