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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第三十四章「穴を穿つため」

 第三十四章「穴を穿つため」


「第七、第八部隊半壊!」

「第三部隊より援軍要請!」

「急に敵兵が狂暴化!統制は取れていない物の対処に難がある模様!」

 ユノースの襲撃から立て直したリリアーナの本陣には、方々から悲観的な報告ばかりが入ってくる。


 一見すると、戦況が悪化しているとしか言いようのない状況。

 だが、皮肉なことに被害こそ出ているものの戦況自体は、リリアーナ達に天秤は傾きつつあった。


 狂暴化をしている敵兵達は、力こそ増してはいるが統率をされた動きを失い比較的対処は容易となっており、また一部の敵兵士達は、狂暴化をしてから一定時間を経過後、魔力の暴走による物か自爆をすることも確認されていたが、リリアーナが率いる癒しの力と守りに長けた部隊はその被害を最小限に抑えることに成功をしていた。

 結果、狂暴化した敵兵士達の猛攻や自爆による被害こそ出ているものの、徐々に数を減らしていく敵兵士に対し、守りと癒しの力に長けたリリアーナが率いる部隊はその被害を軽減しながら徐々に戦況を逆転させつつあった。


「ルーンと、ブランズの部隊を北西に回して、第七部隊の穴を埋めて!第三部隊には、レサオンを向かわせて!」

 リリアーナは手早く指示を出しながら前面の敵に向けて無数の光の矢を放つ。

 牽制程度の威力であるが、敵部隊の足止めにはなる。


「こんな兵の使い捨て運用。一時的な優位は保てても、ジリ貧になるだけのは分かっているだろうに。何を企んでいるのやら」

 こちらに突っ込んできた敵兵士を切り捨てながらリリアーナは呟く。


「所詮、下賤の出の呪術師風情。こんな大規模な部隊の運用をできる程の能力もないのでしょう」

 近くに控えている騎士の一人が、こちらへの攻撃を盾で防ぎながら軽口で応える。

 同時に、彼の周囲の部下達がわざとらしく笑いだす。


「なるほど。確かにこんな後先を考えない子供の癇癪なような戦法、あの小賢しい男らしい戦い方ですな」

 周りの者達も戦いながら、セレトを悪しざまに罵る。


 その言葉の一つ一つに彼らの士気高揚の意味があることもわかっていたが、そんな周囲の言葉はリリアーナを苛立たせた。

 彼女の知るあの男は、意味なく戦いを進めるような愚を起こさないはずであった。

 そうである以上、この戦術にも何か意味があり、裏で彼が何か仕込んでいる可能性が高い。

 しかし、周囲に控える部下達は、そのような可能性を考慮する様子もなく、ただ迫りくる敵をこちらの指示に従い打ち倒しているだけであり、とてもこの危機感を共有することはできそうにもなかった。

 いや、そこまでの余裕がないというのが正しいのかもしれないが。

 しかしリリアーナは、目の前の敵を退けながら、何とかセレトの動きを探るために動こうとするが、そのチャンスは中々訪れなかった。


 そして、彼とは魔力による繋がりがあるはずであるが、黒い霧が舞うこの戦場では、なぜかその感覚は働かず、彼女を余計に不安にさせた。


「第二部隊より報告!現在攻めている地点の敵兵は自壊によりほぼ消滅。その後、援軍もなく、敵本陣への道が開かれた模様です!」

 そんな彼女に転機が訪れたのは、早馬を走らせ訪れた伝令のこの言葉であった。


「敵の配置に穴が?ついに限界が来たのか?」

「いや、明らかに罠だろう。いくらなんでもこれ見よがしすぎる」

「確かに、周囲からまだ援軍を回せる余地はある。怪しいな」

「だが、相手部隊もだいぶ消耗は激しい。そもそも自爆を取り込んだ異常な戦術だ。予想外の事態があった可能性も十分にある」

 斥候の報告を受け、部下達は各々勝手な意見を述べ始める。


「部隊長は、指示があり次第、すぐに突撃をする準備はできております!リリアーナ様、どうかご指示を!」

 激しい戦場を駆け抜けてきた伝令は、身体中に傷を負いながらも、リリアーナの答えを聞くために無理に身体を起こしてこちらを強い視線で見ている。

 彼女が答えを言えば、その言葉は伝令の術式により、すぐに待機している部隊に伝えられるだろう。


 考えるための時間は長くはなかった。

 敵部隊の穴があると言っても、それが罠でないという保証はどこにもない。

 敵の本陣まで到達できるレベルの穴等、通常の部隊運用の中ではまず早々起きないであろう。

 だが、これが類まれなる偶然から生まれたチャンスの場合、ミスミスそれを逃すのも莫大な損失である。

 どちらにせよ、もし罠でないなら早々にこのチャンスは潰されてしまう。

 すぐに結論を出す必要があった。


 これはセレトの罠か、それとも不測の事態か。

 待機している第二部隊の面々も、それを十分に理解しているであろう。

 そのうえで、捨て駒となる可能性もある覚悟を以て、彼女の指示を待っている。


 そこまで考えた後、リリアーナは口を開いた。


「第二部隊は突撃。敵本陣に向かいなさい。私も、親衛隊を引き連れて後からすぐに本陣に向かう」

 その言葉は、伝令の術式ですぐに待機している第二部隊にも伝わる。


『了解しました!お待ちしております!』

 彼女の指示を受けた部隊長が、力強い言葉で返答を返す。


「リリアーナ様!短慮はおやめください!危険すぎます!」

 周囲に待機している部下達、その中でも彼女の指示に頼り切っている者達が、不安そうな表情で彼女を止めにかかる。


「危険は承知よ!貴方達は、このラインを死守!二時間経っても私から次の指示がない場合は、出来る限り犠牲の少ない方法で撤退を開始しなさい!」

 そんな言葉を撥ね退け、リリアーナは馬に跨る。

 伝令から伝えられた場所まで、そう遠くはない。すぐに部隊を引き連れていけば、十分に戦いには間に合う。


「親衛隊!ついてきなさい!」

 小隊でありながらも、信がおける実力者のみで編成した彼女の部下達が武器を手に取り後に続く。


 罠か、偶然か。

 どちらにせよ、この状況を活かし、強引に戦況を動かす。

 そう考えたリリアーナの目は、セレトの姿を求めて左右に動いていた。


 第三十五章に続く

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