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幕間1

 幕間1


 小隊長クロウは、イライラが止まらないまま夜の街を歩き続けていた。

 王宮での宴が終わり、その後、部下達と街のなじみの酒場で一杯やり、お休みの挨拶を言って別れた一時までは、非常に楽しい気分のままであった。


 しかしその後、自身の右手が異様に痛み出し、酒の酔いも、今日一日の楽しかった一時も全て吹き飛んでしまった。

 その腕の痛みを抑えながら、帰路に就く。

 恐らく、あの魔術師風情を殴ったときに痛めたのだろう。

 酒場で応急処置として包帯を巻き、腕を固定することで多少は痛みは和らいだが、その鈍痛は、徐々に強くなり、また耐え切れないほどの痛みへと変わりつつあった。


 あの、魔術師風情。と毒づきながら、その歩みを早める。

 もっとも、クロウは、魔術師が嫌いなわけではなかった。

 魔術自体は、戦の場で多く使われている技術の一つであり、彼の部下にも魔術の使い手がいるぐらいでもある。


 しかしクロウは、セレトという人間がどうしても好きになれなかった。

 戦の場で戦功こそ挙げているものの、元の出自が胡散臭く、自分たちのように正規の軍人というわけでもない。

 それでいて、自分達と同格かそれ以上のように振る舞うセレトの存在は、古くから王家に、あるいは貴族たちに仕え、正規の軍人としての誇りもって生きている自分たちにとって、とても容認ができるものではなかった。

 そんな男が、今日、宮殿で自由に振る舞っているのを見たとき、クロウは身の程をわきまえないその態度に言いようのない怒りを感じ、声をかけ、それでも態度を改めない彼に感情的になった結果の騒動であった。


 しばしセレトに対する怒りで、腕の痛みをごまかしていたが、それも限界に感じたクロウは、人気のない路地裏を歩いている途中、右手に巻いた包帯を外し腕の様子を見ることにした。

 そして包帯を外したクロウは、自身の右手に起きた異変に気付く。


 右手、あの魔術師を殴った際に、彼に触れていた面は、どす黒く変色をし、異様な臭気を発していた。

 クロウは、思わず叫ぼうとして、口を開いた。

 しかし、その声が出ることはなかった。


 右手が空気に触れた瞬間、クロウの右手の変色は一瞬で全身に回り、そのまま体の機能を動かすこともできないまま、クロウは塵となり、風と共に四方八方にまき散らされた。

 身に着けていた剣や服は、主を失い、がしゃんと音を立てて路地裏に転がり落ちた。

 しかしその音は、宴を楽しむ多くの人々の雑踏にかき消され、誰にも気づかれることがないまま、人がいない路地裏の中、一人の騎士が消えた。


 セレトは、自身の右手が一瞬熱くなったことで、呪術が発動したことを感じた。

 恐らく、先ほどの宮殿で絡んできた男にかけた呪術であろうか。

 しかし、そのことに特に何の感慨も示す事はなかった。

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