第二十五章「新しい力を頼る」
第二十五章「新しい力を頼る」
部屋には血の臭いが充満する。
今しがた、頭を潰され息絶えたグロックの死体が発しているものか、それともリリアーナ自身が流している血のせいか。
むせるような血の臭いがリリアーナの思考を飲み込もうとしてくるが、彼女は、それを振り払うように顔を横に振り、改めて目の前の敵、セレトに視線を向ける。
グロックの死体を冷たく見下ろすセレト。
その少し手前に様子を見るように、セレトと対峙をするネーナ。
そしてその二人から距離をおいて、拘束こそ抜け出したものの、そのダメージから碌に身動きが取れないリリアーナ。
幸い、セレトの注意は、身動きが取れないリリアーナではなく、今自分と敵対をしているネーナに向けられているようであった。
ならば、二人が戦っている間に体力を回復させるのが定石であろう。
一応、ネーナは立場を考えればこちらの味方側の人物であったが、これまでの付き合いを考えると、彼女を無条件に信じる気持ちにはなれなかった。
「はあ!」
ネーナがどこに仕込んでいたのか、複数の短剣を様々な方角から投げながら、セレトとの距離をつめる。
「無駄だ!二度も同じ手にかかるかよ!」
セレトはそう言いながら、黒い鎌を振るいながらネーナが放った短剣を叩き落とす。
「あぁそうでしょうね!ならこれはどうしから?影縫い!」
だがネーナもそんなセレトの隙をつき、彼の影に向けて短刀を投げつける。
瞬間、短刀が光り術が発動をする。
影を地面に縛り付け、肉体の動きを封じ込める行動阻害の術である。
「はっ!その程度がやっとか。つまらない話だな」
セレトは、軽く笑みを浮かべて吐き捨てるように言葉漏らす。
「死ね!」
しかしネーナは、そんなセレトの言葉を無視して一気に首を切り落とすべき距離をつめる。
動きを封じられた状態のセレトは、そのまま碌に動きも取れず止めをさされるだろう。
「やれやれネーナ。俺は、悪魔と繋がったんだよ!」
そしてそんなネーナの動きに対して、セレトは、一声叫ぶ。
同時に、短剣によって封じられている影が変貌すると同時に、そこから黒い複数の槍が飛び出す。
「!?ちぃ!」
奇襲的に出された攻撃にネーナは、驚愕の表情を浮かべ、慌てて攻撃を避けようとするが、攻撃を避け切れず、黒い槍に貫かれ倒れこむ。
「俺の身体に宿った悪魔は、俺の力であって、俺ではない。こんなものでは縛ることはできないんだよ」
笑いながらセレトは、倒れたネーナに向けてそう言い放つ。
「さすが悪魔の力。今の貴方であれば、王国でもそれなりに重要視されるでしょうに」
重傷を負いながらも、ネーナは息も絶え絶えに応える。
「あんな国に忠誠を誓う価値があるか?俺は、自由気ままに生きさせてもらうさ」
そう言いながら、セレトは黒い鎌を振り上げる。
「その傲慢が、貴方の人生を滅ぼすでしょうね」
ネーナは、そんなセレトに笑みを浮かべて応える。
「そうか。ならさようならだ」
そう言って、セレトが黒い鎌を振り降ろした。
グチャリ。
嫌な音が響く。
「ちぃ。逃したか」
だが聞こえてきたのは、ネーナの悲鳴ではなく、セレトの舌打ちであった。
目の前に倒れていたはずのネーナがであったが、鎌が当たった瞬間、多数の白い蝶に姿を変え、その場から去ったのである。
「まあいい。本命は残ってくれたようだからな」
しかし狙っていたはずのターゲットに逃げられながらも、どこか愉快そうな表情を浮かべながらセレトはこちらに視線を向けた。
「あら?ようやく相手をしてくれるの?」
苦痛を感じる身体を抑えながらリリアーナは、強い表情でセレトを睨み返す。
本調子には程遠いが、戦うことは何とか可能である。
グロックやネーナとの戦いを見るに、セレトも新しい力を得ているようのは確かである。
だが、それに対する対策も、彼のこれまでの戦い方を見ながら見えてきた。
「はっ!今の俺を倒せると思っているのかよ!」
そう言いながらセレトは、黒い鎌を振るう。
