幕間2-22
幕間2-22
「将軍!斥候より報告が入りました!国境付近の守備隊に動きなし。このまま突き進めます!」
リリアーナとセレトが対峙している時、フリーラス共和国とクラルス王国の国境近くに動きがあった。
「よし。全軍突撃」
ヴェルナードが率いる部隊が、一気に共和国に向けて攻め込んできたのである。
完全に虚をつかれる形となったフリーラス共和国側が有効な手を打てないでいる中、ヴェルナードは着実に軍を進めていく。
現在、ヴェルナードが攻め込んでいるのは、フリーラス共和国が管理している小型の関所である。
予想もしていない突然の襲撃、部隊練度の差もあり、共和国側は、ヴェルナードの進撃を止めることはできない。
「あいつの言う通り、共和国側は随分と混乱しているようだな」
予想以上の戦果の報告に、喜色の笑みを浮かべながらヴェルナードは傍らに控える部下に話しかける。
「国内に潜ませている斥候からも報告が入ってきておりますが、あの国はもう駄目でしょう。いやしかし、この絶好のタイミングで攻め込むとは、さすがヴェルナード様」
部下達は笑いながらヴェルナードにゴマをする。
しかし、そんな部下達に合わせて笑い声を上げながらも、ヴェルナードの心中は穏やかではなかった。
ハイルフォード王国と小競り合いに進展がない中、彼の基に共和国内で進んでいる不穏な計画の話が、直属の部下から流れてきたのは一か月前のことである。
もっと、その話が入ってきたタイミングでは、ヴェルナードにとってその情報は、特段興味をひくものではなかった。
フリーラス共和国との国境境は、自身の管轄ではなかったし、そもそも、ハイルフォード王国との小競り合いがうまく進んでいない現況では、自身の管轄外に関わる余裕などなかったとい実情もあった。
だが、そんなヴェルナードに対し、その部下は、共和国に兵を送るように進言をしてきたのである。
余裕がないヴェルナードは、当然にその進言を無視していたが、ハイルフォード王国との小競り合いの進捗がない中、本国より送られてきた使者の一言によって、その考えは大きく改められることとなった。
「ヴェルナード卿。ハイルフォード王国領への進軍の任を解く。後任に引継ぎ次第、すぐに本国に戻れ」
本国の王の署名が入った命令書。
任務を失敗した司令官に対する事実上の更迭は、ヴェルナードの心を焦らせたが、最早どうすることは出来ない。
そして粛々と勅命に従い、本国への帰還を進めていたヴェルナードに対し、あの部下がもう一度進言をしてきたのである。
「ヴェルナード卿。フリーラス共和国で動きがあります。今であれば十分な戦果に繋げることができるでしょう」
ヴェルナードは、一瞬考え、その言葉に頷き返すことにした。
既にハイルフォード王国との戦いは、自身の手を離れた。
このまますごすご本国に戻ったところで、自身の責を問われるだけであろう。
それよりも、少しでも自身の手柄を上げて本国に戻る必要があった。
故にヴェルナードは、本国に戻る前に共和国に攻め込むことにしたのである。
完全な命令違反。
だが、戦果さえあげれば、誰も彼を攻めることはないであろう。
故に、ほんの少し、自身の不名誉を回復するための手段として、ヴェルナードは共和国に攻め込むことにしたのであった。
本国への言い訳は、緊急性をでっちあげれば、後から何とでもなる。
しかし今、ヴェルナードは自身の思惑とは違う報告に進んでいる現状に、若干の不安を抱いていた。
確かに共和国側の守備は、ボロボロであった。
敗戦の将ということで、ヴェルナードの手勢は決して多くはないが、現状問題なく攻め続けられている。
そう言う意味では、当初の目的は達せられたというべきであろう。
だが、その結果、ヴェルナードは引き際を見極めることができず、ずるずると共和国を攻め続けている。
ヴェルナードの身勝手な行動に難色を示していた本国も、ヴェルナードが順調に進撃を続けていると分かった瞬間、手のひらを返し、そのまま進軍を続けるようにという指示と共に、増援を送ってくる始末であった。
「閣下。次は、ここに進むべきかと」
そんなヴェルナードの悩みを断ち切るように、共和国内の情報を提供してきた、ある意味元凶ともいえる部下、ユノースが話しかけてきた。
「ここか?現在位置から若干距離があるようだが」
ヴェルナードは、ユノースが渡してきた地図を眺め、目的地と現在地を交互に指差しながら慎重に言葉を返す。
目の前のユノースが、自身への忠誠心から動いている部下なのか、それとも、腹に何か隠しているのか分からないが故の牽制であった。
「えぇ。しかし、ここが今、共和国のアキレス腱ともいうべき場所であり、今、守りが薄いのも事実です」
そう言いユノースは、笑みを浮かべる。
「コブルス。重要拠点ではありますが、今であれば確実に落とせます」
そして、ユノースに押し切られる形で、ヴェルナードは、コブルスに向けて部隊を進めることとなった。




