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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第十九章「黒い刺客」

 第十九章「黒い刺客」


「はぁはぁ」

 肩で息をしながら、リリアーナは要塞内を駆け巡る。

 幸い大した傷は負わず、魔力にもまだ余裕はある。

 だが予想より敵の数が多い。

 セレトの魔力を辿り、すぐに彼と戦えるかと考えていたが、少々計算が甘かったようだ。


「グオオオオオオオオ!」

 叫び声と共に、黒い獅子の魔獣がこちらが潜んでいる場所に向かってくる。

 中途半端な傷は、その再生力で癒しながら、しつこくこちらをつけ狙ってきている厄介な相手。

 だがまじめに相手をすると魔獣故の生命力もあり必要以上の時間をかけてしまう。


「邪魔なのよ!」

 嫌気がさした声を上げながら、リリアーナが腕を振るうと同時に、地面に白く光る十字架の紋章が刻まれる。

 魔力を余分に消費をしてしまうが、これ以上しつこい相手に構っている暇はなかった。

 そして、十字架の光は一気に光を増し、そのまま光の刃を形成すると魔獣の首を切り落とした。


 ドサ。

 魔獣は、そのまま倒れると、しばらくピクピクと蠢いていたが、しばらくすると動きを止めた。

 光の封印術も交えた秘技という事もあり、生命力が高い魔獣であっても、さすがに耐えきることは出来なかった模様である。


 しばらくその死骸を眺めていたが、魔獣が完全に息絶えたことを確認すると、リリアーナは、踵を返し先に進むことにする。

 セレトには、大分近づいてきた。

 そろそろ決着をつけることもできるだろう。


「いやいや。どこにいくんですかね」

 だが、魔獣の死骸から漏れた声が、リリアーナの足を止めた。

 そして、その声の主に気が付きリリアーナが武器を構える前に、切り落とした魔獣の首から、多数の黒い影の手が伸びてリリアーナに襲い掛かってきた。


「ちっ!」

 短く舌打ちをしながら、光の盾を展開して、その攻撃を防ぐ。


「こそこそ隠れているなんて、卑怯者の貴方らしいわね。アリアナ!」

 そして、魔獣の死骸に向けてリリアーナは、蔑みを多大に含めた声で声をかける。


「主のために最善を尽くすのが私のスタンスなんでね」

 そんな彼女の声に悪びれもせず返すされると共に、魔獣の首の断面から黒い霧が漏れたかと思うと、その場にアリアナ、セレトの腹心が立っていた。


「最善?ここまで自分の主を没落させて、そう言える神経は羨ましいわね」

 そう言いながら、リリーナは改めて武器を構えて周囲を警戒する。


 正直、この場でアリアナと遭遇するのは予定外であった。

 周囲を敵に囲まれた状況という事もあり、消耗が激しい状況であり、そしてアリアナが放つ魔術は、こちらの死角をついて一撃を加えようと縦横無尽に襲い掛かってくる。

 故にリリアーナは、周囲を警戒しながら、彼女の動きに注意を向ける。


「あの方を追い落とした貴方がそれを言いますかね?まあご心配無用ですよ。あの方はいずれいるべき場所に戻るでしょう」

 そう言いながら、アリアナの両手から、徐々に黒い霧があふれ出してきている。

 それが、形を変えてこちらに襲い掛かるのか、それとも、他の考えがあるのか。

 リリアーナは、注意深くその動きを追う。

 同時に腕に魔力を込める。


 お互いに、にらみ合いが続く。

 だが、これはリリアーナにとって望ましい状況ではない。

 ここは敵地なのである。

 他の敵兵に発見をされるのも好ましくない状況であり、セレトに動きが割れている以上、彼が、この場から逃げ出す可能性も十分にあった。


「どいて!」

 故にリリアーナは、強引に状況を動かしにかかる。

 手を振るい、四方からアリアナに襲い掛かるように光の矢を放つ。

 それと同時に、武器を構えて一気に距離をつめて切りかかる。


「ははは!貴方こそ倒れなさい!」

 そんなリリアーナに対し、アリアナは、漆黒の穴から黒い腕を呼び出し、リリアーナの放った光の矢を叩き落とそうとする。


 ガキン。

 そして、リリアーナの振るった刃は、アリアナが展開した幾重もの黒い腕によって止められる。


「残念だったわね!」

 アリアナの声が響くと同時に、リリアーナの攻撃を防いだ黒い腕は、その刃を止めながら、四方から一気に彼女を捕えようと迫りくる。


「詰めが甘いわね」

 だがこの流れは、リリアーナの予想通り。

 彼女が周囲に展開した光の盾は、アリアナが放った攻撃を防ぎきる。


「嘘?!」

 そんなリリアーナの動きに、アリアナが驚きの声を上げる。


「はぁ!」

 そしてそのままリリアーナは、光の盾を広域に展開してアリアナの攻撃を弾き飛ばす。

 光の盾によって黒い腕が弾き飛ばされたことにより、一瞬、アリアナが展開した布陣に隙間ができる。

 その隙間を抜けて、リリアーナは、一気にアリアナと距離を取る。


「貴方と遊んでいる暇はないのよ!」

 そう捨て台詞を残し、リリアーナは、奥に見える一際高い建物に向かって走る。

 あそこから、セレトの魔力を強く感じる。

 あそこに、奴がいる。

 全速力で走るリリアーナに対し、所詮魔術師に過ぎないアリアナの身体能力では、追いつく術はないはずである。


「逃さないわよ」

 だが、アリアナが一声叫んだ瞬間、リリアーナの足元が一瞬、黒く光り、そこから大量の黒い鎖が放たれる。


「しまった!」

 黒い鎖は、そのまま一気にリリアーナの四肢を捕え、彼女の動きを封じる。

 アリアナが、先を見越して設置をしていたのであろう罠型の魔法陣から展開された術式により、リリアーナは、一転、不利な状況に追いやられることとなった。


「ようやく捕えましたよ。リリアーナ。くそ聖女様さまあ!」

 どこか狂ったような笑みを浮かべながら、アリアナは、徐々に近づいてくる。


 解呪の魔術を初め、様々な術式を展開しようとするが、リリアーナを捕える黒い鎖は、その拘束を解く様子はない。


「以前戦った時は、我が主の命もあり引き下がりましたが、今度は誰も止める者はいない。あぁこの時をどれだけ待ったことか!」

 背後のセレトがいる方角から感じるどす黒い魔力の感覚が強くなることを感じながら、リリアーナは、こちらに向かってくるアリアナを睨みつけた。


 第二十章に続く

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