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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-31

 幕間2-31


「これが、お前が望んだ世界なのか?」

 執務室の一室で、各地から上がってくる報告を確認しながら、セレトはユラに尋ねる。


「さあ?まあ私は楽しんでいますが、貴方は違うのですか?くくく」

 わざとらしく笑いながら、ユラは、読んでいた書類から目を離しこちらを振り向く。

 その表情は、いつものように、笑みが張り付き、だが感情を感じさせない冷たいを目が合わさり、どこか空虚な印象をセレトに与える。


 その態度に腹が立つが、ここで逆らう気は起きない。

 ユラ相手に、腹を立てて見せたところで、彼女を喜ばせるだけである。

 しかし、セレトとしてはここで退くつもりはなかった。


 彼女の配下としてハイルフォードに戻ってから、セレトはその命に従い、王国内に多数の黒い翼を持つ化け物を放った。

 加えてセレトが過去この国に居た頃に仕込んでいた楔を使い、多くの者達を化物に変貌させ、この国に混乱をもたらした。

 そして今、彼女の命に従い、周辺国家への宣戦布告と攻撃を行っていた。


 現状、セレトが敵対国家に以前からばら撒いていた楔によって生み出された化け物による奇襲と、王国内周辺に展開された人食いの性質を持つ奇獣達の存在もあり、王国に攻め込んでくる勢力はいなかった。

 だが、これはあくまで一時的な物。

 現に、周辺国家は一時的な混乱に陥ったものの、徐々に体制を立て直しており、入ってくる情報では、こちらに向けて軍を送る準備を進めているようである。

 このままいけば周辺の敵対国に一斉に攻撃をされ、この地はあっけなく奪い返されてしまうだろう。

 最も目の前のユラの様子を見るに、彼女は、そうなっても生き延びる算段は十分にできていそうではあったが。


「楽しさ等ないね。昔から自分のために仕込んでいた先行投資を、他人の利益のために使う事程、腹が立つことはそうそうないさ。しかも、それをあっさりと捨てようとしている奴のために使う羽目になると尚更な」

 どちらにせよ、彼女が何を考え、ここからどうなるか。

 それを聞き出すためには、この会話を続けるしかないだろう。

 そう考えたセレトは、苛立ちを見せながらも会話を続けるために彼女の問いに応える。


「おや、私の物事の進め方が気にくわないと?」

 心外だという風に、おどけた様な口調でユラは応える。

 まだ何も本音を話してこない。


「まさか。雇い主様のやり方に文句をつける気はないさ。だが、あんたが目指すものが分からないってのが気になるだけさ」

 そんなユラに、セレトは直接疑問をぶつけることにする。

 彼女が何を考えているのか分からないが、はっきりと放たれた問いに対する反応で、ある程度の憶測は可能である。


「私が目指すもの?つまらない事を気にするんだね」

 ユラは、一瞬きょとんとした顔をすると、そのまま笑みを浮かべ、笑い声をこぼす。

 それは、いつものような狂った笑い声ではなく、令嬢がお茶を飲みながら、上品に相槌を打つ時につかうような、普段の彼女からは、とても想像がつかなかったものであった。


「大した事ではないわよ。私は、ただこの世界のバランスを取りたいだけ。そう望まれているから、そう進むだけの話よ。この国は、そのための一つの駒にすぎないわ」

 そして、少し言葉を考えるように上を向きながら、そのまま言葉を話しだした。


「バランス?そのためにこの国が滅びてもいいってことかい?傲慢だね」

 そんなユラの態度に、苛立ちを感じたセレトは吐き捨てるような言葉を返す。


「あら、私たちの力なら、大した損害もなく可能な話よ。世界各国のバランスをとることなんて。そのための仕込みも第一段階はうまくいった。後は、もう少しバランスをとるだけだよ」

 ユラは、セレトの態度を気にする素振りも見せず、熱に浮かされたように自分の考えを述べ続ける。


「そうする先に、一体何があるというんだい?」

 話し続けるユラに、苛立ちを見せながらセレトは、彼女の言葉を遮るように問いかける。

 これ以上、彼女の与太話を聞くつもりはない。


「その先?さあ。ただそうしたいから、そうするだけよ。最も、もう一つ目的はあるのだけどね。ひひひひ」

 そんなセレトに対し、ユラはいつものように笑いながら応えてくる。

 その笑い声が彼女の本心を隠していくのを感じながら、セレトは、もう一度問いかけようとする。


「おや、ユラ。こんなところにいたのか?」

 だが、そんなセレトが言葉を放つ前に部屋のドアが開かれ、ユノースを引き連れたヴルカルが室内に入ってきた。


 嘗て自分が一時的に仕えていた男。

 ハイルフォード王国で成り上がるための手段の一つであったこの男。

 そして、この国を追われ、ユラに裏切られ、全てを失ったはずのこの男。


 だが、今、この男がこの国の仮初の王であった。

 何もかも壊れて失われた、残りカスのようなこの国で、王を気取る哀れな老人。


 そんな男に対しセレトは、軽蔑が多少混ざったような表情を隠すように跪き、忠誠を見せる。


 ヴルカルが自身の主であるユラの主である以上、自身の気持ちがどうあれ、彼に対しても表立って翻意を見せることは出来ない。

 それが今、自身の体内に埋め込まれた悪魔に課せられた契約であった。


「おや、ヴルカル様。くくくく。どうでしょうか?各国への進捗状況は。そして次のお望みは?ひひひひ」

 わざとらしく笑いながら、ユラは、ヴルカルに問いかける。


「あぁ満足だ。もっと混沌を見せてくれ。あぁそれと、こちらに向かって来ている反乱軍。そこに居る人形で始末しておけ」

 そう言いながら、セレトを杖で示しながらヴルカルは、またわざとらしい笑いだす。


「はい。お望みのままに。ひひひひ」

 ヴルカルに合わせるようにわざとらしく笑い続けるユラは、そのままセレトから興味を失ったようであった。

 こうなると、こちらが何を言おうが、彼女から話を聞きだすことは難しいであろう。


 そのことにため息をつき、セレトは部屋を出て行こうとする。


「契約に従い、精々うまく働きな。半端者」

 そんな彼に、ユノースが侮蔑の言葉を吐いてくる。


 だがセレトは、その言葉に何も反応をせずに部屋を離れた。

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