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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第二部 聖女は泥の中を藻掻き続ける

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幕間2ー2

 幕間2ー2


 「いよぉリオン。久しぶりだな」

 グロックのだみ声が響き、リオンは嫌気がさした表情を一瞬浮かべたが、それを仕舞いこみ振り向く。


 「あぁグロック。どうしたんだい?」

 笑みを浮かべながらも、話を早く切り上げてほしい旨を言外に示すような不調を感じる声で、リオンは応える。


 貴族に仕え、それなりに収入がある者が食事をするには、少々品がない王都のこの酒場にリオンが訪れたのは、知り合いに会わず、ゆっくりと飲みたい気分だったからである。

 だが、酒場に入ってすぐに一杯目の酒が入ったタイミングでグロックが店に入ってくる様子が目に入り、その選択を後悔することとなった。

 そして仕切り直すため、グロックに気付かれぬ内に席を立とうとするが、戦場で鍛えられたグロックの目から逃れることはできず、今、リオンは、グロックと向き合うこととなった。


 「何、店に入ったら顔見知りがいたから声をかけさせてもらっただけだよ。おい、エールを二杯注いでくれ!」

 強引にリオンと共にテーブルを挟み座りこむと、グロックは、近くにいたウエイトレスにチップ込みの金貨数枚を渡しながら注文をする。

 ウエイトレスは、思わぬ収入に顔を崩しながら、急いで酒を取りに向かう。

 そしてリオンが、席を立とうとする暇もなく、二人の前にそれぞれ杯一杯に注がれたエールのジョッキが置かれた。


 「まっ、遠慮せずに飲んでくれ。これぐらいはこっちが奢るさ」

 そう言いながらグロックは、自分の杯を持ち上げて乾杯のジェスチャーをすると、そのまま中身を口に運ぶ。

 リオンは、その様子を見てため息をつくと、目の前に置かれた杯を自分の手元に引き寄せ口をつける。

 冷たく冷えており、うまいはずの酒であったが、リオンの気分が乗らないためか、その味は口の中で泥水のように感じられた


 「それで、一体何の用だい?」

 そんな酒に少し口をつけただけで杯を置き、リオンはグロックに問いかける。

 勿論、言外にこの会話が不愉快であることをグロックに示すことは忘れない。


 「おや、昔の同僚相手に釣れない態度だな。旧交を温めようという考えはないのかい?」

 グロックは、そんなリオンの態度に全く動じる様子もなく薄ら笑いを浮かべながら応えてくる。


 その言葉に軽い苛立ちを感じながらも、リオンは、愛想笑いを浮かべてグロックの言葉を聞き流す。


 確かにリオンは、グロックと共に一時期セレトに仕えていた時期があった。

 最も、共にセレトに忠誠を誓っていたわけではなく、彼の内偵のために仕えていただけであったが。


 だが二年前の事件でセレトがハイルフォード王国から逃亡後、グロックは、クルスの部下であるネーナに仕え始めた。

 その一方リオンは、一時期クルスの下に仕えていたが、その後すぐに前々から接触をしていたフォルタスに引き抜かれる形で雇い主を変えており、そのまま二人の接点は徐々に無くなっていった。


