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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第九章「裏取引」

 第九章「裏取引」


「この男は?」

 無駄と知りながらも、どこか他人事のように演じながらリリアーナは問いかける。

 最も、セレトの顔を確認して以降、自分の声色が変わっていることは、ほかならぬ自分自身がよく理解をしていた。


「バファット。と名乗っている男です。まあ貴方達側にとっては、セレトという名前の方が馴染みが部下以下と思いますが」

 ボーヤンは、つまらなそうに応える。

 最も、その表情には、狡猾そうな本性が見え隠れをしている。


「あー、リリアーナ様といいましたかな。つまらぬ駆け引きはやめましょう。貴方と彼の因縁も関係はよく知っておりますよ」

 なおも反論をしようとするリリアーナを制するように、ボーヤンは、言葉尻を強く声をかぶせ、こちらの言葉をかき消した。


「まあ、時間の無駄にしかならない議論はやめましょう。それで、我々に頼みたい事とは?」

 そんなリリアーナとボーヤンの間に割って入るように、ネーナが口を挟む。


 その様子を見て、リリアーナは、これ以上の言葉を発することをあきらめ首を振る。

 すでにこの場の主導権は自分にはない。

 ネーナがどう考えているかは分からないが、少なくても、彼女とボーヤンに繋がりがある。

 つまりこちらの手札が割れているトランプと同じ。それならば、必要以上に逆らわらず、成り行きに任せるしかないであろう。


「わかったわ。それでこっちに何を求めているの?」

 降参といった態度で、リリアーナはボーヤンに問いかけ、同時に机の上に置かれたセレトの写真に目を向ける。


 かつての自身の敵対者。

 王国を追放された後の行方は、はっきりとしていなかったが、写真の服装等を見る限り、共和国で比較的それなりの立場にはいるのであろう。

 そんな立場の人間に関する、それも敵国側から持ち掛けられた話。

 厄ネタであることは確かであろう。


「何、大した話ではありません。我々、あぁここでいう我々とは、共和国上層部と思っていただいて、結構です。我々は、バファット殿にこの国から出国して頂きたいだけですよ」

 ボーヤンは、わざとらしい笑みを浮かべながらこちらに語りかけてくる。

 その笑みからは、『出国』という言葉の裏の意味、即ち生死を問わずにこの国から居なくなってほしいという本音が透けて見える。


「あら?私達としては、彼がどこにいようが関係はないし、別段メリットがないお話ね」

 こちらもわざとらしい笑みに合わせて、『論外』という意味も込めて、リリアーナは言葉を返す。


 勿論、本音としてはセレトと接触を持ちたいという本音があった。

 だがそれは、このような交渉の駆け引きの材料ではなく、また他の者達にも周知された状況ではなく、秘密裏に行われるべきであった。

 そうでないのであれば、むしろ何か気取られかねないような余計な接触は避けたいというのが本音であった。


「いや、彼の身柄を確保することは、我々には、十分価値があることですよ」

 だが、そんなリリアーナの思いは、ネーナの言葉によって打ち砕かれる。


「おやおや。仲間割れですか?勘弁してほしいものですね」

 ボーヤンが呆れたような声を上げる。


「貴方に、我々の行動方針を決める程の権限は与えたつもりはないですよ。ネーナさん」

 そんなボーヤンを無視し、リリアーナは、思わぬ流れ弾を放ったネーナを睨みつける。


「黙って頂けないですかね?聖女様。これが、本来の任務なんでね」

 しかしグロックがそんなリリアーナに刀を向けて、吐き捨てるように言葉を放つ。


「貴様!一兵士が無礼な!」

 その様子を見たラルフが、激昂し後ろで武器を抜こうとするが、それを手で制する。

 ここで争ったところで、こちらを利することは何もない。


「グロック、ネーナ。どういうつもり?」

 冷静に、あくまで平静を装いながら、リリアーナは二人に問いかける。

 勿論、身体の中には怒りが渦巻いているが、それを見せるつもりはない。


「もうご理解されているでしょう?我々の本来の任務は、この犯罪者の引き渡しを受けること。もちろん、両国にとって利益があることです」

 そんなリリアーナに対し、ネーナは笑いながら応える。


「私たちは、昔逃した反逆者を捕えることができる。それはこっちの利益ね。だけど、共和国にとっての利益は何?こちらが有利すぎる取引で怪しすぎるわ」

 グロックが突きつけた刃物を肌で感じながら、リリアーナは疑問を口にする。


 そう、現在セレトは共和国の一員であり、この国の貴重な戦力であるはずだ。

 それをこちらに無条件に差し出すような取引等、何か裏があるとみてしかるべきであろう。


「彼の存在は、この国では持て余すんですよ」

 そんなリリアーナの疑念に対し、ボーヤンが口を挟む。

 その表情には、先程までの笑みはもう浮かんでいない。


「あの男、大分野心家のようでしてね。それなりの力を持ち、野心もある。故に従順な振りをしながらも、裏では牙を研ぎ続けている。そして、それを利用しようと余計な争いが生じようとしている。そんな毒素、我が国には不要なのですよ」

 これまでのどこかふざけたような口調ではなく、淡々と、だがどこか毒を含んだ口調でボーヤンは、言葉を吐き捨てる。


「だから、我々に差し出すと?虫がいい話ね」

 挑発の意味も込めて、リリアーナは呆れた様な口調で応えてみる。


「えぇ。それがこの国にとって一番プラスになりますので」

 だが、その挑発に乗らず、ボーヤンはまたわざとらしい笑みを浮かべて返答する。


「そんなにあいつが嫌いならば、この国を追放すればいいだけでしょ。貴方の意思はこの国の上層部の意思なのでしょ?一国に逆らってまで、この国に残れるような力、あいつは持っていないと思うけど」

 それでも、セレト追い出すために、わざわざ敵国の人間を、自国に招き入れるようなリスクを冒す意味は分からない。

 まだ何か隠していることがあると直感したリリアーナは、強い言葉でボーヤンに問いかける。

 そんなリリアーナの視線を受けたボーヤンは、言葉を発せず、そのまま彼女の目を強く睨み返してきた。


「彼を利用しようとしている存在がやっかいなのですよ」

 にらみ合いに負けたのはボーヤンであった。

 途中でリリアーナの視線に耐え切れなくなった彼は、視線を逸らし、ぼやくように言葉を絞り出した。


「バフォット、いえ、セレトは、その力を求めている者と手を組んでいます。だがセレトは、彼らをも出し抜き、自分のために動き始めている」

 ボーヤンの口から漏れているのは、紛れもない国家機密であった。

 自身の国の恥部、そして弱味を見せる。


「勿論、セレトを利用している者達もそれは理解している。理解していて、彼を飼いならせるつもりでいる。しかし、我々はこの動きに介入はできません。だが、このままではどちらに話が進むにせよ、取り返しの付かない事態になるのは確かです」

 そんな彼の思いは、その心労を感じさせるような低い声でリリアーナ達の耳に届く。


「だからこそ、貴方達にお願いをしたいのです。我が国と関係がなく、彼と因縁がある貴方達に」

 そうしてボーヤンは語り終えると、深く溜息をついた。


「なるほど。では取引を始めましょうか」

 そして、ボーヤンの言葉の意味を考慮し始めたリリアーナの横で、ネーナが笑いながら言葉をかけてきた。


 第十章に続く

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