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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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第四章「結成と出陣」

 第四章「結成と出陣」


「待っていたよ。リリアーナ卿」

 フォルタスの声が響く。


「突然の収集で申し訳ありません。しかし状況が思いのほか動いており、早急に集まる必要があったのです」

 その隣に立つクルスが、言葉ほど申し訳なさを感じさせない声で補足をする。


「いえ、大丈夫です。それで急ぎの話とは?」

 応えながらリリアーナは周囲を見回す。


 場所は、王宮の一室。

 物々しい警備で、関係者以外は簡単に入ることは出来ない会議室。


 今朝早々にフォルタスが寄こした伝令から、急ぎ王宮に集まるようにリリアーナに連絡が入ってからまだ二時間も経っていない。

 だが、リリアーナが部屋に入室した時には、既に彼女以外のメンバーが全員揃い、こちらへ一斉に視線を向けてきた。


「ふむ。先日話をした、例の共和国への調査の件だが、今すぐに出発をしてもらうこととなった」

 周囲を見回しているリリアーナに対し、フォルタスは軽い口調で重大なことをさらりと述べる。


「今すぐですか?」

 急な話にリリアーナは当然の驚きを口にする。


「左様。ここに必要な人材は揃っている。この後、簡単な顔合わせ後、すぐに出発をしてもらう」

 フォルタスは、笑いながらリリアーナに応える。

 そのこちらの反論を一切許さない、断言ともいえる言葉にリリアーナは少々面食らう。


 確かに以前渡された書面には、この共和国関係の指令は、王国上層部からの直接の命令であり、原則最優先に取り組むべきということは記載されていた。

 だがここまで一方的に、そして急激に物事が進むとは、リリアーナは想像もしていなかった。


「不服かね?」

 その瞬間、フォルタスの後ろから低く、だが力強い声が響く。


「!ワーハイル殿下?!いえ、そのようなつもりはありません!」

 その声の主にリリアーナは驚き、驚愕の声を上げる。


 ワーハイル。

 ハイルフォード王国の現国王の弟であるゴナの第一子。

 国内で絶大な権力を持つ王族の一人の急な登場に、リリアーナは一瞬、思考が止まる。

 王族がここまで直接的に関わっているということは、この任務は、自分の予想以上に大事なのかもしれない。


 完全に虚をつかれたリリアーナは、そのまま必死に考えをまとめようとする。


「それはよかったよ。この任務、君の助力が前提であるからな。では、こちらに来たまえ」

 だがワーハイルは、リリアーナに思考する暇も与えずに話を進めていく。


「はい。わかりました」

 いずれにせよ、もう逃げ場はない。

 覚悟を決めたリリアーナは、ワーハイルの言葉に従いながら、彼の前にひざまずく。

 それと同時に、この場に集まった者達を一瞥をする。


 自身の後ろに控えていたラルフは、こちらの動きに合わせて姿勢を低くする。

 クルスは、感情を表に出さない無表情のまま、ワーハイルに視線を向けている。

 その横に控えていた、グロックとネーナは、それぞれ前に出て、リリアーナと同じように、ワーハイルの前にひざまずく。

 そして少し離れた場所に立っているフォルタスの基からも三名、顔が分からないように深くローブを被った男女が前に進み出てワーハイルの前にひざまずいた。

 その様子をフォルタスの横の控えていたリオンは、どこか冷めた目で見つめている。

 いや、よく見るとリオンの視線は、グロックに向けられていた。

 だが、彼の主であり、この集まりの発起人でもあるはずのフォルタスは、どこかつまらなそうにこの様子を見つめていた。


「さて、貴公らに命ずる。リリアーナ卿を隊長としたこの部隊でフリーラス共和国に向かい、デポル将軍を倒したもの見つけ、始末しろ」

 ワーハイルは、このような形で集まり、自身の前にひざまずく、七人に対し、厳かな声で命令を告げる。


「御意!」

 その言葉を受けて、リリアーナ達は一斉に答える。


「隠密に移動するために術をかけた馬車は用意した。一時間後に出発する。最終確認を急げ」

 次に前に出たクルスが実務的な指示を与えてくる。


 この男は、今目の前に組織されたメンバーが、自分の息子を殺すための部隊ということを認識しているのだろうか?

 ふとリリアーナの頭に疑問が浮かぶ。

 だが、クルスの強い視線と、グロックの品のない笑い声を見て、リリアーナは、その答えに辿り着く。

 目の前の男は、自分の息子を始末することを理解しており、そのことを否定もせず、むしろ望んでいる。


 セレトが彼と不仲であることは、リリアーナは十分に知っていたが、そうであっても親子の情を感じさせない目の前の男、そして嘗ては仕えていたはずの主君を始末することを心待ちをしているような元部下であるネーナとグロックの表情は、彼女の心にどこか虚しさを感じさせた。


「リリアーナ卿。少しいいかね」

 だが、リリアーナの思考は、急に割り込んできた声によって強制的に途切れさせられる。

 いつの間にか近づいてきていたリオンが、周囲に聞こえない程の声でリリアーナに囁く。

 見ると、先程まで周囲にいた他のメンバーは、各々の準備のためこの場を離れていた。


「なんですか?リオン卿。あまり時間はない状況なのですが」

 彼に合わせるような抑えた声でリリアーナは応える。


「一つ、グロックには気をつけなさい。彼は、自分のためだけに動いています」

 そんなリリアーナに対し、相変わらず抑えた声でリオンは話す。

 同時に、グロックに対し強い一瞥を向ける。


「グロック?」

 リリアーナは、リオンの言葉に問い返す。


「それからフォルタス卿が送り込んだ者達も信頼しないように。共和国においては、貴方は貴方自身だけを信じなさい」

 だが、リオンは、リリアーナの言葉に答えを返さず、そのまま一方的に話し終えるとそのままこちらを離れていった。


 一人残されたリリアーナは、一瞬その後を追おうとし、すぐに思い直し出発の馬車が待つ場所へと歩を向ける。


 リオンの言葉を決してリリアーナが理解できたわけではない。

 だが、グロック、そして自身の主であるはずのフォルタスの三名の部下に対する彼からの警告は、リリアーナの心に深く刻まれる。


 共和国へ向かう部隊の隊長は自身が引き受けることとなっているが、この様子では、決して周りを信頼すること等できないであろう。


 そもそも、この作戦自体、怪しい要素が多すぎた。

 フォルタスにクルス、そしてワーハイル。

 ただでさえ黒い噂が絶えない三名がこの作戦に深く関わっている。

 そして、皇位継承権からは離れていると言えど、王族が関係をしている任務。


 様々な要素がリリアーナに警戒を鳴らしていた。

 だが、それでもリリアーナは、この作戦に関わりたかった。

 自身が逃した男、セレトが関係しているという話を聞いた時点で彼女の頭の中に撤退の文字はなかった。

 生き延びるためにリリアーナは、今一度武器の様子を確認するのであった。


 第五章に続く

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