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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-28

 幕間2-28


「お帰りなさい。とでも言うべきかしら。久々の故郷はどう?セレト卿」

 こちらの感に障るような甲高い声でユラはこちらに問いかけてくる。


「ここは王都か?生憎俺は、田舎の育ちなものでね。こんな場所に、そこまでの思い出も愛着も無いよ」

 だが、回答を拒否する理由もない。

 そう考え、苛立ちを隠そうともしない声であるが、セレトは、とりあえず言葉を返す。


「そうかい。それは残念」

 つまらなそうに応えるユラを見ながら、セレトは怒りを感じるが、それを強引に抑え込む。


 エルバドスをこの身に宿し、強大な力を得たものの、今はその力の源であるエルバドスを利用されて首輪をつけられた状態である。

 下手に動くことで、こちらの身がどうなるか分からないという恐れもある以上、セレトの取れる選択肢はそう多くなかった。


「それで、ここはどこだ?それなりにご身分の高い御仁のお住まいだとは見当がつくが」

 つまらなそうに周囲を眺めながらセレトは問いかける。

 ユラに連れられて訪れたこの場所であるが、飾られている調度品や、建築様式から、少なくても上位貴族位の高い身分の者が住んでいるのであろう。

 もっとも、その手の屋敷としては珍しく、邸内には、人の気配は少なく、二人が歩いているこの場所にも全く人の気配はなかったが。


「ひひひひ。まあすぐにわかりますよ。貴方を呼んだ理由もそこで説明するとしましょう。くくくく」

 わざとらしく笑い声を上げながらユラが先導をする。


 そんな彼女の後を大人しく着いていきながら、セレトは歩けば歩くほど違和感を感じ、警戒心を上げていく。

 広い屋敷にも関わらず、あまりに少ない人の気配。

 そのような中、どこか異様で不快さを感じさせる気配。

 そしてユラが、その不快な気配に向けて進んでいるという事実。


 彼女がここに自分を呼んだ理由は分からない。

 だがめんどくさい問題に巻き込まれないためには、長居をしない方がいいのは確かであり、この場からうまく逃げ出す方法をセレトは考えようとする。


「あぁ心配しないでいいですよ。貴方に仕事を依頼したいだけの話ですから。ひひひ」

 最もユラは、そんなセレトの考えを読んだかのように釘を刺してくる。


 そんなユラの態度に苛立ちを感じながらも、セレトは、大人しく着いていくことを選ぶ。

 今ここで、ユラを倒すことは出来ない。

 そうである以上、ここは大人しくしておくべきであろう。


「さあ、ここですよ。お入りなさい」

 そしてセレトはしばらく歩いた後、ユラに促されるまま、屋敷の奥のある部屋、不愉快な気配を強く感じる部屋に入ることになった。


「貴様?!何の用だ!」

 ノックもなく部屋に入った瞬間、慌てたような声がこちらに届く。


「ひひひ。そう焦ることないでしょう。彼を連れてきてあげたのですから。くくく」

 いつものようなわざとらしい笑みを浮かべて、ユラは部屋の中にいた男に応える。


「?!あぁ。彼が例の。いやセレト卿。急に呼び立てて済まなかった。まあ寛いでくれ」

 部屋の中には三人の人物。

 その中で最も入り口に近い位置にいた男がこちらに気が付き、席を進めてくる。


「おや。フォルタス卿。まさか貴方程の自分に客として扱ってもらえるとは。嬉しくて涙が出そうだ」

 目の前にいた以外な男、フォルタスに嫌味を込めながらセレトは、席の勧めを無視する。

 貴族の中でも、大物も大物。

 一つの強大な派閥をまとめ上げているフォルタスであったが、昔、セレトがハイルフォード王国の戦士であった頃には、彼を非常に毛嫌いをしていたのも事実である。

 そんな男が、今目の前で友好的な態度をこちらに示している。

 その事実が、セレトに非常に不快な気持ちと同時に、どこか優越感を感じさせるような感覚を与えていた。


「何、そう構えんでくれ。別に貴公と争うつもり等はない。さて、何から話せばいいか。まあ、こちらに敵意はないんだ。楽にしてくれ」

 大物ぶった態度を示しながら、フォルタスは、セレトに再度椅子を勧めてくる。


 その様子を鼻で笑いながら、セレトは立ったままフォルタスに言葉の先を促す。

 意外な事に、フォルタスは、そんなセレトに対して笑みを浮かべると、少し考え込むかのように視線を逸らした。


 セレトの知っているフォルタスは、自身の地位を意味なく振りかざす、特権意識とプライドの塊であり、セレトのような大した地位も無い人間を非常に毛嫌いをしていたのも事実である。

 そんな彼が、今は笑いながら、セレトと会話をしようとしている。

 そのことにこれまで以上の不快感を抱きながらも、セレトは気持ちを落ち着けるために周囲を見直す。


 ユラは笑いながら、成り行きを見守っている。

 奥には一人、男がこちらに背を向けて座っている。

 そして、背を向けている男と、フォルタスの間に、顔を隠しローブを羽織った人物が一人立っていた。

 先程まで自分が感じていた不快な気配の正体は、こいつから発せられていたことに気が付き、セレトは知らず知らずのうちに相手を睨みつけていた。


「!!」

 瞬間、ローブの人物から先程から感じていた不快な気配が一気に強くなる。


「まあ、座りたまえ。王国はここから大きく変わるための大切な話だ」

 どこか覚悟を決めた表情で、フォルタスが三度椅子を勧めてくる。

 セレトは、その椅子に、無意識のまま腰を下ろした。

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