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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第二十八章「逃走と協力」

 第二十八章「逃走と協力」


 所々で戦闘が発生し、火の手が上がっている中を、リリアーナは必死に駆け抜ける。

 黒い翼を持つ者達と、兵士達が、敵も味方入り乱れ、三つ巴で戦っている混乱もあってか、そんな彼女を気にする者はいない。


「きしゃああ!」

 時折、黒い翼を持つ怪物が襲い掛かってくる。

「邪魔よ!」

 だが、そんな敵を刀の一振りで切り伏せて、リリアーナは先に進む。


 セレトを倒し、既にこの地に留まる理由は無くなった。

 グロックも倒され、他の味方とも離れ離れの状態。

 このような状況で、敵地のど真ん中ともいえる、この場所に長居をして良いこと等、何一つないであろう。


「うわあああ!」

「たっ助けてくれえ!」

 しかしそんなことを考えていたリリアーナの前に、叫び声が上げながら逃げてくるコブルス砦の兵士達の姿が目に映った。

 敵襲かと思い、慌てて武器に手をかけたリリアーナであったが、その様子はどこかおかしい。



「くそが!ちょこまかと!」

 そして、そんな兵士達を背後から追いかけている存在が目に入る。


 そう。

 兵士達は、自分達が守るべきはずの砦で逃走を始めているのであった。

 それは、この砦の陥落を示していた。


 だが、下手にこの砦を放棄するという事は、多くの兵士達にっては自身の生存率を下げる行為である。

 しかし兵士達は、その様なことを理解しながらも、必死に逃げ纏う。

 それはすなわち、彼らを追っている者が、それ以上の脅威であるという事に他ならない。


「ちぃ!動きを止めやがれ!」

 そしてその脅威、ヴェルナードが言葉を放った瞬間、逃げ纏う兵士達の足場が沼地に変わり、彼らの足が止まる。

 単純な術式であるが、展開された範囲は広く、多くの兵士達の動きを止めている。


「ひえ。た、助けてくれ!」

「もう降参する。あんたの軍門に下る。だから命だけは」

 兵士達は、その忠誠も主義主張も投げ捨てて、目の前に迫ってきたヴェルナードに必死に命乞いをしている。


「はっ!お前らみたいな雑魚の力等いらんわ!」

 しかしヴェルナードは、そんな兵士達を一目見ると共に、腕を振るう。

 同時に、囚われた兵士達の身体は一気に腐食をし崩れていく。

 そして数分後、兵士達がいた場所には、腐った肉の塊の残骸だけが残っていた。


「ヴェルナード。貴方程の大物までこの場所に来ているなんてね」

 その様子を見ていたリリアーナは、呆れたように目の前の男に向けて愚痴をこぼす。


 セレト、グロック、ネーナにユラ、そしてヴェルナード。

 何者かに誘導をされたかのように、この場に集まった様々な立場の人物達。

 これは、何者かの陰謀なのか。

 そして、自分は、この陰謀に関係をしているのか。


 様々な事を考えながらも、リリアーナは、向こうの出方を見るように武器に手をかけながら様子を見る。


「ほう。たしか、ハイルフォード王国の聖女様じゃないか。いや、あの時の大戦の時以来か?しかしこんな場所で出会うとは、奇遇だな」

 わざとらしく笑いながら、ヴェルナードはリリアーナに言葉を返す。


「それで、貴方は何をしにここにいるの?」

 笑いながらリリアーナは、ヴェルナードに問いかける。

 応え次第では、一気に戦闘に突入することになるだろう。

 それゆえに警戒を高め、集中をするリリアーナに対し、ヴェルナードは、拍子抜けをするような回答を返した。


「なんだ。その様子じゃお前も嵌められただけか。ちょうどいい。ここを出るまで協力しないか?」

 敵意はなく、久々に会った昔の知人に軽い頼みごとをするような調子で、リリアーナに手を伸ばして問いかける。


「協力?クラルス王国の将軍様が、ハイルフォード王国の兵士と手を組むというの?」

 困惑を見せながらも、武器を下ろさずリリアーナは問い直す。


「この状況下で、敵も味方もあるまい。そもそもお前も共和国の人間ではないだろう。なら、ここを出るまでの間、協力し合うのも悪い話じゃなかろう」

 そう言いながら、ヴェルナードは背後から襲い掛かろうとしている敵兵士に向けて腐食の術を放つ。


「ぐぎゃあああ!」

 術を避けれなかった兵士は、身体を一気に腐食させて肉体を崩していく。


「なるほど。逆らうなら、そうなると?敵国にも名が広まっている大将軍様にしては、つまらない脅しだこと」

 そういいながら、リリアーナは頭を必死に働かせる。

 ここは敵地。

 当然に味方は多い方がいい。

 だが、目の前の男は、実力は折り紙付きであるが、信頼という面では、この上なく信用ができないのも事実である。

 しかし、リリアーナには今仲間はおらず、戦力が必要でもあった。


「そんなつまらないことはせんよ。聖女様。俺もこんなところで死にたくはないからな。と、無駄に時間をかけている暇はないか」

 そう言いながらヴェルナードは、周囲に集まってきている敵をまとめて腐食の魔法で撃退する。


「そちらの条件は?」

 時間はそう残されていない。

 この話を受けると決め、リリアーナは問いかける。


「何。お互いにここから安全な場所に逃げるまでの間、相手に協力し、寝首を掻かないってことぐらいだ」

 笑いながらヴェルナードは条件を言う。


「わかった乗ろう」

 時間はない。

 リリアーナは即答する。


「あぁそうだ。もう一つだけある。お前の国から逃げてきていたユノース、あいつがいたら俺に始末させろ。それが条件だ」

 ヴェルナードは、最後に一つだけ条件を付けてくる。


「構わない。貴方の好きにして結構よ」

 意外な名前に驚きながらも、リリアーナは同意を示し、武器を構える。


 周囲は、既に敵に囲まれていた。 


 第二十九章に続く

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