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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-14

 幕間2-14


「これが、貴方に割り当てられた研究室です」

 コブルスの街に到着し、一息をつく暇もなく、セレトとアリアナは、フィリスの部下という男によって街の中心部の研究所に案内された。


「必要な資料と材料は隣の部屋に。本命の角は一週間後に到着予定ですが、それまでにある程度成果を出すようにとのことです。では、よろしくお願いいたします」

 一方的に説明を終えると、男は部屋を出て行き、セレトとアリアナは部屋に残された。


「まあ何とか、必要最低限の物は揃っているようですが、さてどうしましょうか?」

 アリアナが隣の部屋を覗きながら、セレトに問いかけてくる。


「一週間ほどである程度の成果を出せと言っていたな。まあ慌てることはないだろう。とりあえず研究資料を一通り目を通すぞ」

 セレトはそう応えながら、手元に置いてあった資料を手に取り、その内容に目を通した。


「見てみろアリアナ。クラルス王国や共和国の馬鹿共と考えていたが、奴らもそれなりに人材がいるらしい。この理論を基にすれば、短時間であれば、そこまでの負担なく異界から存在を呼び出すことができるとしている。ここまでは我々だって理解している。だが、この論文によれば、その存在の力を抑えることで人間に宿らせ、存在を安定してこちらの世界に留めることができるとある。そしてこの論文の内容が正しいのであるならば、あちらの世界の存在の力を自由に調整ができるという事だろう?大したことがない技術のようだが、我々がまだ試したことがない、知り得ぬ情報も、それなりに眠っているというわけだ」

 勿論、ほとんどの資料には、そこまでの価値はないように思われた。

 だが、一部の資料に記載されている内容は、セレトがまだ触れたことがない、有益な情報が詰まっており、一見の価値は十分にありそうであった。


「おっしゃることは分かりますが。エルバドスの召喚に関してはどうしましょうか?」

 まだ主が考えていることを共有されていないアリアナは、不安を浮かべながらセレトに問いかける。

 彼女からすれば、このような状況下で、ただの興味本位だけで資料を読み漁るセレトの行動を理解等できないであろう。


「アリアナ。エルバドスについては、俺の方で考えがある。何、必要な道具も知識も、エルバドスの角以外、既に揃っている。そう心配せず、軽い休暇だと思って、この資料を確認してくれ」

