第十三章「黒への繋がり」
第十三章「黒への繋がり」
「情報は集まった?」
人目を忍ぶように部屋に戻ってきたラルフに対しリリアーナは、言葉少なめに問いかける。
「そこまで多くはないですが、少しは」
少々申し訳なさそうにラルフが応える。
「構わないわ。相手の目的が分かったんだし、情報は大いに越した事がないでしょ」
そう言いながら、ラルフが取り出した報告書に目を通す。
「ふうん。高位悪魔の召喚なんて、機密性の高い任務のように思ってたけど、結構情報は出回っているのね」
そして報告書に一通り目を通したリリアーナは、少々意外そうに感想を述べる。
「一応、それなりに情報統制されてはいるようですけどね。ただどうも両国の連携がうまくいっていないみたいで、漏れてくる情報はそれなりにありますね」
そう言いながらラルフは、集めてきた資料を並べてくる。
「だけど、この資料からわかるのは、あくまで共和国内で何らかの研究が進んでいるという事実だけ。肝心な部分に関する情報はないわね」
だが、手元にある資料だけでは、共和国内で進んでいる計画に関する概要だけ。
具体的な計画の進捗状況も、予定も、何よりセレトがどのように絡んでいるのかも分からない状況だった。
「その件ですが、少し別筋からの話ですが、こういう情報がありました」
そう言いながら、ラルフが別の資料をこちらに渡してくる。
「これは、共和国内のある派閥の貴族が、別の貴族を陥れるために議会に提出しようとした告発文なのですが、どうもこの書面に出てくる男がこの研究と関わっている印象があります」
そこには、共和国内のある派閥が、国家に反逆の意思があると告発する旨の報告が記載をされていた。
書面は、最近ある貴族がクラルス王国と秘密裏に接触をしている旨。
その貴族が、クラルス王国との共同研究の中で、非合法的に人体実験を行っている旨。
そして、その貴族が子飼いの部下を利用して、裏で幾人もの政敵を葬っている可能性。
書面に記載をされている内容は、一方的な言い分ではあるが、この書面に記載されている内容が本当であれば、ここに記載をされている貴族は、非常に悪辣で、かなりのやり手なのであろう。
「この告発文の作成者と思しき人物は、先日、軍事演習中の不幸な事故、どうも大砲が暴発したらしいのですが、亡くなったらしいということで、この文書は、結局表に出なかった模様です」
つまり、この告発は、表に出ておらず、この人物は、いまでも共和国内でその敏腕を振るっているのであろう。
ラルフの報告通りであれば、自身の敵対の動きも事前にキャッチして対策を取っている、かなり慎重な人物であることは容易に想像がついた。
「なるほどね。このフィリスという男が貴方は怪しいと考えているの?」
報告書に一通り目を通したリリアーナは、笑いながらラルフに問いかける。
「えぇ。彼の子飼いの部下ですが、次のように書かれております。えー、共和国人の国籍を持っているように記録されておるが、当然その戸籍は偽造をされており、バファットという人物については、実像がつかめない。ただ、少なくとも我が国と敵対をしていた国家から流れてきた人物なのは確かであるが、そのような人物を一定以上の地位の部下にするために必要な共和国法の第八ー19に違反をしているの確かである。この第八ー19は、一定の要件を満たす人物を要職に就ける場合は、事前に許可を取る必要があるという法律のようですな」
ラルフは、そのまま、バファットの特徴、疑惑について読みあげていく。
それによると、バファットは、それなりの力を持っている魔術師であり、フィリスの命に従い、暗殺や討伐等の任務をこなしているということで、またフィリスの命を受けて国内の敵対勢力の排除にも動いているらしいのは確かであった。
だが、その容姿に関する記述、戦い方に関する報告は、リリアーナにある人物を呼び起こす内容であった。
「なるほど。確かに魔術の使い方、その特徴はセレトに似ているわね」
報告書を読み終えたリリアーナは、一息をつきながらラルフの憶測を追認する。
「そうでしょう。恐らくセレトが絡んでいる可能性が高い人物かと思われます。そもそもこのフィリスという男も、今我々が追っている召憑術に絡んでいる可能性が高く、マークをしておく価値は十分にあるかと思います」
ラルフは、我が意を得たとばかりに、一気に口数が増える。
その様子を呆れたような目でリリアーナは眺める。
王国内で警備隊を務めていただけあり、ラルフはそれなりに経験も積み、優秀な人物であることは間違いではなかったが、どこか短絡的なところがあり、自分が思い込むと強引にその方向に話を持っていこうとする悪癖があった。
そもそも出所が怪しい、怪文から始まった今の話の内容だけでは、良いところ五割程の可能性の確信しか持てないのは確かであり、彼ほど簡単にリリアーナは、その内容を鵜呑みにするわけにはいかなった。
だが、他に何か考えや当てがあるわけではない。
むしろ、この勢いで話を進めていった方が可能性が高いかもしれない。
そう考え、リリアーナは、興奮をしているラルフに対して軽く同意の会釈を送り口を開く。
「そうね。その可能性もあることから何らかの対処は進めた方がいいかもしれないわね。」
そう話しながらもう一度報告書に目を向ける。
「この人物がセレト卿であれば、話が早く進みそうだし、いずれにせよ、このフィリスという人物も、どうやら我々が追っている術式に何らかの繋がりもあるそうだしね」
フィリスとセレト達に関する報告書を読みながら、リリアーナは一息をつく。
この国に来たばかりの頃、自分は何を追っているのか、いまいちわからないまま動いていた。
だが、ここでセレト達との繋がりが明らかになった今、リリアーナの目には、この国で行うべきことが一つの道として見えてきていた。
「異国の地で決着をつけることになるのかしら。楽しくなりそうね」
そう笑いながら、リリアーナは、セレト達との戦いについて考えるのであった。
第十四章に続く




