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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-25

 幕間2-25


 コブルスから離れた森の中、街道からも少し逸れた場所にある湖の近くに大量の白い蝶が降り立つ様子を見たのは、鳥と小動物達ぐらいであった。

 そして、降り立った蝶は一か所に集まると、人型を形どるように集まると、そのまま眩い光を放ちながら固まっていき、その光が消えた時、その場所には、一人の消耗しきった女性、ネーナが倒れこんでいた。


「まさか、あそこまでとはね」

 誰かに聞かせるのではなく、湖から流れてくる寒気を感じるような冷気に耐えながらネーナは一人呟く。


 セレトとの戦いは、勝算なく挑んだつもりではなかった。

 事前に彼への対策として、武器の短剣には加護を仕込んでいたし、グロックも、セレトを捕えるための準備は丹念に行っていた。

 勿論、セレトがエルバドスの角を手にいれていることも考慮はしていた。


 だが、彼は数年前より明らかに強くなっていた。

 戦い方自体は、大きく変わってはいない。

 自身の不死性が強い肉体を使ってのごり押し戦法と、黒霧化による回避戦術と分かり切った戦い方。

 だからこそ、ネーナも十分に付け入る隙があるはずであった。


 しかしネーナ達の攻撃は、セレトの強引な攻め手によって瓦解した。

 そこには、以前のセレトにはない、どこか開き直ったような強引さがあった。


 こちらの攻め手を、昔より遥かに増した魔力で強引に力でねじ伏せ、勝利する。

 以前の彼と似ていながら、以前の彼とは明らかに違う戦い方。

 任務失敗に苛立ちを感じながらも、ネーナは、そんな彼の成長に恐怖を感じた。


「だけど、詰めの甘さは直ってないようね」

 そんな気持ちを吹き飛ばすように、こちらを逃したセレトのミスを考える。


 あの成長は、確かに脅威であり、グロックも討たれてしまった。

 だが、こちらはまだ生きており、今後いくらでも雪辱の機会はある。

 強引に笑みを浮かべ、気持ちを切り替える。


 今回は失敗したが、まだ負けたわけではない。

 そう考え、手元に残った武器を確認しながら、今後の方向性を考える。

 とりあえず、一度本国に戻って体制を立て直すべきか。


「おやおやおや。なんでこんなところに、美女がいらっしゃるのかね。きひひひ」

 だが、そんな彼女の思いは、背後から聞こえてきた、いけ好かない笑い声によって中断される。


「!なんで貴方がここにいる?ユラ!」

 ネーナは、その言葉に反応しながら、声の主の方に身体を向ける。

 そこには、常に狂ったような笑みを浮かべた魔女が立っている。


「おや、私がここに居るのはおかしいですか?いやはや、ここは共和国。確かに敵国ではありますが、貴方もここにいらっしゃるではないですか?ひひひひ」

 相変わらずわざとらしい笑みを浮かべながら、ユラは、こちらに問いかけてくる。


 そんな彼女の表情に違和感をネーナは一瞬違和感を感じ、そしてユラがこちらに一歩距離をつめてきた瞬間、自身の直感が彼女に危機を告げた。

 瞬間ネーナは、懐に仕込んだ加護が付いた短剣をユラに向けて投げつける。


 もう手持ちの武器は少なく、セレトとの戦いで大分消耗をしている。

 だが、ここで出し惜しみをしてする理由はない。


「きひひひ。感づきましたか。いやはや困りましたねえ」

 そう言いながらユラは、ネーナが投げつけた短剣を避ける。

 同時に、大量の黒い蝙蝠がネーナに向けて放たれる。


「なんで?!なんであたしを?」

 ネーナは混乱する思考を声に出しながら、強引に考えをまとめようとする。

 少なくても、ユラはハイルフォード王国に所属している。

 そして、ヴルカルに仕えていたが、今も王国に忠誠を誓い、こちらの味方側の人間である。


「おや、貴方に心当たりはない?きひひひ。それは残念。まあ、それはそれとして」

 そう言い、ユラは黒い鎖をこちらに向けて放つ。


「貴方は、もう用済みですよ!」

 そしてユラが叫んだ瞬間、ネーナの背後から多数の黒い蛇が襲い掛かってくる。


「ふざけるなあ!」

 怒りの声を上げながら、ネーナは、手元に残った最後の投擲用の短剣を黒い蛇に投げつけ、同時に目の前に迫ってくる黒い鎖を避ける。

 黒い蛇達は、投げつけられた加護の短剣によって、一気に消滅する。


「私を、私をおおお!」

 そして抜いた剣を一閃、ユラに切り掛かる。


「舐めるなあああ!」

 そのまま剣は、ユラの首を捕える。


 ザシュ。


 攻撃の隙をつき放たれた斬撃は、ユラの首を確かに落としたはずであった。


 だが切り落とされたはずのユラの首は、落ちていなかった。


「おやおや。残念」

 切り落とされ、血も流れている首を気にせずにユラは、そう笑い腕を振るった。

 その手には、黒い鎌が握られていた。


 どこかで見たことある。

 鎌を見たネーナは、一瞬そう考えるが、そのまま白い蝶へと姿を変えて攻撃を避けようとする。

 時間をおかない変身は、身体への負担は大きいが、命には代えられない。


 だが、その術は発動をしなかった。

 いや、正確には、一瞬彼女の身体は白い蝶に変わったはずであった。


 だが、ユラが振るった鎌が、蝶の群れに当たった瞬間、術は解かれ、彼女の身体は実体を取り戻す。

 その事実に困惑をする暇もなく、ユラが振るった鎌は、ネーナの首を切り落とし、彼女の命を刈り取った。


「残念、残念。けけけけ。あと少しで気づけそうだったんですがね。ふふひひひひ」

 あとに残されたユラは、いつも以上にワザとらしく笑いながら、地面に転がり、眼の光を失ったネーナの首にそう語りかけた。

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