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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第七章「弱味と繋がり」

 第七章「弱味と繋がり」


「この部隊は、ワーハイル様から直接指示を頂いていたはずなんだけどね」

 リリアーナは、イラつきを隠そうともせず、眉間に皺を寄せてネーナが差し出したワーハイルの印が入った書類を奪い取る。

 そしてその内容を読み進めるにつれ、その眉間の皺はより深くなっていった。


「なるほど。私は信頼をされていなかったというわけ?」

 書類に書かれていることは単純。

 部隊のメンバーが別行動をすることを容認する旨、そして、リリアーナは、他のメンバー達の動きに関わらず予定通りに動くように命じるという書類。


「つまり私に囮をやれということでしょ。貴方達が好き勝手をやった尻拭いを押し付けられるなんて、素晴らしいお役目ね!」

 怒りは、彼女の言葉を強め、声も高らかとなる。

 最も、目の前にいるネーナは、そんなリリアーナを見ても、静かに笑みを浮かべている。


「おやおや、そう捨てたものではないですよ。立ち去って行ったあれも、我々も、そして貴方もそれぞれの役割と目的があります。まあ心配しないでください。私たちは比較的、貴方と近い目的ですからね。協力はできますよ」

 そして一通りリリアーナの言葉を聞き流したネーナは、こちらを宥めるような口調で、わざとらしく語りかけてくる。


「私の目的?私は、国のため動いているだけだけど?」

 そんなネーナの話し方、内容、そのどちらもがリリアーナの怒りを増幅させる。


「そうですね。でも、セレト卿ともう一度会いたくないですか?」

 だが、ネーナは、そんなリリアーナの言葉を軽く流しながら言葉を返す。


「セレト?彼は敵でしょ?」

 ネーナの言葉に違和感を感じ、どこか警戒をしながらも、何も気にしていないかのように言葉を返す。


「えぇ我々にとっては敵でしょうな。ですが、貴方にとっては如何なものでしょうかね?」

 しかしネーナは、そんなリリアーナの警戒の壁を潜り抜けて、背筋が冷たくなるような言葉を投げかけてくる。


「私?私にとっても敵よ。彼に殺されかけたのは、彼の部下だった貴方達はよく存じているでしょ?」

 勿論、そんな様子を気取られないために、リリアーナは皮肉も込めてネーナに問い返す。


「えぇ勿論。ただ、あのセレトですからね。そして、相手は貴方ですからねぇ」

 だが、ネーナはそんなリリアーナの言葉も意に介さず、わざとらしい笑みを浮かべながらこちらに言葉を放つ。


 明らかにこちらを侮蔑する、非礼が過ぎる言葉。

 しかしリリアーナは、その言葉により、一瞬、言葉を失った。

 先のセレトの戦いの中で、彼と結んだ密約。

 彼と持つことになった繋がり。


 勿論、その繋がりは、先の戦いの中で有耶無耶に霧散をした。

 セレトは、そのまま自分の下から立ち去り、自身の配下となることはなかった。

 だが、自身は、セレトの身体に印を刻み、一つの繋がりを生み出し、その繋がりは、今も生きている。


 自身の弱味、スキャンダルともなり得る、国に追われている犯罪者との繋がり。 

 そのことを指摘するようなネーナの言葉は、リリアーナの不安を更に掻き立ている。


「おや、どうされましたか?顔色が悪いようですが」

 こちらの表情を覗き込むようにしながら、わざとらしくネーナは、こちらを気遣う。


 そのこちらを気遣いながらも、明らかに悪意に満ちた表情は、リリアーナの思考を奪っていく。

 それと同時に、目の前の女について、何も知らない自分に気が付く。


 元々、セレトの部下として行動していた頃、彼女は、必要以上に表に出ず、セレトのサポートに徹していた。

 セレトが失脚した後、彼の父であるクルスの元に戻ったという話は聞いていたが、特段目立つような動きもなかった。


「まあ、我々の立場も考えてくださいよ」

 そう笑いながらネーナは、その場を立ち去っていく。

 その様子をリリアーナを言葉を発することもできず見送るしかできなかった。


「リリアーナ様、どうしましたか?」

 そして戻ってきたラルフが声をかけるまで、リリア―ナは、その場所で呆けていた。


「いえ、何でもないわ。グロックはどうだった?」

 故に、リリアーナは、慌てたようにラルフに対して報告を求めようとする。


「一応、少し離れた場所に待機はしておりますが、どうも様子がおかしいようでして」

 ラルフの報告は、どこか考え込むようにぽつりぽつりと出てくる。


「様子がおかしい?」

 そんな彼を急かすようにリリアーナは、問いかける。


「いえ、あの三人から離れた直後は明らかに怒りを見せていたのですが、少し離れた瞬間一気に冷めたように落ち着きを取り戻しておりまして、そして、なんかブツブツと言っているんですよ」

 リリアーナの言葉が強く感じられたのか、ラルフは、まとまらないままに思いついた言葉を発してくる。


「呟く?」

 そんな彼を誘導する必要がある。

 故にリリアーナは、彼に問いかける。


「はっきりとは聞こえないのですが、あれと決着をつけるのは自分だ。という風なことをブツブツと言っていました」

 自信がなさそうにラルフは応える。


 その答えを受け、リリアーナは、考え込む。

 グロックには、グロックの目的があるのだろうが、それは、結局何なのか。


「後、聞き違いかもしれませんが、セレトと言っていた気もします。確信は持てませんが」

 そして、恐る恐ると、ラルフは報告を続ける。


 セレト。

 その名前をまた聞くことになる。


 既にバラバラとなった自身の部隊。

 だが、その部隊をどこか結びつけるように影がちらつく、自分と因縁があるあの男の存在は、リリアーナの心に深い影を落としつつあった。


 第八章に続く

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