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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第十六章「夜を駆けた」

 第十六章「夜を駆けた」


 ソラト要塞の歴史は古い。

 フリーラス共和国と、クラルス王国の両国の争いが始まるはるか前、まだフリーラス共和国とがいくつかの小国に分かれていた時代に、この地方を収めていた豪族の一人がその前身となる砦を生み出し、その後、様々な人物、様々な勢力の手に移り、その都度少しずつ改修をされながら今日に至っている。

 故に、要塞内の区画によってその造りは大きく異なっており、今、リリアーナとラルフが歩いている区画は、比較的古い時代に造られ、そのまま放置をされていたような年季の入った造りとなっており、その古さ故か、一歩進む度に、カツーン、カツーンと、非常に高い音を響かせていた。


「前方には、誰もいなそうです。予定通りですね」

 前方を偵察したらラルフが、ほっとしたように声をかけてくる。


「元々、敵対勢力がいるわけじゃないし、この辺りの警戒がメインの任務よ。上もそれを隠す気はないようだし、末端も適当な対応になっているんでしょ」

 多少声を落としながら言葉を返し、リリアーナは、素早く先に進む。


 夜、本来であればそれなりに警戒が必要な時間帯であるが、要塞内は、静まり返っていた。

 いや、勿論多数の兵士達が今でもこの要塞内に待機しているのは事実である。

 だが、戦線から遠く離れており、敵対勢力から攻められる危険性も低いこの要塞内の兵士達は、ほとんど緊張感を持ち合わせておらず、今でも最低限の見張り以外は、仕事をサボり、どこかの部屋で酒を飲むか、トランプを楽しんでいるような状況であった。


「はあ。だがネーナ達も動いている様子がないのが意外ですね」

 古くなった扉を音が出ないように慎重に開けながら、ラルフは、疑問を口にしてくる。


「そうね。こちらの動きもどこまで読まれている事やら」

 念のため、曲がり角の手前で足を止めて、耳を澄ませてからリリアーナは、先に進む。


 ネーナ達との会合終えた翌日の夜、リリアーナはすぐに、セレトがいるという情報があるコブルスに向かうことにした。

 セレトと接触し、彼を今度こそ始末する。

 勿論、その後の出国の経路についても、ある程度の目安はつけている。

 クラルス王国経由で、以前の戦争時に用意した脱出路を使いハイルフォード王国に戻る算段である。


 少々準備の時間が短く、荒削りの計画ではあったが、セレトがエルバドスを呼び出す前に、そしてネーナやグロックの妨害が入る前に決着を付けようと考えると、そう無駄な時間をかけている余裕はなかった。


「あちゃ。さすがに出入り口には見張りがいますね」

 出入口が近づいてきた瞬間、ラルフが半ば予測していたような態度で指をさす。

 その先には、既に深く閉ざされたこの要塞の出入り口があり、五人ほどの兵士達が見張りをしている様子が見て取れた。


「ここを抜ければ外ね。多少強引にでも突破するわよ」

 そう言いながら、リリアーナは武器に手をかける。

 最も、敵は目の前の五人だけとは限らない。

 そう考えると、無駄な時間は掛けている余裕はなかった。


「了解」

 そう言いながら、ラルフも剣を抜く。


 その様子を確認し、リリアーナは武器を握っていない左手に魔力を溜める。

 先手必勝。

 さすがに門の見張りという事で、配属された兵士達は最低限の警戒はしているようであったが、その緊張は既にほとんど抜けており、そもそもその視線と警戒は、門の外に向けられていた。

 故に彼らは、リリアーナが放った光の矢に気づかなかった。

 気づいたのは、ある程度自分達に放たれた矢が近づいてきたタイミング。

 だが、その攻撃に反応をしようにも、その動きはすでに遅かった。


「ぐわあ!」

 三人の兵士が絶叫を上げて光の矢で絶命をする。

 あとの二人は、何とかギリギリ反応が間に合い攻撃を避ける。


「おらあ!」

 だが、そこまでだった。

 一人はラルフが振り下ろした刀で首を落とされ、もう一人は、リリアーナが追加で放った光の矢が額に刺さり絶命をする。


「よし一気に抜けるわよ」

 そう言いながら、リリアーナは要塞の門に向かう。

 さすがにメインの大門は無理だろうが、脇についている衛兵が出入りするための小型の扉であれば、こちらの魔術で突き破れる計算であった。


「了解です」

 ラルフも応えながら、リリアーナの後に続く。

 そのまま目の前にある戸を吹き飛ばし、二人は一気に要塞の外に抜け出した。


「どうしますか?」

 リリアーナと共に走りながらラルフが問いかけてくる。


「とりあえず、このまま街道沿いに一気に駆け抜けるわよ。ある程度距離を取ったら、一度休憩をしましょう」

 星の位置を見ながら、進むべき方角を定めるとリリアーナは一気に走り抜ける。

 要塞の方からは、何の音もしない。

 もしかしたら、今晩の事が発覚するのは、大分後になるかもしれない。

 だが、どのタイミングで今晩の凶行が発覚するのが何時になるか分からない以上、可能な限り距離を取っておきたかった。


「わかりました」

 ラルフが軽く頷き、その足の動きを速めた。

 そしてしばらく走り続けた二人の前に、コブルスの街が見えてきた。


 ここまでくれば大丈夫であろう。

 そう考えたリリアーナは、街道を少し外れ茂みの奥に向かうとラルフと向き合い作戦をたてることにした。


「さて、ここからが本番ね」

 そう言いながら、リリアーナは手元にあるコブルスの地図を広げる。

 ネーナから渡された地図は、あくまでコブルスの街中の大まかな情報を確認できるだけのものであったが、それでも、全くの無情報で動くよりは、多少のお守りにはなってくれそうである。


「そうですね」

 そう言いながら、ラルフは広げられた地図に指を置き、セレトが潜んでいるされる複数の地点の情報を確認している。


「とりあえず、こちらの動きがバレたら動きづらくなる。そうなる前に、この地点と、ここを優先的に確認するわよ」

 そう言いながらリリアーナは地図を丸めた。


「了解です」

 ラルフも頷き同意を示す。


 コブルスへの侵入経路は、既に準備されている。

 その場所へと向かいながら、リリアーナは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 セレト、今度こそ彼と決着をつけられる。


「あそこね」

 コブルスの街まであと少し。

 後は、予定通り侵入経路から街中に入り、セレトを見つけるだけ。


「はい。そうですね」

 ラルフの返事。

 その言葉のどこがおかしいか理解していたわけじゃない。

 ただ、リリアーナは直感的に異変を感じ、思いっきり前にジャンプした。


 ブン。

 瞬間、リリアーナの身体があった場所を切り裂く様な軌道で、ラルフの刀が振られていた。


「ラルフ、貴方?!」

 部下の突然の裏切りに戸惑いながらも、振り向きながら、リリアーナは彼に問いかける。

 だがラルフは、そんなリリアーナを無視して切りかかってきた。


 その部下が振り下ろしてきた刀を防ぎながらリリアーナは、ラルフの正気を失った目を見た。


 太陽が出るまで後三時間ほど。

 まだ暗闇に覆われた中で、リリアーナとラルフの戦いが始まった。


 第十七章に続く

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