第二十七章「堕落の鎖」
第二十七章「堕落の鎖」
「嬉しいよ。聖女、いや、そこまで堕ちたらもう聖女とは言えないか?」
笑いながらセレトは、切りかかってくる。
「さあどうかしらね。でもこれでやっと貴方を殺せそうね!」
そう言い返しながらリリアーナは、斬撃を躱して反撃を試みる。
「はっ!禁術を使ってまで、そんなに俺を殺したいか!」
リリアーナの反撃を避けながら、一旦距離を取ったセレトは、魔法陣を展開し、そこから多量の黒い蛇を呼び出す。
「混ざり合った絵の具は、もう戻れないってね!取り返しがつかない所まで来たんだし楽しませてよ、解!」
笑いながら飛んでくる蛇に対し闇の魔力をベースとした解呪を放つ。
瞬間、蛇達は何の抵抗もなく、あっけなく霧散する。
信じられないぐらい抵抗がない。
これまで、リリアーナがセレトの魔術を打ち消す際は、光の魔術で強引に術式を打ち消していた。
だが今は、セレトの魔術に合わせる形で、同系統の魔力を放つことであっけなく相手の一手を封じることができる。
「ふざけるなあ!」
セレトの斬撃が、こちらに向かってくる。
ガキィ。
「っ!それ!」
その一撃を、こちらも武器を振るい打ち返す。
そして、互いの武器と武器が触れ合う瞬間、リリアーナは魔力を込める。
「くそったれ!」
セレトの苛立ちが混じった声が響く。
しかし、そんな声をかき消すように、リリアーナは込めた魔力を解放する。
「?!何だこれは?」
セレトの叫び声が響き、同時に彼の身体は、黒い炎によって徐々に燃やされていく。
そしてその炎から逃れようと、無様に暴れまわるセレトの様子を見ながらリリアーナは、次の一撃のため改めて武器に魔力を込める。
闇の魔力で動きを封じ、そこに光の魔力による一撃を加える。
「くそ!この手の物は、俺の専売特許の力なんだ!所詮付焼刃の闇の魔力など!」
苛立ちを感じさせる声で、セレトは、リリアーナは放った魔力に干渉する。
腐っても、一流の呪術師。
セレトによる対抗の術式は、リリアーナによる拘束の術式を徐々に解除していく。
「遅いよ」
だが、複雑な操作による術式への干渉より、単純な魔力の放出による攻撃の方が早い。
リリアーナが込めた光の魔力を纏った刀身は、セレトの身体にぶつかる。
「はっ?」
瞬間、セレトの身体にまとわりついた闇の魔力と、リリアーナの武器に込められた光の魔力が混ざり合い、反発し、そして爆発を起こす。
闇と光、相反する二つの魔力を強引に混ぜ合わせたことによる、簡易的なビックバン。
リリアーナは、その爆発の一瞬に防御魔法を展開し、その爆風から身を守るが、その爆発をもろに受けたセレトの身体は、ばらばらに霧散する。
「逃げを選んでいれば、こんな一撃何なく躱すことできたでしょうに。貴方の敗因は、私をまだ倒せると考えて、戦いを続けようとしたその傲慢さよ」
もはや原型を留めていない死体に向かって、リリアーナは呟く。
実際、闇の魔力を得たと言っても、セレトとの実力差は埋めきれておらず、戦いはギリギリであった。
そもそも、闇の魔力に対する練度は、セレトの方が圧倒的に高い。
故に、普通に魔術を展開しただけでは、あっけなくセレトに術式を解除され、まともに機能することはない。
しかし、セレトはこちらが得た新しい力を使った戦い方までは、まだ知らない。
付け込むとしたら、その相手の無知と、こちらより自身が圧倒的強者だと考えている彼のプライド。
だからこそ、魔力で捕え、プライドが高い彼が、それを解呪しようとする一瞬に、この一撃を加えることを想定し、この作戦を立てたのである。
得たばかりのよくわからない力を使った半ば賭けのような作戦であったが、結果は成功。
ただただ幸運だったとも思えるような結果であったが、自身の勝利であることは間違いない。
同時に慣れない魔力を強引に行使した影響か、身体に鈍痛と疲労が広がり、リリアーナは一瞬ふらつく。
闇の魔力は、元々自身の行使する光の魔力と相対する力であるが故、今、彼女の身体では、その相反する力が反発しあっているのであった。
だが、その様な力を利用したからこそ、今回セレトに勝つことができた。
そう考えれば、このような身体の痛みも、対価としては端ものであり、十分に耐えられるものであった。
ドカン。
しかし感慨にふける暇もなく、周囲から多数の爆発音が聞こえてくる。
周囲では、まだ戦闘は終わっていないのであろう。
聞こえてくる声からすると、戦いは混戦を極めているようであり、どちらが優勢であるかは不明であったが、少なくとも共和国側がここを防衛しきることは難しいような模様である。
最も、彼らもここで負けるわけには行かないが故に、必死抗戦をしているようであったが。
いずれにせよ、そのような戦闘の影響か、リリアーナが今いる建物もその余波で倒壊が近いような音を立てていた。
長居は出来ない。
そう考えると、リリアーナは、セレトであった物体を一瞬眺めると、この危険な場所から脱出すべく走り出したのであった。
第二十八章に続く




