幕間2-17
幕間2-17
「報告です!第七の門に詰めていた兵士達が何者かに殺されております!」
慌てて部屋に駆け込んできた兵士が、顔を真っ青にして報告をしている。
ボーヤンに化けているグロックは、その様子を冷ややかな目で眺めながら、その報告に耳を向ける。
「下手人の目星はついている。とりあえず要塞内の混乱を収めて守りを固めておけ」
そしてビクビクとしている兵士相手に、めんどくさそうにグロックは応える。
「その、しかしまだこの要塞内に敵がいる可能性が」
そんなグロックの言葉に納得がいかないのか、目の前の兵士は、震え声ながらも反論をしてくる。
不愉快。
そんな単語がグロックの頭の中を横切る。
傭兵上がりのグロックであれば、こんな男、刀を抜いてあっという間に首を刎ねていたことだろう。
だが今、グロックは共和国の軍人ボーヤンである。
彼は、こんな反論をしてきた位で部下の首を刎ねないであろう。
「わかっている。まあ安心しろ。本国から連絡があって数刻中に極秘に呼び寄せた援軍が到着する。そうすれば安心して裏切り者を追い立てられる」
だからこそ、口から出まかせを言う。
訪れる見込みのない援軍の存在を不用意に発言する等、部隊を預かり人間がとる手段としては、下の下であるが、もうグロックには関係はない。
その数刻が経過する前に、どうせここでの用事は済んでいる。
「援軍が?!わかりました。では、注意をして動きます」
少し疑問を感じているようであったが、とりあえずグロックの言葉に納得したのか、報告に来た兵士は、一礼をして退室をする。
「ばーか」
その背中を眺めながら、グロックは小声でぼやく。
「思ったより早く動き出したわね」
そんなグロックに対し、物陰に潜んでいたネーナが姿を現しながら話しかけてくる。
「なに、どうせいずれ動きだすことを前提とした計画だ。このタイミングで動きだしても大した問題はないはずだろ」
変化を解いたグロックは、そんなネーナに言い訳がましく応える。
そう、元々リリアーナがこちらと決別をすること自体は、計画の内である。
予定より少々早いが、特段問題はない。
「本当は、例の悪魔を呼び出す研究がもう少し進んでから始めたかったんだけどね。まあ動き始めた以上しょうがないかしら。いや、でも聖女様も本当に容赦という物を知らないのね」
ネーナは、手元にある報告書に目を向け、呆れたように愚痴をいう。
「ま、我々もいつでも動きだせるように準備をしていたわけだし、ボチボチ出発をする準備をしますかね」
乗り気じゃない気持ちを振り払うように声を出しながら、グロックは、めんどくさそうに立ち上がる。
いずれにせよ、リリアーナがセレトと接触をした瞬間、状況は大きく動き出すだろう。
そのタイミングで、こちらも干渉ができる場所に移動する必要がある。
もう少し、ここでゆっくりと骨を休めていたかったが、そうさせてくれない状況にため息をつきながら、グロックは、ネーナと共に出発の準備を始めることにする。
最も必要な物は既にそろえてある。
後は、タイミングを見てここを出るだけである。
それまでの一時で、軽く体を休めようと酒の瓶を取り、その栓を開ける。
「敵襲です!下級デーモンの群れが!」
だがその休息のための一時は、酒瓶の中身がグロックの口の中に入る前に開かれたドアから入ってきた兵士によって中断をされる。
「?!誰だ貴様達は?!ボーヤン様はどこに?!」
そして、目の前の光景、見知らぬ男女に驚いたのか、兵士は大声で叫びながら武器を抜こうとする。
ザシュ。
だが、その武器がこちらに向けられて振るわれる前に、グロックが投擲をした長剣が、その兵士の額を貫き、その言葉を止める。
「やれやれ。ゆっくりすることもできないのかね」
めんどくさそうに身の回りの品を集めると、グロックはめんどくさそうに投げた剣を回収する。
「デーモンの襲来?隣国の馬鹿がけしかけてきたのかね」
荷物の確認をしながら周囲の様子を確認すると、確かにグロックの耳に襲撃に混乱をする声が聞こえてくる。
「まあちょうどよかったわね。この混乱に紛れてさっさとここを出ることにしましょう」
ネーナは、グロックにそう話しながら、さっさと部屋に出て行く。
その様子を見ながら、グロックも一つため息をつき部屋をでる。
そう。
確かに都合がいいタイミングの襲撃である。
ただ、このタイミングの下級デーモンによる襲撃は、都合が良すぎた。
セレトが進めている上級悪魔の召喚による影響か、それとも、別の思惑で動いている勢力なのか。
いずれにせよ、リリアーナ達の動きと別に、近くの要塞が襲撃を受けたとなれば、コブルスの街でも何らかの動きが出るだろう。
この襲撃が吉と出るか、凶と出るか。
「ゲゲエエエ!」
下級悪魔特有の、耳障りな金切り声と共に、後ろから黒い翼が生えた化け物が襲い掛かってくる。
「邪魔だ」
グロックは、軽く刀を振るい襲い掛かってきた下級デーモンの首を刎ねる。
襲撃者の数は思ったより数が多いようであったが、要塞内の兵士達も、大きな混乱なくその襲撃を凌いでいた。
このままでいけば、無事に襲撃者たちを撃退できるであろう。
「不快な空間ね。さっさと出るとしましょう」
ネーナが不愉快な表情を隠さずに言葉を吐き捨てるのを見ながら、グロックは武器を構えた。
どこか重い武器を振るいながら、グロックは、セレトとの再会が近づいていることに、どこか恐れを感じている事に気が付いた。




