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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第十五章「不意の一言が示した」

 第十五章「不意の一言が示した」


 コブルス方面へ向かう道中では、特別何事もなく、リリアーナ達の部隊は無事にコブルスの近隣にある、ソラト要塞に到着をした。

 グロックが化けたボーヤンの話では、軍上層部から、数日このソラト要塞に留まり哨戒任務にあたるようにと指示が出ているらしい。

 最も、リリアーナが探りを入れたところ、ここに人員を集めたのは、現在コブルスでセレト達が進めている悪魔召喚という儀式に対する保険の意味合いが大きいようであった。


「計画を主導しているのがフィリスとかいう第七地区の議長様なんだが、現在コブルスには、そいつの息がかかった奴らを中心とした部隊が展開されているらしい。それで俺の上に居るのは、このフィリスのまあ政敵だな。こいつらがフィリスへの牽制も兼ねて、近くに部隊を展開しているってところだ」

 夜、グロックとネーナが宿泊している司令官用の部屋を訪れたリリアーナは、グロックがめんどくさそうに話す、彼の見立てに耳を傾ける。


「その政敵やらは、コブルスへの直接的な妨害は考えているの?」

 話を聞き終えたリリアーナは、グロックに問いかけながら、頭の中で目の前の二人を出し抜く算段を巡らす。

 自身の目的を考えると、この部隊が動き出す直前には、こちらも独自に動きだしたいのが本音であった。

 この部隊が動き出すタイミングであれば、司令官ボーヤンでもあるグロックは、下手な動きは取れないため、こちらも自由に動きやすいという判断もある。


「いや、精々牽制程度だな。ただ、フィリスが予想外の動きをしたときに、すぐに対処をするための保険という側面もあるらしい」

 グロックはそう言いながら一つため息をつく。

 彼からすれば、部隊の隊長として大手を振ってセレトと対峙できる攻撃命令の一つでもあったほうが動きやすいのであろう。


「思ったより、セレトが進めているエルバドスを呼び出す計画に対するこの国の上層部の期待は大きいようよ。フィリスとかいう今の彼の飼い主もそれなりに力があるようね」

 そんなグロックの言葉をネーナがぼやきながら補足する。


「まっ、そのフィリスって野郎の目もそこまで肥えてはないんでしょうな。あのセレトを信用するなんてね。盗人の目の前に財布を差し出す様なもんだ」

 そしてグロックが吐き捨てるようにフィリスとセレトを罵倒する。


「さて、じゃあ我々はどうするべきと貴方は考えているの?少なくても、大手を振って堂々と正門からコブルスに向かえるわけじゃないでしょ?」

 そんな不毛な愚痴に苦言を呈すようにリリアーナは、二人に問いかける。

 最も、この状況でこの二人の出方を確認したいというのが本音であったが。


「とりあえず、ここに待機して様子を見るしかないだろ。秘密裏と言えども、国を挙げての作戦が進行しているせいか、こんな辺境にしては、この辺りの警備が厳しい状況だしな」

「そうね。まあリスクがある中、無理に動く必要はないわね」

 だが、そんなリリアーナの思惑とは別に、二人の口からは、諦めた様な言葉が漏れ出る、


「あら、勇んでこの地に来た割には弱気なのね。臆病風にでも吹かれたの?」

 いや二人は、明らかに本心を隠している。

 向こうもこちらの次の一手を読もうとしている。

 安い挑発をしながらリリアーナは、意味ありげに視線を交わした二人の様子を見ながらそう結論付けた。


 だが、こちらの挑発を軽く受け流している二人の様子を見るに、これ以上のやり取りは不毛な結果を生むだけであろう。


「ところで、この会談はもう終わり?私もそろそろ自分の持ち場に戻りたいのだけど」

 そう結論付けたリリアーナは、笑いながら二人との会話を打ち切ることを決め、席を立つ。


「あぁそうだな。とりあえず様子見を見て今後の方針を決めるとしよう」

 グロックもリリアーナの言葉に同意するように席を立つ。


「短慮は起こさないでくださいね。どうも貴方は、セレトに執着しすぎる気がある」

 だが、そのまま部屋を立ち去ろうとするリリアーナに向けて、ネーナが発した言葉が、彼女の足を止めた。


「それは、貴方達じゃないの?ネーナ」

 無視して立ち去るべきなのだろう。

 これ以上、無駄に話すことは、こちらの隠すべき心まで見せる危険に繋がっている。

 だが、リリアーナは、言葉を止められず、そのまま足を止めた。


「かつての自分達の主。いえ、元々貴方達はクルス卿の下にいて、仮の主である彼を裏切ることを前提に仕えていたようだったけど、何で王国の敵となった彼にそこまで執着するの?既に彼は、王国の敵となった。なのに貴方達は、王国の力を借りず、秘密裏に彼を始末しようとしている」

 一気に言葉を吐き切った後、何を隠しているの。という言葉を飲み込んでリリアーナは言葉を止めた。

 少なくても、今は同陣営に所属をしている身である。

 これ以上、無駄に争う必要はないはずである。


「言葉が過ぎたわ。失礼したわね」

 言葉を飲み込み、謝意を込めて軽く頭を下げると、そのままリリアーナは、部屋を立ち去ろうとする。


「私が彼に執着している?」

 だがネーナの口から、こちらに向けた言葉が漏れる。


「それは、私の失言ね。悪かったわね」

 こちらの言葉を蒸し返そうとするネーナに苛立ちを感じながら、リリアーナは振り向き、ネーナに謝罪をしようとする。

 だが、目の前にいるネーナの、表情には怒りも屈辱もなく、ただただ困惑の色が広がっているだけであり、それを目の当たりにしたリリアーナの言葉は、行き場を失い発されることはなかった。


「違う。私は、あの男に思う所等何もない。いや、そもそも彼は裏切り者。ただ、あの件があるからこそ」

 そしてブツブツとネーナは、呟き始める。

 その急な変わり身に、リリアーナだけでなくグロックも驚愕の表情を浮かべていた。


「悪いが、退室してくれ!」

 グロックが叫ぶと同時に、リリアーナは、そのまま部屋の外に出た。


「どうでしたか?」

 部屋から少し離れた場所に待機していたラルフがこちらに駆け寄りながら問いかけてくる。


「さあね」

 リリアーナは、適当に言葉を返しながら頭の中で今の場面を思い返す。

 何が理由かが不明だが、リリアーナの言葉が、ネーナの何かを刺激したのであろう。


 彼女(ネーナ)は、今もセレトに何らかの執着を抱いている。

 これが今後吉と出るか、凶と出るか。

 そんな思考を巡らせながら、リリアーナは、次の一手を進めることにする。


「ラルフ。明日の晩仕掛けるよ」

 隣でラルフが頷いたのを見て、リリアーナは自分の刀を強く握った。

 いずれにせよ、もう賽を振るしかないであろう。

 そう考え、リリアーナは動き出す決意をした。


 第十六章に続く

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