幕間2-18
幕間2-18
「いやはや。不愉快な連中ですね」
アリアナが心底嫌そうな表情で言葉をこぼす。
「だが、即席の戦力としては、まあまあ役に立つだろう?」
セレトは、そんな彼女を諭すように、だが不愉快な気持ちを表情に出しながら応える。
そんな二人の目の前には、次々と下級悪魔を呼び出すゲート呼ばれる魔法陣が展開されており、次々とあちらの世界の存在をこちらの世界に呼び寄せていた。
先程殺した、ハイルフォード王国からの使者の死体を利用して生み出した簡易的なゲートは、不気味に脈動し、赤く光を点滅させながら、時折向こうの世界の存在を呼び出してくる。
呼び出された存在は、ゲートを通過する際に発動する簡易的な洗脳術により、こちらの命令に従い、敵を求めて次々と飛び立っていく。
最も、あくまで簡易的な術式による召喚。
呼び出される存在は、力も弱く、洗脳も不十分なのか、こちらに敵対こそしないものの、具体的な指示には従うわけではない。
そして、その魔力も切れかけているのだろうか。
脈動は大分弱まり、点滅する明かりも徐々に陰りを見せてきており、呼び出される存在の質と量も徐々に減りつつあった。
こちらに向かってきたリリアーナに対して、急ぎの対抗策として用意した戦力としては、最低限の役割こそ果たせているものの、それ以上のことは、とても望めそうにない成果を眺めながら、セレトはつまらなそうに舌打ちをする。
エルバドスを召喚するための研究成果の一部を応用して用意をした実験的なゲートであったが、この程度の結果では、とても実用性あるとは言うことは出来ない。
そうすると、次はどうするべきか。
「何をしている!敵襲だぞ!」
だが、そんな考え事をしているセレト達の部屋に、この要塞の司令官が慌てて転がり込んでくる。
「さっさと武器を取って、防戦に向か、え?」
脳味噌まで筋肉で出来ているような、頭の悪そうな見た目に違わない怒鳴り声を張り上げた司令官は、その足りない脳味噌にふさわしい反応の遅さで、部屋の様子に気が付く。
「ギャアアア!」
そんな間抜けそうな男を餌だと思ったのか、今しがたゲートから呼び出された下級の悪魔達数匹が、一斉に司令官に襲い掛かる。
並の人間であれば、そのまま一気に絶命し、化け物の餌になってしまうであろう。
「?!ふん!」
だが、間抜けそうな顔と、筋肉に溢れた鈍重そうな身体にも関わらず、司令官は、武器を抜いて一閃、襲い掛かってきた下級の悪魔数匹をあっけなく切り伏せる。
ズボ。
だが、その司令官が怒りを見せて、こちらに怒声を浴びせようとした瞬間、その胸を、アリアナが呼び出した闇の手が貫く。
ドシン。
憤怒の表情を見せたまま、司令官は、その筋肉質の身体を倒し絶命をしていた。
「やれやれ。最後の手駒を処分されてしまうとはな。タイミングが悪い」
心底不愉快な声で、セレトは、動かなくなった魔法陣を眺めながら愚痴をこぼす。
既にゲートは光りを失い、これ以上の稼働は望めそうになかった。
「敵襲、ということは、リリアーナの奴が、大分近づいてきたのでしょうか。どうしましょうか?」
アリアナが好戦的な笑みを浮かべながら、こちらに問いかけてくる。
「まっ、俺はもう少し研究を続けるさ。頼まれた仕事だし、そろそろ完成もするだろうしな」
つまらなそうに応えながら、セレトは手元に置かれた研究資料を眺める。
「わかりました。しかしこんな状況ですが、エルバドスの角は、こちらに届くのでしょうか?」
アリアナが疑問を問いかけてくる。
「それについては、当てがある。まあ、こっちは、俺一人で進められる。お前は好きにしてろ」
確認の資料を眺めながら、セレトは、素っ気無く応える。
「そうですか。それなら、私はこのバカ騒ぎに少し付き合ってきますね」
最も、その言葉は、アリアナが求めていた言葉である。
どこか狂暴な笑みを浮かべ、満足そうにうなずくと、アリアナは、研究室を出て行こうと入り口に向けて歩き出す。
「あぁ待て。手駒の一つぐらいは貸してやる。好きに使えばいい」
そんなアリアナを呼び止めながら、セレトは、先程殺された司令官の死体に向けて魔法陣を展開して魔力を注ぎ始める。
瞬間、司令官の死体が一気に変貌し、まるで獅子のような魔獣へと姿を変えていく。
「向こうの存在を埋め込んでおいた。死体から故、そこまでの力は持たないが、まっ、囮にでも使ってくれ」
そんなセレトの言葉に反応するかのように、生み出された魔獣は、低く唸りながらアリアナに一礼をする。
「ありがとうございます。では、後ほど」
そしてアリアナは笑いながら、魔獣と共に研究室を立ち去る。
その表情には、どこか狂ったような笑みが浮かんでいた。
彼女のリリアーナ嫌いを思い出しながら、セレトはニヤリと笑う。
状況は、少しずつ面白くなってきている。
だが、ここからが本番である。
「さて、貴方との取引も完了させてしまいましょうか。フィリス様」
笑みを浮かべながら、セレトは、研究室の奥に設置された転移の魔法陣の方に向けて声をかける。
「おや、いつから気づいておりましたか?セレト卿?」
瞬間、魔法陣が光り、その場所にはフィリスが立っていた。
「いや、あんたのことだから、どこかに潜んでいるだろうなと思ってはいただけさ。さて、それじゃあエルバドスの角の方を貸してもらえますかね」
笑いながらセレトは、その手をフィリスに向けた。




