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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-38

 幕間2-38


 戦況は混沌を極めていたが、徐々に大勢が決まりつつあった。

 当初こそセレトが用意した異形の魔物兵達が戦場を支配していた。

 兵の一人一人が強大な力を有していることもあり、リリアーナ達が率いる連合軍達は、苦戦を強いていた。


 だがセレトが部隊の指揮を放棄した段階で、その流れは逆転をした。


 指揮の放棄と共にセレトが施した狂化により、魔物兵達の力は増したものの、連携が取れず、思うが儘に暴れるだけの存在となり下がった結果、通常の魔物討伐同様に、一体、一体、連携が取れた軍隊によって倒されていくこととなった。

 同時に、魔物兵を指揮していた数少ない人間の指揮官達も一人、また一人と討ち取られていった。


「退き時か」

 その様子を城内から眺めながら、セレトは呟く。


 今やこちらの本拠地である城の周りは、敵部隊に囲まれている。

 数少ない守備隊が必死の応戦をしているが、破られるのも時間の問題であろう。


 城内では、リリアーナが率いる精鋭部隊達が暴れまわっている。

 この地での戦いも、もう終わりが見えている。


 長年かけて準備をした部隊を無意味に失い、こちらの敗北で終わる事は、少々気分が良くないが当初の目的は達せられた。

 後は、一度この場を離れて、再度時間をかけて力を蓄えればいい。


「おやおや。逃げ出すつもりですか。くくくく。盟約に従うつもりはなさそうですね。きひひひひ」

 そんなセレトの後ろに、白いドレスの女が何時の間にか現れ、こちらに向けて声をかけてくる。


「お前の身は、もう消し去っただろう?残留思念ごときがいつまで残るつもりだ?ユラ」

 つまらなそうにセレトは応える。


「既にお前との契約は破棄している。俺をこれ以上従わせることは出来ないはずだろう?最も、俺もお前を消し去ることができないというのは計算外だったがな」

 魔力と残留思念が合わさっただけの仮初の存在であるユラ。

 肉体はなく、ただ実体は持っている奇妙な存在。

 そんな彼女に、苛立ちはありながらも、セレトは余裕を崩さない。


 先の戦いでユラの肉体を滅した時に、彼女と自分を結んでいた、エルバドスを利用した隷属の契約は解除された。

 今の自分を縛る存在は、どこにもいない。


「おやおや。つれない返事ですね。まあ、負け犬の貴方らしい妥当な判断ですが。確かにこの戦いは貴方を利する結果となった以上、私も敗北を認めましょう。ひひひひ」

 挑発をするようにユラは、こちらに言葉を返す。


「ふん。必要な物は得た。お前らにも、こっちの兵力を貸してやった以上、義理はない。こちらを縛る材料がない以上、そちらのいう事を聞く必要もないだろう?」

 小馬鹿にしたようにセレトは返事をする。

 楔が切れた以上、この地に長居をする理由はない。

 この不快な問答も、こちらが一方的に打ち切ることも可能であるが故の余裕もある。


「愚かだね。セレト。所詮外付けの力に頼っただけの小者、いやそれ故の悲劇か」

 だが、そんなセレトに対して、ユラは声の調子を変え、冷たく言葉を言い放つ。


「何が言いたい?」

 疑問を挟み、そしてセレトは誤った判断と思いながらも言葉をつい発してしまう。

 放ってはいけない一言。

 本来は、何も言わずに一方的に会話を打ち切り立ち去るべきだった。


「何、君は一つ勘違いをしているよ。セレト卿。君は私を滅したことで、全ての楔を解けたと思っているのかい?」

 しかし、聞き始めたセレトには、ユラの言葉が次々と耳に入ってくる。

 その言葉が止まることは無く、セレトに呪いのようにまとわりつく。


「駆け引きか?お前と俺の繋がりは既に切れている。これ以上、俺を縛ること等できないくせに何を言っている?」

 そう言いながら、セレトは腕に魔力を込める。

 存在を消し去ることが出来なくても、一撃を加え、ユラの存在を霧散させることはできる。

 ユラの言葉は、こちらを惑わせる。


「確かに私は、貴方をこれ以上縛れない。だけどね、こんな状態になったからこそできることもあるのよ!」

 瞬間、ユラが展開した魔法陣が、城を囲むように起動される。


「?!ちぃ!」

 慌ててセレトは、この場から離れようと思ったが、時は既に遅かった。


「魔力の固まり、魂だけの存在になった以上、私にできることは限られているし、力も弱まった。だけどね、この身体だからこそできることもあるのよ」

 ユラの声が響く。

 同時にセレトは、自分の存在が城内に縛り付けられた感覚に気づく。

 呪術の一種。

 存在をその場に縛り付け、行動範囲を固定する呪い。


「くそ。死に損ないが!」

 口汚くユラを罵りながら、セレトは裏で解呪を進めることにする。

 魔力の固まりたるユラの放った呪術は、強大な力でセレトをこの場所に縛り付けている。

 つまりユラが解呪をしない限り、セレトは、この場所から離れることができなくなっている。


 最も、所詮この場所に自分を縛っているだけの呪術。

 多少の時間さえかけて術の支配下から逃れれば、問題はないはずであった。


「さてこの術は、一つの条件を満たせば自動的に解ける呪術です」

 だが、ユラは笑いながら、セレトを縛るための言葉を続けて放つ。


「リリアーナを倒しなさい。そうすれば、この術は解けます。くくくく」

 冷たく笑い、ユラはセレトにその言葉を放つ。


 その言葉にセレトは何も返さない。

 思ったより頑強な術式。

 これを解呪するのは予想以上に骨が折れそうであった。


「あぁそうそう。彼女にも先程同じ術をかけました。勝者だけがこの城から出ることができるこの状況。貴方がやるべきことは理解しましたかね。ひひひひひ」

 悪趣味なユラの笑い声が響く。


「くそ。ふざけやがって!」

 そう言いセレトは、ユラに向けて黒い鎖を放つ。


「あら?」

 そして鎖が当たった瞬間、ユラの身体は霧散する。

 最も、そうなっても彼女の存在は残っているし、この身に受けた呪いも残っていた。


「そうまでして決着付けろという事か。あぁわかったよ。最後の最後だ。お前の思惑に乗ってやるよ」

 苛立ちを吐き出すと、セレトはリリアーナを探すことにした。


「おやおや。大分苛立っておりますねぇ」

 霧散した身体を元に戻しながら、ユラは笑いながらセレトを見送る。


「貴方のせいで、私の計画も狂ったんですから。最後にこれぐらいの観劇は楽しませてほしい物ですよ」

 ユラの最後の呟きは、既に立ち去ったセレトの耳に入っていなかった。

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