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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-26

 幕間2-26


「誰かいないのか?!」

 ヴェルナードは吠えるように叫ぶ。

 だが、それに応える声は少ない。


 コブルスに攻め込んだヴェルナードの部隊は既に半壊をしていた。

 ユノースに誘導されるがままに攻め込んだこの地の戦いは、ヴェルナードの敗北で終わった。

 今、強引に戦線の穴を突破し、一旦体制を整える余裕はできた物の、明らかにコブルスの奥へと誘導をされており、ここから逃げ出せるかも不透明である。


 自身の功名心にかられた手痛いミスに腹を立てながらも、ヴルカルはここからの生還を第一に考えをまとめようとする。

 こちらに襲い掛かってきた黒い翼の化け物たちは、ただただ暴れまわり、この地に居る兵士達に敵味方関係なく襲い掛かっており、その隙をつけばここから逃げ出すことは、十分に可能であるように思えた。

 だが、予想以上に消耗をしている今、そんな甘い考えは捨てるべきであろう。


「閣下。北の方角が、化け物の数が少ないようです」

 そんな悩みに迷ったヴェルナードに、部下の一人が報告を入れてくる。


 その言葉に頷きながら、ヴェルナードは、どうするべきか考える。

 化け物の数は少なくても、北に向かうという事は、このコブルスの中心に向かうルートを取ることになる。

 一見、楽な道に見えたとしても、これが罠という可能性も十分にある。


 いや、自分の襲撃は予定されたものではない。

 そんな自分を罠にかけること等できるはずはないという気持ちがある一方、コブルスに攻め込んで以降、行方が分からなくなっているユノースの事も気になっている。

 もし彼がこちらを裏切ってるのであれば、こちらもこのまま壊滅をしてしまうだけであろう。


 そして怒りを抑えながらヴェルナードが考えた末に出した結論は、北の方角に進む出会った。

 自身一人が強引に進むのであれば別であるが、部下達の存在を考えると、罠の可能性があるとしても、戦いを避けられる可能性があるルートを取るしかなかったという結論であった。

 全滅か生還か。

 極端な二択となったが、その賭けにヴェルナードは乗ることにしたのである。


 だがヴェルナードの決意に対し、取ったルートでは特段襲撃もなく、斥候に出た部下の言う通り、化け物達も碌に姿を見せなかった。

 最も、共和国の兵士や化け物達の死体は、道中に嫌というほどあったが。


「もうすぐ、コブルスから抜け出せるかと」

 部下の一人がこちらに偵察の結果を伝えてくる。


 そして杞憂であったかと、ヴェルナードが安心をした瞬間、それは来た。


 ゴゴゴゴ。

 一瞬、地面が揺れ、ヴェルナードが地震かと考えた瞬間、地面から多数の白い糸が吐き出されこちらに襲い掛かってきた。


「?!ちっ!散開しろ!」

 ヴェルナードは大声で叫び、不意打ちの攻撃を防ぐ。


「うわああ!」

「くそ、何だこれ?」

「ぎゃあああ」

 だが、ヴェルナード以外の部下達は、そんな不意打ちの攻撃を防ぐことができず、次々と白い糸に囚われていく。

 そんな様子を見て、ヴェルナードは一瞬考え、そのまま部下を見捨てて逃げることを選択する。


 何がこちらに襲い掛かってきているかは分からない。

 だが、この敵地で余分な時間をかけて判断をする余裕はない。

 そして、部下達がいなくても、自分一人であれば、ここから逃げることは十分に可能である。


「おや、ヴェルナード様、どちらへ?」

 だが、背後から聞こえてきた声に反応し、ヴェルナードは一瞬馬の足を止めてしまう。


「ユノース。貴様、よくもやってくれたな」

 怒りを押し殺してヴェルナードは、目の前の男を睨みつける。

 そこには、このコブルスに入ってから、行方不明となっていたユノースが立っていた。


 潰すか、どうするか、一瞬ヴェルナードは逡巡する。

 しかし、ユノースの後ろで蠢いている白い糸を確認すると、逃げを選択することにする。


 あれはやばい。

 その直感が、ヴェルナードの命を救った。


 グシャリ。

 振るわれた白い糸が、ヴェルナードが乗っていた馬の身体を引き裂く。

 だが、既に逃げを選択していたヴェルナードは、馬を潰された衝撃で空中に放り出されたが、何とか受け身を取り身体に特段の負傷もなく立ち上がることができた。


「はあ、はっは、は」

 立ち上がると息を切らしながら走って逃げる。


「おやおや。逃がしたか。まあ、あの方向であればいいか」

 そう笑いながらユノースは、逃げていくヴェルナードを眺めていた。


「では、我々は、我々の戦いを始めるとしましょうか、ヴルカル様」

 ユノースは笑いながら、白い糸が伸びてきている地面の穴に向けて声をかけた。


 そんなユノースの声は、ヴェルナードには聞こえない。

 だが、ヴェルナードはそのまま一目散に、敵が少ない方角へと向けて全力で走った。


 その方角に、どこか黒い魔力と、白い魔力のぶつかり合いの気配を感じていたが、それに引き寄せられるように走っていた。

 部下も何もかも失ったが、まだ生きている。

 そして、守るべきものもいない今、ヴェルナードは、自分の力を最大限に振るうことができる。


 そう考え彼は、徐々に魔力を込め始めた。

 その名の通り、全てを腐敗させるために、周囲の物を全て消し去るために。

 そしてヴェルナードは、魔力を解放した。

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