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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第十一章「不信と不満」

 第十一章「不信と不満」


「それで首尾はどうでしたか?」

 拠点に戻って早々、ネーナがこちらを碌に見ずに問いかけてくる。


「上々。無事に聖女様との同盟を結ぶことができましたよ」

 その言葉にわざとらしく笑いながら応えるのは、ボーヤンに化けたグロックである。


「そう。予定通りね」

 ネーナは、書類から目を離さずに、だが愉快そうに話す。


 その様子を憎々し気にリリアーナは眺めるが、口から言葉を出すことはない。

 この国に入ってから、いや、フォルタスの誘いに乗って以降、自身の思惑とは別の方向に話は進んでいる。

 だが、それに抗ったところで、どうしようもない状況に、いつの間にか自身が絡めとられている以上、流れに身を任せるしかない。


 しかし、頭の中の考えと思考では、そうするしかないと理解していながらも、彼女の感情は、今置かれているこの状況に対する強い反感を主張していた。

 例えば今日の会談では、ネーナに言われるままに、グロックが化けたボーヤンと、秘密裏に会っている共和国のある派閥の上層部の前で密約を結ぶ羽目になったが、本国に無許可で結んだ敵国との密約など、明らかな厄ネタである。

 だが、すでに作戦は進んでおり、軍人である彼女が抗えない上の立場の意向も働いている。

 自身が危険なレールに乗せられていることは重々に承知していたが、彼女にここから降りるという選択肢はなかった。


「まあこれで、我々がこの国の中枢である程度自由に動く大義名分を得られたわけね。悪くない状況」

 ネーナは笑いながら、書類から顔を上げる。


 その笑顔を一睨みし、リリアーナはため息を一つついた。


 共和国の一派閥と結んだ密約の内容は大まかに二つ。

 一つ目は、リリアーナ達がセレトを捕えるために動くにあたりこちらを可能な範囲でこちらをサポートする。

 勿論、これは秘匿性の高い作戦であるため、共和国内でも知っている人間が少ないことから、出来ることは限られるようであり、そこまで期待できるものではないようである。

 そして二つ目は、こちらに援軍としてボーヤンの他に、多少の手勢は貸し出すという旨。

 最も、その手勢というのは、こちらの監視も兼ねているのは明らかではあったが。


 共和国からは、セレトが今潜んでいるであろう場所の情報と、その場所までの安全なルートの提供があった。

 その情報を各自で確認をしている中部屋の戸がノックされ、一人の小柄の男が入ってきた。


「失礼致します。サラオルと申します。皆様方を指定の場所まで案内をするように申し付けられ、この場にやってきました」

 部屋に入るなり、小柄の男は、こちらを一瞥すると淡々と挨拶をしてくる。


「あら、貴方が先の会談で話に出た、そちらの援軍?」

 サラオルと名乗った男を一瞥しながらリリアーナは問いかける。

 一見、小柄ながら、隙がない動きでこちらを見渡すこの男は、それなりの使い手であるようであった。


「えぇ。ボーヤン様と協力し、貴方達の道案内と国内でのサポートを命じられております。よろしくお願いいたします」

 全く表情がないまま、サラオルは応える。

 だが、その表情がボーヤンに向けられた時、どこか訝し気な様子で動くのをリリアーナは見逃さなかった。


 この男は、目の前のグロックが化けたボーヤンのことをどこか疑っている。

 そんな視線に気が付いていないのか、目の前にいるグロックはわざとらしい猫なで声でサラオルに話しかけている。


「それで、いつ出発できるの?」

 ネーナがそんなサラオルとグロックの間に割り込みながら、サラオルに問いかける。

 その表情から彼女も、目の前の男に多少の警戒はしているらしい。


「今晩中に、こちらにもう少し手勢が到着し、各所への根回しも完了する予定ですので、明日の昼頃には出発できるかと」

 サラオルは、ネーナに無表情な視線を向けながら見込みを伝える。


「わかった。ではこちらも準備を進めるわ。出発の準備が出来たら呼びに来てちょうだい」

 その言葉に対し、ネーナは笑いながら応え、部屋の戸を指差す。

 それはあまりに露骨な排除の意思であったが、サラオルは特段何も話さず部屋を出て行った。


「それで、ここからどうするの?」

 サラオルが部屋から離れたことを確認してリリアーナはネーナとグロックに問いかける。

 勿論、盗聴を考えて声は落とし、室内に簡易的な結界は展開をしての話であったが。


「言葉通り。あの男に案内をしてもらえばいいでしょう。そうすれば我々の目的は自然と達成できるでしょ」

 ネーナは、事投げにも応える。


「俺は、サラオルと共に共和国軍の一員として動くさ」

 めんどくさそうに変化を解きながらグロックがぼやく。


 だが、この二人の態度に、リリアーナの我慢はついに限界を迎えた。


「私たちの目的は何?貴方達は、私に何をさせたいの?共和国とこんな繋がりを裏で持ち、何が目的なの?」

 一度溢れた言葉は止まらず、彼女の感情に押されるように流れ続ける。


「俺達の目的は単純だよ。魔術師セレト様の確保。あんたにとっても悪い話じゃないだろ?」

 グロックは、呆れた様な口調で建前を述べる。


「ふざけないで。たかが反逆者一人のために、ここまで動く理由なんてないでしょ!貴方達は、何を考えているの?」

 故にその言葉をかき消すように、強い言葉でリリアーナは叫ぶ。


「フォルタス卿が我々に命じている。それだけで理由なんて十分でしょう?」

 そんなリリアーナにネーナがつまらなそうに応える。


「王国が我々に望み、その命を実行する。それだけの話ですよ。駒である我々に考えなど必要ない」

 どこか冷めた様な声でネーナの言葉は続く。


「それでも、私は納得したいわ」

 感情を抑えろ。

 自身の身体の中の怒りを鎮めながらリリアーナは冷静な声を発する。

 うまく誘導すればネーナから必要な情報を得られるかもしれない。


 そんな彼女の考えに気づいているのか、ネーナは少々思案するように視線を落として黙り込む。


「まっいいでしょう」

 そして、しばらくして顔を上げた彼女は、リリアーナに向けて承諾の意を示す。


「ここまで来たら、どうせ抜けられない。ならば、私が知っている話をお伝えしますよ。聖女様」

 どこかあきらめた様な態度で、ネーナの話は始まった。


 第十二章に続く

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