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【完結】魔術師は嘲笑の中を足掻き続ける ~嫌われ魔術師は、策謀と陰謀が渦巻く王国で、その嫉妬と羨望、そしてその力を聖女暗殺に利用されるが、それを受け入れ自身も利用することにした~  作者: 成吉灯篭
第一章 魔術師は嘲笑の中足掻き続ける

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幕間74

 幕間74


 「さて、もう一度問います。グロック、貴方は何故ここに?」

 リオンの言葉は、柔らかい物腰で語られているが、その本質は、グロックを責める物である。

 故に、その表情は笑みを浮かべているものの、その目は、異様に冷たい視線を浮かべている。


 「おいおい。これは、俺の獲物だぜ?」

 グロックは、同じように笑いながらも、全く笑みを浮かべてない目線をリオンに向ける。

 最も、リオンに銃口を向けられている以上、その笑みは、どこか引き攣った物であったが。


 「クルス様よりご命令を受けたでしょ?ここは、貴方の管轄ではありませんよ」

 グロックの言葉に碌に反応を示さず、リオンは、囚われたアリアナに視線を移しながら問いを続ける。


 「これば、俺の方で手に入れた情報だ。俺の仕事だ!」

 管轄という言葉が癪に障ったグロックは、怒りの感情を入れた言葉を放つ。


 確かにリオンの言うように、この場所は自身の管轄外のエリアである。

 だが、自身に命じられた任務は、セレトの探索である。

 その手掛かりを見つけ、その情報の真偽を調べること自体は、そこまでの越権行為ではないはずである。


 「そうですかね?ただ貴方は得た情報の報告をしてませんがね。それでも自身に責任がないと言えるのですかね?まあいいでしょう。とりあえず、その娘の身柄をよこしなさい」

 呆れた様な口調で、リオンはアリアナを指差しながらグロックに指示を出す。


 「ふざけるな!こいつを捕えたのは俺だ!こいつの身柄も俺が自由にさせてもらう!」

 リオンに対して、グロックは怒りの声を上げて抗議の意思を示す。

 最もその声には、どこかあきらめの意思が混ざっていたが。


 そう、グロック自身、命令違反をしていることは充分に理解をしていた。

 もっとも、命令違反であろうと、自身の手で手柄を立てれば、十分に挽回できる程度の物であるがゆえ、グロックは、セレトの発見と、その討伐という功を立てるために命令違反を承知に動いていたのである。

 それは、自身の出世のためというより、過去に受けたセレトという存在に対するトラウマと、自身のプライドの問題であったが、同時にグロックの納得のための戦いを求めているが故のものであった。

 だが、例えそうであっても、必要以上の命令違反は、自身の立場をより悪くしていくだけである。

 故に、グロックは、この指示に不満を持ちながらも従わざるを得ないことを理解している。


 「なるほど。じゃあ、アリアナの件も含め君の好きにしたまえ」

 だからこそ、リオンのその返事は、グロックにとって予想外の物であった。


 「ほう。どういう風の吹き回しだ?」

 リオンの言葉に内心驚きながらも、その驚きが表情にでないように気持ちを抑えながらグロックは応える。


 「君は、君の好きなようにしたまえ、という話さ。何、我々には、他の手がある」

 そういいながらリオンは、構えた銃を下す。


 「それに殺さないなら、彼女についても好きにすればいいさ」

 笑いをかみ殺すような表情で、リオンは、グロックに語り続ける。

 その言葉に、不快な響きをグロックは感じた。


 「セレトは、どうするつもりだ?」

 故にグロックは、リオンに探りを入れる。


 「あぁ彼の居場所なら、もう我々の方で掴んでいますよ。こちらで対処を致しますよ」

 それに対し、リオンは、軽く応える。


 「貴方は、好きにすればいい。ただ昔の同僚だった誼で忠告をしますと、既に上の命令を無視している以上、余計なことはしないで大人しくしているのが得策だと思いますがね」

 そしてそのまま、グロックに対し、軽蔑が籠った口調で語り掛けてくる。


 そう、たしかにリオンの言う通りである。

 グロックは、実際、上からの指示を無視している。

 その現場を押さえられている中、更なる命令違反を行うことは、決して賢い選択ではないであろう。

 そしてリオンの言うことが事実であれば、彼らは、既にセレトの居場所を掴んでいるということである。

 そのような中、こちらが下手に手を出したとなれば、先の命令違反と合わせて、グロック自身の完全な失脚へと繋がるだけであろう。


 結論。

 これ以上は、動くべきではない。


 そう考えたグロックは、深く溜息をつき、どこか勝ち誇ったリオンを見る。

 リオンは、決して武官として優秀な人材ではなかったが、馬鹿ではなかった。

 そのリオンが、これほどの自信を示しているということは、セレトには、それなりの刺客が向けられていると考えるべきであろう。


 決着をつけるという自身の願いが叶わぬこと、望めない戦いであると悟ると共に、自身のセレトへの執着が急激に萎んでいくのを実感する。

 唯一の収穫は、セレトの片腕でもあるアリアナを捕えることができたことであろうか。

 この功績は、命令違反があることを考慮しても、多少は評価されるであろう。


 「貴方達程度が、セレト様に勝てるとでも?」

 瞬間、これまで黙っていたアリアナが声を上げる。

 魔力を封じる枷で捕らわれている状況でありながら、その声はよく響き、グロックとリオンに届く。


 「ほう。貴方は、我々がセレト如きに負けると考えていると?」

 リオンは、侮蔑の表情を浮かべ、軽蔑をしたような声で応える。


 「犬どもが。お前らがあの方の名前を語るな!」

 アリアナの冷たく、怒りが籠った声がリオンに向けられる。


 「好きに吠えたまえ。彼を始末する算段はついているのでね」

 そしてリオンは、笑い声を漏らしながら、アリアナに唾を吐きかける。


 その侮辱を正面から受け止めながら、アリアナは、冷たい目線をリオンに向ける。


 「リオン、こいつは今ここで殺した方がいいんじゃないのか?」

 その視線を見たグロックは、ふと背中を這う冷たい何かを感じ、自然と言葉が口から出る。


 「はっ?なぜだい?こいつは、王国でまだ使い道がある。反乱者の公開処刑というな。ならば無駄に殺す必要はあるまい」

 笑いながらリオンは、グロックの言葉を退ける。


 「そうかい?なら、それでいいが」

 グロックは、リオンの言葉を受けて引き下がる。


 そう、こちらは命令違反をしている立場。

 必要以上の進言はするべきではないだろう。


 そんな二人をアリアナは、どこか冷めた視線で見ていた。

 その視線は、グロック、リオンの両者ではなく、その奥にある、何かに向けられていた。

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