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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-11

 幕間2-11


「エルバドスという名前をご存知で?」

 フィリスは笑いながらセレトに問いかける。


「正教会神話の一節に出てくる悪魔だろう?『それは第三位階級ながら、強大な力を持つ』だったか?」

 セレトはつまらなそうに応える。

 興味はないが、どこの国にも一定の影響力を持つ宗教に関する最低限の知識は抑えてはいるつもりであった。


「そう。第三位階級ながら、単純な力のみであれば第一位階級の悪魔を超え、下剋上も行える存在。それがエルバドスです」

 フィリスは楽しそうに、エルバドスの名前を口ずさみ、その横にいるプパトルは、その様子を落ち着かない様子で見つめている。


「そんな神話の産物が、どう関係があるのですかい?」

 正直、セレトはこの手の問答は嫌いであった。

 どうせ種明かしをするなら、無駄に勿体ぶらず、さっさと答えを言ってほしいものである。


「おや、失礼。では、クラルス王国の召喚の技術については、どこまでご存知ですか?」

 質問に応えているように見せながら、わざとらしく新しい問いかけをフィリスは口に出す。

 非常に腹立たしいやり取りではあるが、セレトはそれを飲みこみ、問いかけに応えることにする。


「黒い翼を持った存在を使役しているという事ぐらいは知っている。そこまで強力な魔物の使役はできなったように思うがな」

 そう話しながら、数年前のクラルス王国への出兵を思い出す。

 あの頃、何度かクラルス王国が用意したと思われる人外の戦力とは何度か衝突をしたが、そこまでの脅威ではなかった。


「えぇ。そもそも彼ら自身の技術はそこまでの物ではありません。生贄を用意し、そこにあちら側の存在を憑依させることで強引にこちらに定着をさせる。その程度の物です」

 フィリスは笑いながらセレトに分かり切ったことを述べる。


「なるほど。それでそんな欠陥術式しか持たない奴らどうしたというのかね」

 既に見聞きした情報をつまらなそうに聞き流しながら、セレトは問い返す。

 彼の言葉でクラルス王国で化物に変貌した住民に襲われたことを思い出すが、この話の流れがよくわからず、セレトはフィリスの次の言葉を待つ。


「さて、貴方は欠陥術式と言いますが、あれは、あれで使い道があるようですよ。これを」

 そして、こちらを試す様な態度のフィリスがこちらに投げつけたのは、一冊の古びた書籍だった。

 それを促されるままに手に取り、セレトはページをめくってみる。


「なるほどね。贄と別に媒体があれば、ある程度は呼び出す存在をコントロールできるという事か。最も、この術式自体未完成だな。これでは安定しない」

 一瞥した結果は、面白いが、使い物にはならない。

 術の制御ができておらず、こちらを望む結果を呼び出せる可能性はかなり低いであろう。

 特に高位の存在をこの程度の術式で呼び出すことは、到底望めないであろう。


「さすがです。よくご存知で」

 フィリスのわざとらしい笑いが深くなり、セレトは益々苛立ちを募らせる。

 この話の終着点がよく分からないまま、話が進んでいることも不気味である。


「それで、こちらに何をしてほしい?」

 だからこそ、会話を強引に進めようとこちらから仕掛ける。


「貴方に、この術式を完成させてほしい」

 冗談。

 こんな古びた書籍一冊を渡して、その術式を完成させる等、セレトの専門外の話である。

 多少の魔術の心得はあるからこそ、概要こそわかるが、そのような依頼は自身の本分ではない。


「無理だな。この手の術式は、作成者でないと分からないことが多すぎる」

 だからこそはっきりと断る。

 だが、フィリスは、そんなセレトの言葉に失望をすることもなく、より笑みを強くした。


「なるほど。では、これを確実に召喚させるためのお手伝いをしてほしい」

 そしてフィリスは、懐から、古びた布袋を取り出し、その中身を机に出した。


「これは?」

 明らかに魔力を持った何者かの角。

 少なくとも、まともなものではないだろう。


「エルバドスの角です。これを媒体に使い、貴方にエルバドスをこちらの世界に呼び出してほしいのです」

 フィリスは笑いながら、セレトに本命を依頼してくる。


「ほう。神話に出てくる第三位の悪魔を呼び出せと。よくこんな物を手に入れたものですな」

 とてつもない依頼に呆れながらセレトは応える。

 最も、フィリスの依頼自体は、エルバドスの角が本物であるならば決して不可能なものではない。

 それを媒体に、こちらにその存在を召喚するということ自体は、セレトの魔力を持ってすれば決して難しい話ではない。


「クラルス王国から提供があったのですよ」

 そんなセレトに対して、フィリスはさらりと重大な情報を漏らしてくる。


「クラルス王国?こんな希少性の高い物をよく提供してくれるものですな」

 少々驚きながらセレトはフィリスの言葉の意味を考える。


 クラルス王国とフリーラス共和国は敵対関係こそないものの、特別に親しいというわけではない。

 そんな二国が、このような形で繋がっているという事は、セレトにも少々予想外の話であった。


「何、これから面白い祭りが始まるんですよ。その準備としては向こうとしても安い物ですよ」

 そうしてフィリスは笑いながら、セレトにもう一冊の書籍と、丸められた羊皮紙を差し出してきた。

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