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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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第七十七章「違和感」

 第七十七章「違和感」


 「あぁ!我が主!お許しをください!」

 アリアナが不意に上げた声は、リオンとグロックの耳に届き、二人の視線と首を動かす効果をもたらした。


 「おや?ユラはしくじりましたか?口ほどにもない」

 リオンは、余裕を持った表情で淡々と話しながら武器を構える。


 「久しぶりだな大将。まさか、そっちから来てくれるとは思わなかったよ」

 グロックは、不敵な笑みを浮かべる。


 セレトは、そんな二人を無視し、奥に囚われているアリアナへと視線を向ける。


 「おや、大将?余所見はやめてほしいですっね!」

 そんなセレトに対し、グロックは、武器を持って切り掛かる。


 「ちっ勝手なことを!」

 そう言いながらリオンも、グロックと共にセレトに向かって動きだす。


 そんな様子をセレトは、ただただ無感動表情で眺めている。

 満ち溢れている魔力を感じながら、セレトは、迫ってくる二人に視線を向ける。


 刀がこちらに迫ってくる。

 その動きはスローに見える。


 目の前に迫ってくるグロック。

 その動きに合わせて、攻撃を加えることは容易いであろう。


 だが、セレトは、その攻撃を放つことはしなかった。

 ただ、二人の攻撃を、自身の身体を黒い霧に変えて受け流し、そのまま自然に前進をする。


 「?!霧化か!だが、その手は読んでいるぜ!」

 長い間共に戦っていたからであろう。

 グロックは、すぐにセレトの手の内を読み、それに対応をした術式を込めた短剣をこちらに向けて投げつける。


 霧化を無効化し、こちらの肉体を的確にとらえる一撃。

 だが、その一撃は、セレトの霧の身に触れる前に、セレトの影から伸びた黒い腕によって叩き落とされる。


 以前のセレトでは、決してできなかった芸当。

 身体の変化と、影の実体化という二つの術の併用。

 確かな力の高まりを実感しながら、セレトはそのまま前に進む。


 後ろでグロックと、リオンが何か騒いでいるのが聞こえるが、それを無視してセレトは、目の前、アリアナに視線を向ける。


 「申し訳ありません。私のせいで余計なお手間を…」

 アリアナは、心より後悔をしているような表情を浮かべながら、セレトに謝罪を続ける。


 そんな彼女をセレトは一瞥し。そのまま硬質化させた影により彼女を拘束している物を破壊する。


 「あぁ!ありがとうございます」

 アリアナは、感謝の意を示す。


 「退くぞ」

 そんな彼女を見ながら、セレトは、短く一言述べる。


 「はっはい!」

 そんなセレトの言葉に、アリアナは、慌てて応える。

 最も、その声にはセレトの判断に対する疑問が満ちている。

 何故、自分達の敵を倒そうとしないのか。


 だがそのような考えを見せながらも、アリアナは、すぐに逃走の準備を始める。


 「逃がすかよ!」

 グロックは、セレトに再度襲い掛かろうとする。


 「黙れ!這いつくばっていろ!」

 だが、セレトは、そんなグロックに対し冷たい声をぶつける。


 同時にグロックとリオン、それぞれの影から一気に黒色の鎖が伸び、二人の身体を地べたに拘束をする。


 「レジストは、かけていたつもりですが、それを打ち破り我々を捕えるとは。いやはや、めんどくさい存在となりましたな」

 地面に押さえ付けられた状態でありながら、リオンは、飄々とした声で応える。


 そう、影の鎖は、相手の影から生み出すことはできる。

 だが、魔力の心得がある者であれば、自身の影に干渉をされないように魔力により防ぐことも可能である。

 しかし、セレトの今の魔力は、そのようなレジスト等、何の障害にもならず、相手の影に干渉ができるようになっていた。


 「だが、私たちを殺すことは出来ない。それは情なのか、甘さなのか。いずれにせよ、それは、いつか貴方にとってマイナスとなるでしょうな」

 動けない二人に背を向け、そのまま立ち去ろうとするセレトに対し、リオンは、最後の捨て台詞を吐く。

 自分が殺される心配をしていない、安堵とも安心とも言える声色の声は、セレトにどこか違和感を感じさせたが、それは、そのまま消え去り、セレトは、そこから立ち去った。


 既にアリアナが馬車を捕まえていた。

 御者を魔術で拘束し、脅し、何か交渉をしている。


 アリアナがこちらに振り向き頷く。

 セレトは、それに頷き返し、馬車に乗った。


 「どうして、彼らを見逃したのですか?」

 そして街道を馬車で移動しながら、大分街から離れたタイミング、アリアナがセレトに尋ねてきた。


 「なぜ?さあな」

 セレトは、その言葉にぶっきらぼうに応える。


 だが、その心には疑問も多かった。

 あの二人は、セレトより明らかに弱い存在であり、自身の敵であった。

 故に、あの場で止めを刺すことは充分に可能であるはずであった。


 しかし、セレトには、そんな考えは浮かばなかった。

 ただ、殺す必要はない、逃げるために拘束だけをすればいい。

 その考えが、最良であると頭に浮かび、行動を支配していたのである。


 だが、あの二人は、これからも自分達を追い続けるであろうし、恐らく、自身にとって強大な敵になりうる存在であろう。

 本来であれば、あの場で止めを刺しておくのが正しい対処であるはずであった。


 それだけない。

 リオンのあの余裕に満ちた表情。

 あれは、セレトに害されることが絶対にないと、確信をしている表情であった。


 自身の思考がおかしくなりつつある。

 そのことに違和感を感じながら、セレトは、一つ思いついた行動をとることにする。


 「おい。少しいいか?」

 横柄に、馬を操る御者にセレトは声をかける。


 「はぁ。何でしょうか。旦那様」

 アリアナに無理やり同行をさせられた御者は、不満と恐怖が半々に混じったような表情で、こちらを振り向く。


 ぐしゃり。


 そんな御者の頭を、セレトは影の手を利用し握りつぶす。

 御者は、そのまま声を上げず絶命をする。

 同時に、コントロールを失った馬が異変を察知し、暴れようとするが、その動きを影の鎖で強引に止める。


 「何か、不備がございましたか?」

 アリアナが、少々驚きの表情を見せながらセレトに問いかける。

 最も、その表情には、目の前の御者の生死に対する興味はなさそうであったが。


 「いや、何でもない」

 何でもないような調子で答えたセレトの言葉で、アリアナは納得をしたのか、頷き口を閉じた。


 そう、人を殺すことができないわけではない。

 ただ、あの二人を殺すことができなかった。

 それが、一番問題がないということを理解していたにも関わらずである。


 この状況に一抹の不安を覚えながら、セレトは、馬の拘束を解き、魔力で馬を魅了すると、そのまま自身の目的地へと歩かせ始める。

 何かが変わりつつある。

 そのことにセレトは不安がありながらも、何もすることができないまま、状況が進むに任せるしかなかった。


 第七十八章へ続く

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