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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2-9

 幕間2-9


「裏切り者と名高いお前が、まさかここまで来ることができてるなんてな」

 一人の男がグラスを傾けながら嫌味半分、驚き半分で語り掛けてくる。


「でっ、用件は?我々は、あまり時間がないのでね。用件は手早く済ませてほしいものだ」

 別の男が、事前に配った書類を流し読みしながら、つまらなそうに問いかけてくる。


「まあまあ。彼も長旅で疲れているのでしょう。並の神経では、こんな場所にはいられないでしょうしね」

 三人目の男は、こちらを気遣うような内容でありながら、明らかに嘲りを混ぜた言葉を笑いながら口に出す。

 その言葉を聞いて、この部屋にいる者達が追従のように不快な笑い声をあげた。


「それで、用件は?」

 だが、そんな笑い声も、この部屋のリーダー格の男の一声で一斉に収まった。


「わざわざ危険を冒して、この場所に来たんだ。それなりに重大の案件なのだろう?」

 リーダー格の男は、周囲を威圧するような声で、ただ視線だけはこっちに向けながら語り掛けてきた。

 周囲にいる者達は、先程までの喧騒が嘘のように、大人しく男の言葉を聞き、この会話の流れを見守っていた。


「えぇ。それなりには有益な情報ですよ」

 その言葉を受けとめ、一息をつくとユノースは、ゆっくりと言葉を返した。


 ハイルフォード王国内のある貴族の別荘。

 裏切り者の自分が滞在するには、かなり危険なこの場所で、ユノースは集まった者達にそんな様子を微塵も見せずに落ち浮いた様子を維持する。


 今日集めた貴族達は、どちらかと言えば、この国でも下級に位置する小者たちが中心であった。

 小者であるが故に、自分のような裏切り者の話に乗ってきてはいるが、こういう奴等は保身に長けている。

 故に、こちらが弱気な態度を見せれば最後。

 躊躇なく、こちらを売り飛ばすための算段を立て始めるだろ。


「ほう。そこまで言うならば期待しておこう。それで本題は?」

 リーダー格の男、他の奴より多少は大物ともいえる人物は、威厳を保ちながらこちらに問いかけてくる。


「では、お言葉に甘えて。ハイルフォード王国に我々の動きがバレているようです」

 ユノース笑いながら、ここ最近キャッチした情報を伝える。


「なんだと!」

「貴様!どうなっている?」

 一瞬でハチの巣つついたような騒ぎが巻き起こる。


「どの程度だ?」

 だが、そんな騒ぎを鎮めるように、一際冷たい声で、リーダー格の男が問いかけてくる。

 どこか怒気を感じるその声によるものか、この場にいる全てのメンバーが一斉に黙る。


「大したレベルではありません。私がこの国に訪れている点、そして誰かと接触をしている点がバレているようです」

 笑みを浮かべ、ユノースは淡々と報告を続ける。


「情報源は?」

 冷たい声が答えを知っているかのような冷めた態度で問う。


「こちらを探っている密偵を捕えて吐かせました。あぁ大丈夫ですよ。皆様の情報までは漏れておりません」

 笑いながら、そのまま嘘をつく。

 密偵を捕えたのも事実。ユノースがこちらに訪れていることがバレているのも事実。そして王国の優秀なスパイは、ユノースが誰と接触をしているのかも、割り出していたようであったが、そこについてはあえて触れないでおく。

 最も、まだこちらの目的迄は割れていない模様であったが。


「ふん。だが我々の身に危険が迫っているのは確かだな」

 苛立ちを見せながら、リーダー格の男が吐き捨てる。

 それと同時に周囲に控える他のメンバーからも同意の声が漏れてくる。


「えぇ。だからこそ私が今日来たのです」

 そういいながら、ユノースは、一枚の書面を出す。


「これは?」

 ユノースの出方を見るようにリーダー格が問いかけてくる。


「我が国で、貴方達を今以上の爵位で受け入れる旨の確約書です。ヴェルナード、我が国の将軍の一人による印も押してあります」

 笑いながらユノースは告げる。


 その言葉にこの場にいる者達は安堵の声を漏らす。

 最もリーダー格の男を初めとした、数名の疑り深い者達は、こちらに懐疑的な視線を向けてきているが。


 勿論、この場においては、後者、こちらを疑っている方が正しい。

 確かにヴェルナードから使える者達を引き入れることについては、前向きな話が出ていたが、ここにいる者達でその基準を満たしていると言える者は少ない。

 そもそも、敵国の人間が出しているこんな紙一枚を信じるような者達を、好んで使う必要もない話である。

 ここにいる者達の多くは、命が残っていれば上出来というレベルである。


「それで、この厚遇を受けるための条件は何かね?ユノース殿」

 皮肉交じり、かつ探るようにリーダー格がこちらに問いかけてくる。

 その眼には、こちらを信じている様子等微塵もない。


「もう少しですよ。もう少し経てば、こちらから合図を出します。その時、我々の進軍に合わせて王都に攻め込んでほしいだけです」

 だが、彼らはもうこちらにつくしかない。

 ハイルフォード王国では、既に出世の道が断たれている、あるいは頭打ちに入ったような連中である。

 今以上の出世、力を求めるのであれば、もはや主君を変えるしかない話であろう。

 故にユノースは、彼らに笑いながら仕事を伝える。


「もう少し?」

 リーダー格は、今度は純粋の疑問でこちらに問いかけてくる。

 彼がこちら疑っているのは明らかである。

 だが、引き返す道も無いが故に、こちらから詳細な情報を得ようとしているのであろう。


「いえ、共和国で面白いことがおきそうでしてね。そのタイミングで動こうと考えているのですよ」

 今度はこちらが、相手の動きを探る番である。

 共和国内で、胡散臭い動きが起きていることは、ユノースの情報網に引っかかっていた。

 それを、目の前の王国の貴族達がどこまで知っているのか、確認をしておいて損はないであろう。


「共和国?あそこが我々とどう関係をしてくるんだ?」

 だが返ってきたのは、予想以上に疑問を含んだ回答であった。


「何大した話ではありませんよ。まあもう少し待ってください」

 勿論、目の前の男たちが腹芸をしている可能性もある。

 だが、この反応を見るに、共和国内で何が起きているかを知っている者はいなそうである。

 ここでの収穫はこれぐらいで十分であろう。

 そう考え、ユノースはこの場から立ち去ろうとする。


「まあいい。そう言えばヴルカル卿はお元気か?」

 だが、その言葉が目の前の男から発せられた。


 一瞬、その言葉にユノースは言葉を失い固まった。

 だが、すぐに表情を取り繕い声の方に振り向いた。


「えぇお元気ですよ。とても」

 いつものような笑みを浮かべた表情。

 だが、その言葉にはどこか感情が感じられなかった。

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