 そう言いながら、セレトは目の前にある紙束をアリアナに押し付ける。


 アリアナは、一瞬何か言おうと口を開いたが、そのまま言葉は出ずに口は閉じられ、そのまま彼女の手と目は、渡された資料に向かうこととなった。


 それでいい。

 アリアナは優秀な部下だと思うが、少々短慮的な所があり、またこちらへの高い忠義もある。

 この二つの要素にセレトの計画という要素が組み合わさった時、彼女は、セレトのために独断で動きだすことだろう。

 それがこちらのプラスになればありがたいが、今この状況、彼女が下手に動くことでこちらの計画がめちゃくちゃになる可能性も高い。

 故にセレトは、アリアナに余計なことは伝えず、ただ簡単な指示だけを与えるに留めているのである。


 コンコン。

 だが、資料に向けていた集中は、突然の無遠慮なノックで途切れることとなる。


「誰だ?鍵は掛かっていないから自由に入ってきてくれ」

 集中を乱されたことに対する苛立ちも含めて、不機嫌そうにセレトは、ドアの外に居る来客に声をかける。

 だが、ドアの前に居る来客は、そんなセレトの声に反応することもなく、ドアの前に留まっていた。


「すまんが、こっちは手が離せない状況だ。用があるなら、勝手に入ってくれ」

 めんどくさそうに、外の気配に声をかけて資料に目を戻す。

 そもそも、セレト達は、こちらに着いたばかりである。

 こんな状況でわざわざ訪ねてくるような知り合いの心当たりもなった。


「セレト卿。短時間で良いので少しお話をさせてくれませんか?」

 だからこそ、ドアの前の存在が、急にこちらに向かってセレトの名前を口に出した瞬間、セレトとアリアナの反応は素早かった。


「誰だ?」

 既に臨戦態勢となり、すぐに魔術を放てるようにしたアリアナがドアに向かって問いかける。


 共和国の領土であるこの場所では、通常、セレトはバファットと呼ぶはずである。

 だが一部の人間以外は知らないセレトの名前でこちらを呼んだということは、ドアの向こうの人物が招かざる客であることは確かであろう。


「おやおやそう警戒しないでください。貴方と取引をしたいだけですっよ」

 その言葉が終わるか終わらないかの内に、ドアが蹴破られ、部屋に一気に三人の刺客が飛び込んでくる。


「無礼者!」

 アリアナが怒鳴ると同時に、彼女の手から放たれた黒色の炎が三人の刺客の内の一人を狙う。


「アイスカーテン!」

 だが、炎を撃ち込まれた刺客は、冷静に呪文を唱え、アリアナが放った炎から身を守るための障壁を展開する。


「何者だ?」

 セレトはそれを横目で確認しつつ、即興で生み出した闇の短剣を二本、相手に投げつける。


「おや、詠唱も無しに。大したものですね!」

 だが、投げつけた短剣は、同じく詠唱も無しに放たれた光の短剣で叩き落される。


「まあまあ。落ち着いてください。我々は、別に貴方と正面から戦いたいわけではありません」

 そして三人のリーダー格、セレトの闇の短剣を叩き落とした男が、こちらと距離を取りながら、交戦の意思はないと示すためか、両手を上げながら声をかけてくる。


「ほう。なら何の用だ?」

 油断なく、セレトとアリアナは、周囲の様子を探る。

 探知の魔術を使った所、近くに目の前の三人以外、誰もいないようである。

 増援の心配はなさそうであるが、こちらも助けが期待できる状況ではない。

 目の前の三人が、どれほどの使い手が分からないが、まずは向こうの出方を見ることにする。


「貴方と取引をしたいという方がいらっしゃりまして。私は、その方の使者としてここに来た次第です」

 そう言いながら、リーダー格の男が懐から手紙を取り出す。

 その手紙には、ハイルフォード王家の紋章により封がされているのが見て取れた。


「ハイルフォード王国からの使者か。俺をいらないと切り捨てておきながら、今更こっちに何の用だ?」

 セレトは、警戒をしながら問いかける。

 共和国に渡って以降、セレトは、ハイルフォード王国に多大な被害を与えている。

 そんな彼に、王国が今更友好的な使者等送ってはこないであろう。


「えぇ。貴方を嫌う、まあ正確にはヴルカルを嫌うですが、勢力からしたら貴方は、処分すべき敵でしょう。だが、王国は一枚岩ではない。中には貴方を高く評価している人物もいらっしゃるのですよ」

 だが、目の前の使者は、思いの外、こちらに友好的な態度で声をかけてくる。


「まっ、まずはこの文を読んでください。我々の主からの伝言です」

 そう言い、リーダー格の男は、セレトとの間にある机の上に手紙を置くと、数歩後ずさりをしこちらと距離を取った。


「さっ、我々は手出しをしません。どうぞ読んでください」

 そう促す男の言葉にしたがい、向こうへの警戒を維持したまま、セレトは目の前にある手紙の封を切り、中身を取り出し目を通した。


「これはどういうことだ?」

 恐る恐る紙を開き、そこに書かれた文書に目を通す。

 そして、ある程度文章を読み終えたセレトは、困惑して相手に問いかける。


「ハイルフォード王国は、近々新しい体制に生まれ変わります。その時、貴方の力を貸してほしいと我が主はお望みです」

 リーダー格の男は、そう言いながらセレトに向けて強い視線を向けてくる。


「ワーハイル閣下は、貴方の帰国をお望みです」

 リーダー格の男がそう宣言をし、セレトは、困惑の表情を隠せなかった。 

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