「止まれ!」
だがリリアーナは、セレトの動きに合わせて光の鎖を呼び出す。
呼び出された鎖は、セレトの四肢を捕えその動きを止める。
「それがどうしたあああ!」
だがセレトは、鼻で笑いながら口を開く、瞬間、その口から黒い腕が吐き出される。
捕らわれ、身動きが取れないセレトの身体が伸びる黒い腕は、不気味に複数の関節を曲げながら、リリアーナに向かってくる。
「光の壁!」
だが自身に向かってくる黒い腕の攻撃を防ぐために、リリアーナは、自身の周囲に光の壁を展開をする。
ガツン。
セレトの黒い腕は、展開をされた壁によってその動きを阻まれる。
「ちっ!守ってるだけで勝てると思うな!」
セレトは不機嫌そうに怒鳴りながら、口を閉じ、自身が放った黒い腕を噛み千切る。
だが噛み千切られた黒い腕は、一瞬地面に落ちると一瞬痙攣を繰り返し、そのまま黒く、多数の目が付いた人型へと姿を変える。
「ぐおおおおお」
呼び出された黒い怪物は、リリアーナの放った光の壁に抱き着き、その壁を突破しようとする。
勿論、強力な障壁、特に闇に生きる者にとって致命的な光の魔力が入った障壁は突破されることはなく、怪物は苦しみながらも、必死にリリアーナの光の壁を掴んでいる。
「無駄よ」
リリアーナは笑いながら、セレトに視線を向ける。
彼がさぞ、悔しがっているであろうと思い、その表情を一目見ようと思っての行為であった。
「さてどうかね?」
だがセレトは、余裕の表情を見せながら、こちらに笑みを向けてきた。
「どういうつもり?」
リリアーナが、疑問を口にしようとした瞬間、光の壁にまとわりついていた怪物の腕が砕ける。
瞬間、リリアーナの周囲に展開されていた光の壁は一気に漆黒の闇に覆われ、同時にリリアーナは一気に息苦しさを感じ姿勢を崩す。
「反転だよ。君の展開した壁等、こうやって簡単に崩して呪いに変えることができるんだよ」
こちらを侮蔑するようなセレトの声と共に、リリアーナの意識は、徐々に深く沈んでいった。
第二十六章に続く
部屋には血の臭いが充満する。
今しがた、頭を潰され息絶えたグロックの死体が発しているものか、それともリリアーナ自身が流している血のせいか。
むせるような血の臭いがリリアーナの思考を飲み込もうとしてくるが、彼女は、それを振り払うように顔を横に振り、改めて目の前の敵、セレトに視線を向ける。
グロックの死体を冷たく見下ろすセレト。
その少し手前に様子を見るように、セレトと対峙をするネーナ。
そしてその二人から距離をおいて、拘束こそ抜け出したものの、そのダメージから碌に身動きが取れないリリアーナ。
幸い、セレトの注意は、身動きが取れないリリアーナではなく、今自分と敵対をしているネーナに向けられているようであった。
ならば、二人が戦っている間に体力を回復させるのが定石であろう。
一応、ネーナは立場を考えればこちらの味方側の人物であったが、これまでの付き合いを考えると、彼女を無条件に信じる気持ちにはなれなかった。
「はあ!」
ネーナがどこに仕込んでいたのか、複数の短剣を様々な方角から投げながら、セレトとの距離をつめる。
「無駄だ!二度も同じ手にかかるかよ!」
セレトはそう言いながら、黒い鎌を振るいながらネーナが放った短剣を叩き落とす。
「あぁそうでしょうね!ならこれはどうしから?影縫い!」
だがネーナもそんなセレトの隙をつき、彼の影に向けて短刀を投げつける。
瞬間、短刀が光り術が発動をする。
影を地面に縛り付け、肉体の動きを封じ込める行動阻害の術である。
「はっ!その程度がやっとか。つまらない話だな」
セレトは、軽く笑みを浮かべて吐き捨てるように言葉漏らす。
「死ね!」
しかしネーナは、そんなセレトの言葉を無視して一気に首を切り落とすべき距離をつめる。
動きを封じられた状態のセレトは、そのまま碌に動きも取れず止めをさされるだろう。
「やれやれネーナ。俺は、悪魔と繋がったんだよ!」
そしてそんなネーナの動きに対して、セレトは、一声叫ぶ。
