幕間2-20
幕間2-20
「思ったより大規模に動いているようね」
遠見の魔法で映し出されたコブルス内の様子を見ながら、ネーナは誰かに聞かせるわけでもなく呟く。
「何、あいつも必死なんでしょね。なりふり構わない様子が見て取れますな」
だが、グロックはそんなネーナの呟きが耳に入ったのか、チラリと映された映像を眺めると、つまらなそうに言葉を返す。
映像には、リリアーナとアリアナが戦う様子が映し出されている。
その場にいないセレトの様子はわからないが、リリアーナとアリアナの戦いは、ほぼ互角で進んでいるようであった。
「まあセレトは、まだ動きだしていないようだけど、このままじゃ埒があかなさそうね」
遠見の魔法に移った映像をつまらなそうに眺めながら、ネーナは心底つまらなそうに応える。
「それで、どうしますかね。一応、本国からはあの聖女はまだ必要という意見が多かったかと思いますが」
そんなネーナに対して、話題を変えるようにグロックが問いかけてくる。
最も、そのグロックが述べた言葉こそ、今のネーナにとって非常にめんどくさい案件であった。
そう、本国は基本的にリリアーナに利用価値を見出している者も多く、基本、彼女を見捨てるわけにはいかないというのが基本的な方針である。
だが、彼女を邪魔に思っている人物も一定数だが存在しており、また、そのような者は少数と言えども、それなりの地位についていた。
更に、リリアーナに利用価値を見出しながらも、その存在を疎ましいと思い、可能であれば排除をしたいと考えている者達。
そのような様々な思惑が絡み合い、リリアーナを取り巻く状況は、非常に複雑なものとなっていた。
最も、ネーナやグロック達の直接の上席達は、基本、リリアーナを守るように指示をしてきている。
その立場で考えるのであれば、当然にリリアーナを守るために動けばいいだけのように思える。
しかし同時に、その立場の面々は、セレトの始末を望んでいた。
そしてセレトの始末という一手には、その強大な力に対抗できるリリアーナという存在による協力は必要不可欠であった。
故に、ネーナ達は、リリアーナを守るという観点から最適解であろう、彼女とセレトとの接触を避けるという一手を積極的に取ることができず、同時に、リリアーナの始末という観点でみれば千歳一隅のチャンスともいえる機会であるこのタイミングも十分に活かすことができない状況となっていた。
「まっしょうがないわね。為るようになるでしょ」
やけくそ気味に呟きながらネーナは、武器を握って立ち上がる。
セレトとリリアーナの戦い。
どちらが勝とうが、こちらの都合が良い物語に繋げるために、その決着の場にいる必要があるだろう。
「グロック、司令官という立場を利用して、この砦から出せるだけの兵士をコブルスに向かわせなさい」
ため息を一つ大げさにつきながら、ネーナは部下に指示を出す。
「コブルスに?下手に送り込んでも、セレトの餌にしかならないかと思いますがね」
不可解な表情を浮かべながらグロックは真意を問いかけてくる。
「それでいいんですよ。こうなった以上、何か強引にでも動きを作った方がプラスでしょう」
つまらなそうに、リリアーナは応え、そのまま目線でグロックに指示を実行するように促す。
「やれやれ。わかりましたよ」
そう言いながらグロックは、魔術で自身の姿を変えながら立ち上がる。
その様子を見送りながら、ネーナはもう一度ため息をつく。
本当の所、始まった戦いは、どうでもいい。
だが、セレトとの戦いが近づいてきているという事実、そしてそこにリリアーナが今も関わっているという現状、それらが彼女の心を無性にかき乱した。
そして、そのかき乱された心を強引に鎮めるようにネーナは、強く息を吐き出すと、億劫そうに立ち上がった。