 フォルタスとクルス。

 古王派の重鎮であるフォルタスに対し、どこの派閥にも属していない特殊な立場の貴族であるクルス。

 この繋がりが薄い二人の関係性が、そのまま今のリオンとグロックの関係であるはずであった。


 「なるほど。だが我々は既に仕える主を異にしている。必要以上に接触をすることは、互いの立場上、宜しくはないだろう?」

 故にリオンは、その関係性を強調する意味も込めてグロックに気怠そうに応える。


 「はっ何を今さら言うかね」

 だが、グロックは鼻で笑いながら、その言葉に否定で返す。


 「あんただって知ってるだろう?共和国方面で起きている問題。なんせ、あんたのボスがご執心をしている話だしなぁ」

 グロックは、笑いながら声を上げて話し続ける。

 だがその内容は、様々な目があるこのような場で語るにはまずい方向に向かいつつあった。


 故にリオンは、グロックに注意を促そうとし、口を開きかける。

 だがその瞬間、どこか焦点のあってないグロックの目に気づき、その口を閉じる。


 目の前の馬鹿は、既に酔っ払っている。


 その事実に、リオンは愕然とし、同時に今の自身が置かれている状況に対する不安が一斉に身体中を駆け巡る不快感に身震いをする。


 グロックは、大分酒には強い男であり、先程から飲んでいる程度の量では酔いつぶれるような男ではない。

 つまり、他の店で既にかなりの量を飲んでこの店に来ているのであろう。


 このような状況下で、下手なことを口走ると、目の前の馬鹿な男は、更に余計なことを話し出す危険がある。

 そのことによって引き起こされる不利益に自分が巻き込まれてしまうリスクが、今、リオンに襲い掛かりつつあった。


 「すまないが、ワイン、そうだな赤で適当なやつを一杯頼めるか?」

 そのように頭の中で思考を一巡させたリオンは、まずは近くで聞き耳を立てている(と思われた)ウエイトレスにチップ込みの金貨を投げて注文をする。


 ウエイトレスは、思わぬ収入に喜色を浮かべながらカウンターに酒を取りに向かった。

 それと同時にリオンは、周囲に視線を向けて様子を伺う。

 周りの席には客はまばらであり、またこちらを気にしているような人も見当たらない。

 そのことに一安心をし、リオンは改めて、目の前にいるグロックに視線を向ける。


 目の前のグロックは、リオンが酒を頼む様子を、わざとらしい笑みを浮かべて眺めている。 


 「ワイン?こんな酒場で出てくるものが、君の口に合うのかね?」

 そしてリオンに対し皮肉を込めたような口調で語り掛けてくる。

 話題からずれたその言葉にリオンは怒りより安堵を感じ、一息をつく。


 セレトに仕えていた頃、傭兵上がりのグロックは、裕福な商人の家に生まれ、学があり、それなりに作法も心得ていた育ちのいいリオンを非常に煙たがっていた。

 特に酒は飲めればいいという思考であるグロックにとって、酒は嗜むものとしてお上品に飲んでいるリオンは、お高く留まった嫌な奴だったのであろうし、リオンも当時から学も品もないグロックをどこか小馬鹿にしていた。

 だからこそ、こんな安酒場でワインを頼んだリオンに対し、グロックは予想通りに嫌味を言いだし、リオンはしばらくの間、その言葉を聞き流すことにした。


 「さて、そろそろ失礼をしようか」

 しばらくして届いたワインを飲み干し、グロックの嫌味が途切れ途切れになったタイミングで、リオンは、そう切り出した。

 これ以上この不快な場所に残る理由もなく、その後も何杯も様々な酒を飲み干したグロックは机の上に突っ伏すように倒れていた。


 「そうかい。なら俺もご一緒をしよう」

 だが、そのまま立ち去ろうとしたリオンの腕をグロックが強い力で掴む。


 「おい、何をする?」

 一瞬、抗議の声をあげようとするリオンだったが、目の前のグロックの様子を見て言葉を止める。

 先程まで酔いつぶれていた男とは思えない、しっかりとした表情でグロックがこちらを見ていたからである。


 「いいか、リオン。あれは俺の獲物だ」

 酒臭い息を吐きながら、囁くように子声でありながらも、はっきりと聞こえる声でグロックはリオンに語り掛けてくる。


 「誰のことだ?」

 その言葉の先の予想はつきながらも、リオンは相手を刺激しないよう、落ち着いた態度で応える。


 「デポル程の男を潰せる存在なんて、そうはいないはずだ。しかもあの共和国なんぞにはな」

 リオンの問いかけを無視したようなグロックの言葉は、周囲に聞こえないような声と言えど、リオンの耳によく響き、同時にその内容が周囲に漏れていないか、リオンの胃を痛めることとなる。


 「いいか、奴は俺の二年前からずっと獲物だ。だからこそ、お前のボスが裏で、教会のアバズレ達と動いているあの件は、看過できないんだよ」

 言葉を続けるグロックの目には、憎しみや怒りのような強い感情が見えていた。

 だからこそ、リオンは、グロックを刺激しないよう、黙ったまま彼の次の言葉を待つ。


 「セレトは、共和国にいるんだろ?なら俺を共和国に送れ。お前の推薦でな」

 そしてグロックは、リオンの腕をつかむ力を強めて、そのまま一気に要求を述べる。

 その目には強い決意が宿っている。


 「セレトが共和国にる?それは未確定情報だぞ」

 半ば予想をしていたグロックの言葉に対し、リオンは、その気持ちを抑えさせるようにとりあえず定型的な答えを返す。

 最も、その言葉をグロックも、リオンも信じていなかったが。


 セレト。

 ハイルフォード王国から逃げ出した魔術師。

 かつての二人の仮の主。

 彼は、今、共和国に亡命し、その力を王国に向けている。

 国の上層部は、昨今の共和国に展開した部隊の被害状況から、そのことを確信し、その対策のために動きだしているのは事実であり、そのための部隊の編成も始まっていた。

 そして、特に積極的に動いているのが、リオンの今の主であるフォルタスであることは、ある程度の立場の者達には、公然と知られている情報である。


 「駆け引きはやめろ。俺は、あの女が信じられないだけだ」

 だからこそグロックは、リオンに強い言葉で返す。

 「いいか。俺はあの男についてよく知っている。そしてあの男の命を狙っている。それだけ理由があれば十分だろう?」

 そして、リオンに有無を言わさぬ口調で、リオンが口を開く前に次の言葉を口から出す。


 その言葉に気圧されるように、リオンは、ただただ頷いていた。

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