同時に、短剣によって封じられている影が変貌すると同時に、そこから黒い複数の槍が飛び出す。
「!?ちぃ!」
奇襲的に出された攻撃にネーナは、驚愕の表情を浮かべ、慌てて攻撃を避けようとするが、攻撃を避け切れず、黒い槍に貫かれ倒れこむ。
「俺の身体に宿った悪魔は、俺の力であって、俺ではない。こんなものでは縛ることはできないんだよ」
笑いながらセレトは、倒れたネーナに向けてそう言い放つ。
「さすが悪魔の力。今の貴方であれば、王国でもそれなりに重要視されるでしょうに」
重傷を負いながらも、ネーナは息も絶え絶えに応える。
「あんな国に忠誠を誓う価値があるか?俺は、自由気ままに生きさせてもらうさ」
そう言いながら、セレトは黒い鎌を振り上げる。
「その傲慢が、貴方の人生を滅ぼすでしょうね」
ネーナは、そんなセレトに笑みを浮かべて応える。
「そうか。ならさようならだ」
そう言って、セレトが黒い鎌を振り降ろした。
グチャリ。
嫌な音が響く。
「ちぃ。逃したか」
だが聞こえてきたのは、ネーナの悲鳴ではなく、セレトの舌打ちであった。
目の前に倒れていたはずのネーナがであったが、鎌が当たった瞬間、多数の白い蝶に姿を変え、その場から去ったのである。
「まあいい。本命は残ってくれたようだからな」
しかし狙っていたはずのターゲットに逃げられながらも、どこか愉快そうな表情を浮かべながらセレトはこちらに視線を向けた。
「あら?ようやく相手をしてくれるの?」
苦痛を感じる身体を抑えながらリリアーナは、強い表情でセレトを睨み返す。
本調子には程遠いが、戦うことは何とか可能である。
グロックやネーナとの戦いを見るに、セレトも新しい力を得ているようのは確かである。
だが、それに対する対策も、彼のこれまでの戦い方を見ながら見えてきた。
「はっ!今の俺を倒せると思っているのかよ!」
そう言いながらセレトは、黒い鎌を振るう。
「止まれ!」
だがリリアーナは、セレトの動きに合わせて光の鎖を呼び出す。
呼び出された鎖は、セレトの四肢を捕えその動きを止める。
「それがどうしたあああ!」
だがセレトは、鼻で笑いながら口を開く、瞬間、その口から黒い腕が吐き出される。
捕らわれ、身動きが取れないセレトの身体から伸びる黒い腕は、不気味に複数の関節を曲げながら、リリアーナに向かってくる。
「光の壁!」
だが自身に向かってくる黒い腕の攻撃を防ぐために、リリアーナは、自身の周囲に光の壁を展開をする。
ガツン。
セレトの黒い腕は、展開をされた壁によってその動きを阻まれる。
「ちっ!守ってるだけで勝てると思うな!」
セレトは不機嫌そうに怒鳴りながら、口を閉じ、自身が放った黒い腕を噛み千切る。
だが噛み千切られた黒い腕は、一瞬地面に落ちると一瞬痙攣を繰り返し、そのまま黒く、多数の目が付いた人型へと姿を変える。
「ぐおおおおお」
呼び出された黒い怪物は、リリアーナの放った光の壁に抱き着き、その壁を突破しようとする。
勿論、強力な障壁、特に闇に生きる者にとって致命的な光の魔力が入った障壁は突破されることはなく、怪物は苦しみながらも、必死にリリアーナの光の壁を掴んでいる。
「無駄よ」
リリアーナは笑いながら、セレトに視線を向ける。
彼がさぞ、悔しがっているであろうと思い、その表情を一目見ようと思っての行為であった。
「さてどうかね?」
だがセレトは、余裕の表情を見せながら、こちらに笑みを向けてきた。
「どういうつもり?」
リリアーナが、疑問を口にしようとした瞬間、光の壁にまとわりついていた怪物の腕が砕ける。
瞬間、リリアーナの周囲に展開されていた光の壁は一気に漆黒の闇に覆われ、同時にリリアーナは一気に息苦しさを感じ姿勢を崩す。
「反転だよ。君の展開した壁等、こうやって簡単に崩して呪いに変えることができるんだよ」
こちらを侮蔑するようなセレトの声と共に、リリアーナの意識は、徐々に深く沈んでいった。
第二十六章に続く




